【記事80370】地震もないのに大津波が襲ってくる恐怖(島村英紀2019年1月25日)
 
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地震もないのに大津波が襲ってくる恐怖

 先週、原子力規制委員会は関西電力に「津波警報が出ないのに福井県・高浜原発が津波に襲われた場合」の影響評価を報告するよう求めた。
 いままでは、原子力発電所は津波警報を受けて水門を閉めることになっていた。だが、それでは間に合わない事態が起きる可能性があるからだ。
 これはインドネシアでさる12月に起きた津波を見てのものだ。そのときに地震はなかった。しかし大津波が襲ってきて400人以上が死亡、16000人が避難する騒ぎが起きた。
 大地震があれば、やがて津波が来るかもしれない。だが、地震もないのに、いきなり大津波が襲って来るというのは、地元の人々にとって恐ろしい体験だった。
 津波の原因はクラカトア火山の噴火による海底の地滑りだった。これに新月による大潮が重なって大津波が起きたのだ。夜だし、雨期で火山は雲に隠れていた。
 日本でも火山からの地滑りで津波で大きな被害を生んだことがある。たとえば1792年には、九州・雲仙岳で眉山が山体崩壊を起こして有明海に流れ込み、対岸の別の藩・肥後を含めて15000人もの犠牲者を生じた。「島原大変・肥後迷惑」といわれ、日本史上最大の被害を生んだ火山災害になった。
 また1741年には北海道・渡島大島が噴火して山体崩壊した体積は1億立方メートルを超えた。それが海に流れ込んで、対岸の渡島半島で1500人近い犠牲者を生むなど大災害を起こしたこともある。対岸にある寺の過去帳で、まだ名前がついていない「幼女」の多数が記録されているのを憶えている。
 このように、海中や海際の火山が噴火して山体崩壊を起こすと、大きな津波を起こすことがある。2011年の東日本大震災のときは、仙台空港で地震の約1時間あとに地震による大津波が襲ってきた。しかし、いきなり大津波が襲って来るというのが火山が起こす津波の恐ろしいところだ。
 インドネシアはその前の9月末にも大きな津波被害を受けた。マグニチュード(M)7.5という大きな地震が起きて、大津波がスラウェシ島のパルとその周辺を襲って犠牲者2000人以上という被害を生んだ。
 だが、このときの津波は、どう見ても、地震の「横ずれ」というメカニズムから考えられるものよりも大きかった。また、震源の場所が遠いのに津波がわずか3分で襲ってきたことも不思議なことだった。
 その後の調査で、この津波は地震が直接起こしたものではなくて、地震によって引き起こされた「海底地滑り」が起こしたものだったことが明らかになった。
 日本でも、2009年に最大震度6弱を記録した駿河湾の地震(M6.5)では、地震断層が起こしたよりも倍以上高い津波が来た。これも海底地滑りが津波を起こしたものに違いない。
 現在の知識では地震のMと海底の地震断層の動きから津波の高さを計算している。しかし、海底地滑りは計算外のものだった。
 噴火や地震が起こす海底地滑りによる津波という「敵」がひとつ増えたことになる。
(註)「クラカトア火山」(英語読み)になっていますが、『夕刊フジ』では同紙の表記に即して「クラカタウ火山」(インドネシア語読み)になっています。

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