【記事80290】口永良部島の噴火は前兆? 鬼界カルデラを刺激し、“破局噴火”誘発の可能性〈週刊朝日〉(アエラ2019年1月19日)
 
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口永良部島の噴火は前兆? 鬼界カルデラを刺激し、“破局噴火”誘発の可能性〈週刊朝日〉

 コバルトブルーの海に浮かぶ火山島で、爆発的噴火が発生した。1月17日午前9時19分ごろ、鹿児島県屋久島町の口永良部島の新岳(626メートル)が噴火。噴煙は火口から高さ6千メートルに達し、噴石は1キロ以上飛んだ。火砕流も発生したが、幸い、居住地域には達しなかった。
 口永良部島の火山活動が活発化している。昨年10月には3年ぶりに噴火し、12月18日には火砕流を伴って噴火した。地球物理学者の島村英紀・武蔵野学院大学特任教授がこう語る。
「2015年5月の噴火では火砕流が海岸まで到達しましたから、その時ほど規模は大きくはないと思います。ただ、このまま治まるかどうかは全くわかりません。もっと大きな噴火が起きる可能性もあります。引き続き警戒が必要です」
 だが、さらに島村氏が懸念するのは、口永良部島のすぐ北東の海底にある「鬼界カルデラ」だ。
 鬼界カルデラは、およそ7300年前に起きた超巨大噴火である“破局噴火”によって形成された大規模な陥没孔で、直径が約20キロある。海底カルデラだが、その外輪には噴煙上がる薩摩硫黄島と、竹島がある。鬼界カルデラの破局噴火では大量のマグマが噴出し、火砕流が海上を走って九州南部の縄文文化を飲み込み壊滅させた。火山灰は関西でも20センチ降り積もり、その影響は西日本全体にまで及んだという。
 島村氏が解説する。
「破局噴火の火山灰やマグマなどの噴出物の量は100立方キロメートル超で、実に東京ドーム10万杯分にもなります。日本では1914年の桜島、1929年の北海道駒ケ岳の噴火以来起きていない『大噴火』の規模が東京ドーム250杯分ですから、桁が違います。いま起きたら日本社会は壊滅し、文字通り破局を迎えることになります」
 日本では、破局噴火は鬼界、阿蘇、箱根などで過去12万年間に10回起きている。直近の噴火が約7300年前に起きた、この鬼界カルデラなのだ。

はたして口永良部島の噴火活動が鬼界カルデラを刺激し、破局噴火を誘発する可能性はあるのだろうか。

 島村氏はこう語る。
「全くわかりません。現在の学問では、前兆を捉えた経験がないわけですから、何とも言えません。けれども、そろそろ起きても決して不思議ではありません」
 しかも今年3月、神戸大学などの研究チームが、鬼界カルデラに世界最大級の溶岩ドームがあることを海底調査によって確認したと発表している。直径約10キロで、マグマ溜まりから出た溶岩の量は約40立方キロメートルと推定されるという。7300年前の噴火の後に形成された可能性が高いといい、大きな噴火に向けた準備が進んでいるということなのか。
 火山学者の高橋正樹・日本大学文理学部地球科学科教授はこう指摘する。
「考え方には二通りあります。一つは、大きな噴火が起きる前兆かもしれないという捉え方です。もう一つは、逆にそれだけ大量のマグマが出て安全弁が開いているのだから安心していいだろうという考え方です。私は後者で大きな噴火に結びつくことはないだろうと思っています。やはり、火山は長い間、静かなほうが危険性は高いと考えます」
 口永良部島の噴火が鬼界カルデラに与える影響について、高橋氏は「直接は関係ない」と言う。
「やはり予兆があるとすれば、鬼界カルデラの一部である薩摩硫黄島の火山活動に現れるでしょう。ただ、見方を変えると、南海トラフ地震を引き起こすプレート境界で歪みが溜まって、それが桜島や霧島山も含めた九州南部の火山に影響を与えている可能性はゼロではありません」
 口永良部島の噴火の収束を待ちたいが、やはり“想定外”の事態も起こり得るのだ。
 阿蘇カルデラにいたっては世界最多の4回、破局噴火を起こしている。4回目は9万年前で、過去最大規模だった。火砕流は海を越えて現在の山口県に到達した。
「北海道の網走でも数十センチの火山灰が積もったと言われている」(高橋氏)というから、想像を絶する。
 17年12月、広島高裁が四国電力伊方原発(愛媛県)の運転を差し止める決定を出したのは、阿蘇カルデラの破局噴火によって火砕流が四国に達するリスクを考慮しての判断だった。
 前出・島村氏が語る。
「科学者からすればきわめて合理的な判断でした。それだけに、その後の異議審(18年9月)でこの決定が取り消され、再稼働につながったのは残念というほかありません。阿蘇から伊方原発までの距離は約140キロです。原子力規制委員会でさえ原発から160キロ圏内の火山を対象に、電力会社に対応策を求めています」
 佐賀の玄海原発はもちろん、鹿児島の川内原発も160キロ圏内だ。
 人智を超えた破局噴火による壊滅的打撃に、同時多発的な原発事故が追い打ちをかけることになれば、本当に“最後のとどめ”になりかねないのである。(本誌/亀井洋志)

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