[2011_04_21_01]自然の摂理に沿って生きる 作家・石黒耀さんインタビュー 震災、原発やめる契機に(東奥日報2011年4月21日)
 地震と津波により全電源を喪失、炉心溶融へ−。
 福島第1原発の事故とよく似た状況を、作家で医師の石黒耀さんは小説で予見していた。「今回の震災で唯一希望を見いだすとすれば、原発政策をやめる契機とすること。
 こうした事態になっても原発推進派が事実を見ようとしないことに怒りを覚えます」
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 2004年に発表した「震災列島」は、東海地震が題材。震源に近い浜岡原発で、圧力容器につながるパイプに亀裂が入り、放射能に汚染された水蒸気が噴出する。炉内の水位が下がるが、停電と炉内の高圧が障害となって水を送れず、メルトダウンの危機が迫る。石黒さんは「外部の補助電源が弱点ということは、原発反対派の間では常識だった。全然想定外じゃない」と憤る。

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 02年のデビュー作「死都日本」では、主人公らが火山の破局的噴火を予測し、使用済み燃料プールから、毒性の強いプルトニウムを含む核燃料をあらかじめ撤去する設定にした。「今回の地震で使用済み燃料の危険は証明された。巨大噴火が起きれば、もっと危ない」 少年時代から海洋生物に魅せられ、黒潮が付近を流れる宮崎県の医大に進んだ。火砕流で生まれた大地の上で生活していることを知り、火山に引かれるようになった。
 「死都日本」を書いたのは阪神大震災の後、「火山の噴火よりも地震の方が怖いよね」と漏らした妻のひと言がきっかけ。「火山の噴火がどれだけ恐ろしいか、シミュレーションしました」。九州南部が火砕流で壊滅する大惨事を緻密な構成で描いた作品は、エンターテインメント小説を対象にした「メフィスト賞」だけでなく、日本地質学会からも表彰された。

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 執筆の際、念頭にあったのは、災害大国に住んでいるという自覚を読者に促すこと。科学で自然を支配しようとしてきた現代人に警句を発し、防災への願いを込めて「地球からすれば(中略)破局的噴火など、小さなくしゃみを一つした程度に過ぎなかったのかも知れない」と書いた。
 「人間が生活できる地球の環境は多様な生物によって保たれている、というのは常識。人間は他の生物のおこぼれで生きているようなもの」と話す石黒さんにとって、原発はその常識と相いれない。「原発の存在理由なんて、利権以外にない」
 東日本大震災は、日本人が「自然の摂理に沿った生き方ができるかどうかの曲がり角になる」。例えば、ゴミやスギ材、太陽光を利用して集落ごとに自家発電する高台に住む…。「この国土をよく知って、国土に合わないことをやめるべきです」。自然を畏れ、無理なく暮らした縄文人を見習うべきだという。「欧米にはバイブル、中東にはコーランという基軸があるけれど、日本人にはない。何か基軸を持つとしたら自然です」
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