[2017_08_21_01]核のゴミ捨て場 「科学的特性マップ」は危うい(ニュースソクラ2017年8月21日)
 
参照元
核のゴミ捨て場 「科学的特性マップ」は危うい

「 トイレなき原発」の恐怖を直視せよ
 原子力発電所の使用済み燃料からでる高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の処分地選びに向けて、政府(経産省)が「科学的特性マップ」を公表した。
 地図は活断層や火山、地層の安定性などの情報をベースに日本全土を4区分に分類している。火山から15キロ以内や活断層の近くなど地下の安定性から好ましくないと推定される地域、地下に石油や天然ガス、石炭などがあって将来採掘される可能性のある地域を「好ましくない地域」としている。これら以外の国土の約3割が「適地」の可能性があると指摘している。適地可能地域のうち、海岸から20キロ圏は輸送面からも最も好ましい地域とされており、日本列島の大部分の海岸線がこの最も好まし地域に含まれている。
 最終処分場は使用済み燃料からウランやプルトニウムを回収した後の液状の高レベル放射性廃棄物をガラスと混ぜ固化体にして,金属製容器に入れ300mより深い地層中に処分(地層処分)する場所だ。核のごみが無害化するまでには数万年から10万年の歳月が必要とされ、その間安全に保管しなければならない。そのような安全地域は地球全体で見てもごくわずかしか存在しない。
 戦後、科学技術の大きな成果として原発が欧米および日本、共産圏ではソ連(現ロシア)などで積極的に導入された。この段階で一部の科学者の間から、原発稼働によって排出される核のごみの安全処分が重要な問題として提起された。
 日本でも、安全な処分対策なしで原発を稼働させることに対し、「トイレなきマンション」と同じで、将来に大きな禍根を残す、との批判が起こった。
 だが国是として原発推進を目指す政府は、安定的電力供給を優先して、商業原発を増加させてきた。その結果、使用済み燃料は今や2万トン近くに達している。先送りしてきた最終処分場探しは待った無しの段階に追い込まれている。
 処分場候補地探しは2000年に「最終処分法」が制定され、電力会社などでつくる原子力発電環境整備機構(NUMO)が中心になり、最終処分地の候補となる自治体を公募した。07年に唯一応募した高知県東洋町が地元住民の反対で取り下げると、その後の応募は一切なかった。
 今回政府が公表した「科学的特性マップ」は、民間に頼らず、政府主導で候補地探しをする決意を示したものと受け取られている。マップによると、可能性のある自治体は900にも及ぶ。調査を受け入れた市町村などには最初の「文献調査」に年間10億円、次の「概要調査」には年間20億円を上限に交付金が支給される。財政難の自治体にとってはのどから手が出るような魅力的な話だ。
 「科学的特性マップ」がこの時期に唐突に公表されたのは、すでに指摘したように、増え続ける核のごみ対策が待った無しの段階にきていることを物語るものだが、いくつかの疑問が指摘できる。原発を稼働し続ければ核のごみも増え続ける。これ以上の核のごみを増やさないためには、脱原発を推進する必要がある。だが科学的特性マップは「原発稼働ありき」の前提で作成されている。これでは処分場がいくつあっても足りなくなる。
 「科学的特性マップ」が本当に科学的かどうかに対する疑問も投げかけられている。最長10万年の歳月を考えれば、その間の火山活動や地震の規模、頻度、地層の変化などを現在手に入れることができる情報だけで科学的に予想することなどとても不可能で、「科学的」と名付けた特性マップこそ逆に非科学的だと言わざるをえない。
 核のごみの最終処分場は、懸命な探査努力にもかかわらず欧米やロシアなどでもまだ適地が見つかっていない。唯一最終処分場が決まったフィンランドとスウエーデンは岩盤が厚く10万年保存が可能な特異な地層の国だ。
■三橋 規宏:緑の最前線(経済・環境ジャーナリスト、千葉商科大学名誉教授)
1940年生まれ。64年慶応義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞社入社。ロンドン支局長、日経ビジネス編集長、科学技術部長、論説副主幹、千葉商科大学政策情報学部教授、中央環境審議会委員、環境を考える経済人の会21(B−LIFE21)事務局長等を歴任。現在千葉商大学名誉教授、環境・経済ジャーナリスト。主著は「新・日本経済入門」(日本経済新聞出版社)、「ゼミナール日本経済入門」(同)、「環境経済入門4版」(日経文庫)、「環境再生と日本経済」(岩波新書)、「日本経済復活、最後のチャンス」(朝日新書)、「サステナビリティ経営」(講談社)など多数。

KEY_WORD:_: