[2018_03_30_02]月が物語る巨大隕石の衝撃(島村英紀2018年3月30日)
 
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月が物語る巨大隕石の衝撃

 中国が、月の裏側に有人宇宙船を送り込む計画を始めた。月に人が立つのは月の表側に着陸した米国のアポロ計画以来、半世紀ぶりだ。
 月の裏側は地球からは見えない。それは、月はいつも同じ面を地球に向けているからだ。
 月の自転と公転が厳密に一致しているという説明がよく行われているが、これはわかりにくい。月がいつも同じ面を地球に向けているのは、月の自転が遅くなって、ついに止まってしまったということなのだ。
 裏側はいままで上空を飛んだ探査機によって、ある程度は調べられている。いちばんの特徴は、表側とは大変に違うことだ。
 表側には大きな「海」が多数あるのに、裏側は海がほとんどない。「海」といっても水はなくて、平らで広い低地が拡がっているものだ。また、裏側は表側よりも起伏が激しく、1万メートルを超える月での最高地点も、9000メートルを超える最低地点も裏側にある。
 さらに、表面だけではなく地下構造も違っている。たとえば地殻の厚さも表側が約60キロなのに裏側は約68キロだ。なぜ、こんなにも表と裏が違うのかは分かっていない。今回の有人探査の大きな目的のひとつだ。
 中国の月探査計画は、今年の上半期に中継衛星を「ラグランジュ点L2」に投入することから始まる。
 ラグランジュ点L2とは、太陽と地球の引力が均衡する地点のうちのひとつで、太陽と地球を通る直線上で地球のさらに外側にある。ここでは衛星が静止出来る。地球と同期して太陽のまわりを公転するようになるからだ。こうして、月の裏側が電波で地球と結ばれる。
 この中継衛星が成功すれば、その半年後には着陸船と月面車を載せた嫦娥4号を打ち上げる計画だ。
 じつは中国は2013年に無人の嫦娥3号を月面に軟着陸させている。軟着陸に成功したのは米ソに次いで世界で3番目だ。だが嫦娥3号が運んだ月面車「玉兎」は一ヶ月で故障して、データが十分に取れなかった。今回はその雪辱も狙っている。
 有人飛行の着陸地点は月の裏側の南半球にある「南極エイトケン盆地」になる。この盆地は月ではもちろん、地球でも最大のクレーターで、直径約2500キロもある。
 成因はまだ分かっていないが、月が出来た初期のころ巨大な天体が衝突した出来たものだと思われている。
 この衝突によって月の深部にあった物質が掘り出されている可能性が大きく、地質学上大きな興味を持たれている場所だ。将来の鉱物探査にも役立つ場所だ。
 月の裏側の探査によって、月の秘密がかなり明らかになるに違いない。
 地球に6600万年前に落ちた大きな隕石はマグニチュード(M)10にもなる震動や、高さ300メートルを超える巨大な津波を生んだ。M10の地震とは、過去100年間に世界で起きたすべての地震が同時に発生した大きさだ。だが、この隕石の大きさは直径10キロあまりだった。
 その数十倍のものが月に落ちたと思われている。将来、この大きさの隕石が地球に落ちないとも限らない。

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