【記事47610】富山県で続く不気味な群発地震(島村英紀2016年9月30日)
 
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富山県で続く不気味な群発地震

 富山市議会では政務活動費の不正請求問題で10人の市議が辞職して大騒ぎになっている。一方、富山県の地下でも不思議な事件が起きている。
 それは8月の末から頻発している群発地震だ。
 どれも小さな地震で、最大のマグニチュード(M)は約2。近くでないと身体には感じない大きさだ。
 地震活動は9月12日以降にはさらに活発化し、地震の総数はすでに400回を超えた。発生回数は19日までの1週間で200回以上が起きた。そのうえ、地震の規模が徐々に大きくなっているのが不気味である。
 富山県はもともと地震が少ない県だ。過去に県内で震度6以上を観測したのは、400人以上の死者を生んだ1858(安政2)年の「飛越地震」までさかのぼる。それだけに、この群発地震は地元の不安をかき立てている。
 地震が起きた場所は富山県の山中で、関西電力の黒部ダム(黒四ダム)から北に8キロほど離れた狭い地域に集中している。震源の深さはごく浅い。
 黒部ダムは1963年に完成した。堰堤の高さが186 メートルある日本でもっとも高いダムで、ダムで作られた人造湖、黒部湖の総貯水量は約2億トンにもなる。
 この黒部ダムは深い山中にあり、大変な難工事の末に作られた。作業員は延べ1,000万人を超え、工事期間中の殉職者は171人にも達した。総工費は建設当時の費用で513億円。これは当時の関西電力資本金の5倍だった。 ところで、ダムが地震を起こした例は世界各地にある。高さ100メートルを超えるダムで起きた例が多い。
 なかには被害地震も起きた。1967年にインド西部でM6.3の地震が起きて一説には2,000人もが犠牲になった。コイナダムという巨大なダムが引き起こした地震だと思われている。
 エジプトでは貯水が始まって20年もたってから地震が起きた。3000年以上の歴史で、このあたりに地震が起きたことはなかった。
 ダムが地震を起こすのは、ダムに貯められた水が地下にしみ込んでいって地震の引き金を引くこと、大量の水の重さによる地殻の歪みのせいだと思われている。
 起きた地震の震源がダムの底より深いこともある。これは、水が岩盤の割れ目を伝わって深いところにまで達して、そこで地震の引き金を引いたのではないかと考えられている。あるいは、長い列車の後ろを押すと、いちばん前までの全体が動くように、水の圧力が深くまで伝わったせいかもしれない。
 じつは、今回の富山県の群発地震は活火山、弥陀ケ原(みだがはら)からも遠くない場所でもある。震源は弥陀ヶ原から北東に約10キロしか離れていない。
 弥陀ケ原の別名は立山火山という。ここは気象庁の「噴火予報」の対象になっている活火山だ。だが「噴火警報レベル」はまだ導入していない。 さて、この群発地震がどう推移するのか、ダム地震なのか、火山性地震なのか、地球物理学者たちは固唾をのんで見守っているのである。

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