[2014_03_13_03]川内原発「1番手」に賛成派も困惑(西日本新聞2014年3月13日)
 

川内原発「1番手」に賛成派も困惑

 九州電力川内原発鹿児島県薩摩川内市が、再稼働に向けた原子力規制委員会の安全審査で先頭に立ったことに、再稼働を待望してきた地元の商工業者や、行政職員から戸惑いの声も上がっている。再稼働第1号になれば全国の注目を集め、反対派の激しい抗議活動で地域が混乱する恐れがあるため。国が再稼働への地元了解の手続きを明確にしていないことも関係者の不安を募らせる。一方で玄海原発がある佐賀県玄海町の行政や商工関係者は、1番手にならなかったことを冷静に受け止めた。
 「再稼働の1番手だと反対派やマスコミが大挙して押しかけ、街が二分されそうだ。できれば避けたい」。薩摩川内市で原発作業員向けの旅館を経営する男性34は本音を漏らした。昨年は九電の安全対策工事で客足が持ち直したが、将来も旅館を続けられるか、不安は拭えない。別の旅館経営の60代女性も「2、3番手だとほとぼりが冷めて、すーっと手続きが進むかもしれない。経営的には一日でも早く動かしてほしいが」と複雑な胸中を語る。
 再稼働を容認する市議は「2009年に市役所を訪れた当時の九電社長が反対派に取り囲まれたことがある。反対派がああいった実力行使に出なければいいが」と心配する。
 市の原発担当者は「2番手だと1番手の流れを参考にできるが、1番手は手探りになる」と再稼働へ向けた行政業務に不安を隠さない。「何より地元了解の手続きがいまだに国から示されない」と、遅れている国の対応に不満も口にした。
 一方の玄海町。岸本英雄町長は2011年7月、全国の立地自治体で最初に再稼働の同意を九電に伝えたが、直後に国が安全評価の実施を表明し、撤回を余儀なくされた。その苦い経験から「全国から注目を浴びる1番より、2、3番手がいい」と、今月上旬の記者会見で答えていた。ただ、12日の本紙の取材には「1番も2番も関係ない」と表現を変え、「玄海原発は全国で一番安全な原発だと思う。規制委はスピード感を持って審査を進めてほしい」と要望した。
 地元の唐津上場商工会の古賀和裕会長58は「再稼働は早いにこしたことはないが、1番には特にこだわらない。国が原発活用を進めていく方針であれば、どの地域が先頭でも同じだ」と冷静に受け止めていた。
 ◆玄海に先行、九電好都合
 原子力規制委員会の安全審査で、川内原発1、2号機鹿児島県薩摩川内市が玄海原発3、4号機佐賀県玄海町に先行することになれば、九州電力にとって好都合な面もある。再稼働のための地元手続きは、「やらせメール」問題の影が付きまとう玄海より、川内の方が円滑に進む公算が大きい。各社の原発が後に続くだけに、九電にとって、再稼働第1号でのつまずきは許されない。
 「川内は玄海より『地元』が良い」。ある九電幹部はこう言い切る。
 再稼働に向けた審査終了後の関門は、再稼働の前提となる地元了解。再稼働を急ぐ政府は「地元」の範囲や必要な手続きを明確にしておらず、各地で手続きが異なる事態も想定される。
 そうした中、川内原発については、鹿児島県の伊藤祐一郎知事が「地元」の範囲について「立地自治体の薩摩川内市と県の判断で十分」と繰り返し表明している。周辺自治体が関与を求める動きも限定的だ。伊藤知事、岩切秀雄薩摩川内市長はともに再稼働には前向きとされ、九電は迅速な手続きを期待する。
 対する玄海原発の地元は、「やらせメール」問題で佐賀県の古川康知事の責任をめぐる議論が決着しておらず、知事も再稼働判断には慎重姿勢。同原発から最短12キロの佐賀県伊万里市が立地自治体並みの権限を求め、原発30キロ圏の自治体で唯一、九電と原子力安全協定を結んでいないことも懸念材料だ。
 九電内には「玄海も県と玄海町の同意が得られれば、再稼働できる」との見方もあるが、伊万里市との協議がこじれたまま、再稼働を強行する形になるのは避けたい。川内で前例を作り、玄海の再稼働手続きに弾みをつける−。川内の審査合格が見えてきた今、九電内ではそんな期待が高まりつつある。

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