[2016_11_07_02]東電の原発事業分社化、鍵は柏崎刈羽の再稼働(ニュースソクラ2016年11月7日)
 
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東電の原発事業分社化、鍵は柏崎刈羽の再稼働

各紙論調/読売は経産省案を後押し、朝毎日経は疑問視

 経済産業省が、東京電力ホールディングス(HD)の原子力発電事業を分社する案を打ち出したことが波紋を広げている。東電再生、電力再編などエネルギー政策の根本を左右する案だが、先行きは不透明だ。
 経産省ではずっと議論されてきた案だ。他の電力会社の原発事業との連携、ひいては統合など再編も視野に入れている。
 だが、新潟県知事選(10月16日投開票)で、東電柏崎刈羽原子力発電所(柏崎市と刈羽村)の再稼働に慎重な米山隆一氏(49)が与党推薦候補を破って初当選した。東電の経営再建のカギを握る同原発の再稼働が遠のいた。そのタイミングで飛び出した分社案だ。
 同県知事選は、柏崎刈羽原発の再稼働に慎重だった泉田裕彦前知事が8月末に再選出馬の意向を撤回し、自民・公明の推薦を受け、「反泉田」で出馬表明していた前同県長岡市長の森民夫氏(67)の楽勝との見方が広がった。ところが、米山氏は立候補表明が告示直前と出遅れたものの、「泉田路線継承」を掲げ、再稼働問題を争点化することに成功し、大逆転を果たした。
 東電分社案が飛び出したのは、米山新知事が就任した10月25日に開かれた東電の経営のあり方を有識者が話し合う経産省の「東京電力改革・F1(福島第1原発)問題委員会」(東電委員会)。
 福島第1の廃炉費用について、これまで、総額2兆円として、年間800億円を東電が自力で負担することになっていた。経産省はこの日、これが年間数千億円に膨らむとの試算を明らかにしたうえで、東電が費用を賄う収益基盤を確保する手段として、原子力事業の分社案も提示したのだ。
 福島第1の事故処理の枠組みを復習しておこう。被災者への賠償費用5.4兆円、除染費用2.5兆円、中間貯蔵施設1.1兆円の計9兆円は政府が交付国債を発行して立て替え、賠償の5.4兆円は東電と他の電力大手が共同で負担、除染2.5兆円は国が持つ東電株の売却益を充て、中間貯蔵施設費用は電源開発促進税で賄う――となっている。しかし、電力業界団体の電気事業連合会(電事連)は、賠償は8兆円、除染も4.5兆円規模に膨らむと試算している。
 福島第1の廃炉費用は、そもそもこの9兆円とは別枠で、今回経産省が示した試算は、9兆円スキーム外の話。この日の東電委員会は、経産省が示した4案のうち、(1)金融機関の債権放棄などを伴う法的整理、(2)国が税金で肩代わり、(3)今の公的管理を長く続ける、という3つを退け、(4)東電自身が経営改革で資金を確保する案を採用することで一致した。その経営改革の大きな柱が原子力事業分社化という位置づけになる。
 ここでポイントになるのが、柏崎刈羽の再稼働だ。柏崎刈羽は全7基、発電総出力821万キロワットと世界最大規模で、福島第1事故後に全基が停止したまま動いていない。東電は柏崎刈羽6、7号機の再稼働に向けて2013年9月、新規制基準への適合性審査を原子力規制委員会に申請済みで、審査は終盤を迎えている。
 これが稼働すれば、東電は年間2000億円程度の増益を見込めるとされる。東電HDの2016年3月期の経常黒字3259億円(前期比56.7%増)と数字を並べると、柏崎刈羽6、7号機の再稼働の重さがわかる。福島第1事故の後始末は、分社するか否かは別にして、柏崎刈羽再稼働の成否が分かれ道になる。
 こうした実情を踏まえ、世論を映す新聞各社の論調を点検してみよう。経産省案が出た25日夕刊1面で各紙、第一報を伝えたのに続き、翌26日朝刊で解説記事などに紙面を割いた。
 毎日は3面をほぼ全面つぶし、「クローズアップ2016」欄で詳報。「廃炉費確保 窮余の策」「東電テコに原発再編」「経産省 柏崎再稼働にらみ」「国民負担懸念の声」の見出しで、経産省の狙いとして、「原発子会社を受け皿にして他の電力会社の原発事業を再編させる思惑も潜ませる」「収益改善策を示すことで、国民負担が必要になったときの地ならしにしようとする狙いが透けて見える」と指摘する。
 柏崎刈羽再稼働については「分社で東電色が薄まれば、再稼働の追い風になるかもしれない」との東電幹部の声を紹介する。一方、米山知事就任もあって「再稼働で収益を回復させるシナリオも、絵に描いた餅に終わりかねない。……再編もうまくいかず、東電の収益向上策を示せない可能性もある」と厳しく指摘している。
 朝日も3面で「膨らむ廃炉費」「柏崎刈羽再稼働で賄う思惑」との見出しで、「分社化で再稼働を求めやすくなる」との経産省の思惑を指摘しつつ、「望みは薄そうだ」とする。廃炉費用の増大で東電に負担させるシナリオに「限界も見えつつある」とし、柏崎刈羽売却など思い切ったリストラを説く専門家の声も紹介している。
 脱原発の朝毎に対し、原発再稼動論の日経は、3面に「東電分社 原発再編促す」「経営効率化に活路」「廃炉費用の捻出狙う」として、原発再編を中心に論じる記事を掲載。毎日、朝日と同様に経産省の狙いなどを解説しつつ、「原発の事業再編は、他の電力部門以上に難しく、先行きは見通しにくい」と、慎重な言い回し。
 すぐ脇の「膨らむ処理費用」「東電、自力負担厳しく」との見出しの別稿で、廃炉費用などの東電自力負担のシナリオが「厳しさを増している」とも書き、全体に、今回のシナリオの難しさを指摘するトーンが目立つ。
 以上の3紙は、原発へのスタンスは違いながらも、今回の経産省案、廃炉などの費用負担問題の内容や背景を解説しつつ、問題点を指摘するという意味で、オーソドックスな紙面展開と言える。
 これに対し、読売の紙面はやや異色だ。3面「スキャナー」欄で「福島廃炉費 自力で」「東電改革 原発分社案示す」「国民負担避ける」と、基本的に経産省の狙いをストレートに見出しに取り、政府のシナリオを詳しく説明した。
 そのうえで、東電が賠償から廃炉までの費用を「すべて負担しきれていないのが現状だ」として、「原発を含めた他社との共同事業化で、収益力が高まれば、東電が単独で事業を続けるよりも多くの資金を、廃炉費用などに充てられる可能性もある」と、経産省の狙いを代弁する書きぶりにみえる。
 また、別稿で「柏崎再稼働 収益を左右」として、このシナリオの成否が「柏崎刈羽がいつ再稼働できるかにかかっている」として、「他の電力大手の協力で安全対策を強化することが『東電不信』の払拭につながれば、早期再稼働に向けて事態が動き出すとの期待がある」と、改めて経産省の思いを代弁している。ただ、「他社の協力が得られるかは不透明だ」とも指摘し、再編の難しさには言及している。
長谷川量一 (ジャーナリスト)

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