[2018_04_23_01]<ウェスチングハウスCEO>原発「再興」実現せず(毎日新聞2018年4月23日)
 
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<ウェスチングハウスCEO>原発「再興」実現せず

 【ワシントン清水憲司】東芝傘下だった昨年3月に経営破綻した米原子力大手ウェスチングハウス(WH)のホセ・グティエレス最高経営責任者(CEO)が毎日新聞の取材に応じた。破綻の要因について、「原発ルネサンス」と呼ばれた2000年代の原発建設ブームが「現実的ではなかった」ことや、原発建設の経験が長期にわたり失われていたことを挙げた。今後は新興国での受注を中心に再建を目指す考えを示した。

 ◇新興国受注で再建へ
 東芝は06年にWHを買収。当時は地球温暖化対策の切り札として原発が脚光を浴び、米国をはじめ各国で原発建設計画が相次いでいた。しかし、08年のリーマン・ショックに伴う経済危機で電力需要が落ち込んだことや、11年の東京電力福島第1原発事故の影響で各国の原発需要は急速に縮小。グティエレス氏は「ルネサンスは実際には起こらなかった」と誤算を認め、東芝による買収当時の経営陣が世界で数十基もの受注を見込む強気な予測を立てていたことについて「振り返れば現実的ではなかった」と語った。
 また、米国では1979年に発生したスリーマイル島原発事故の影響で新規の原発建設がストップし、WHが手がけた4基の建設は約30年ぶりだった。建設は大幅に遅れが生じて費用が増大。親会社の東芝は巨額の損失処理を迫られて経営危機に陥り、WHも米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用を申請して経営破綻した。
 グティエレス氏は「既に経験が失われ、準備が整っていなかった」と建設がスムーズにいかなかった要因を指摘した。
 WHは今年1月、カナダの資産運用会社ブルックフィールドによる買収が決まり、3月には米連邦破産裁判所から再建計画の了承を得た。
 グティエレス氏は、インドやサウジアラビアなど新興国での原発受注のほか、欧米向けには小型原発の技術研究を進め、廃炉ビジネスも成長させて経営再建を目指す方針を示した。

 ◇インタビュー一問一答
 グティエレスCEOとの主なやり取りは以下の通り。

 −−経営破綻の原因は?
 ◆米国での原発建設が問題だった。約30年ぶりの新規建設で、既に経験が失われており、WHも機材の納入業者も準備が整っていなかった。米原発建設会社の買収などで困難を克服しようとしたが、最終的には連邦破産法11条の適用を申請する以外の選択肢がなくなってしまった。

 −−元々の建設計画が強気すぎたのでは。
 ◆当時、業界は「原子力ルネサンス」と言われ、今では思い出せないぐらい多くの原発建設が計画されたが、振り返れば現実的ではなかった。リーマン・ショック後に電力需要が落ち込み、米欧の電力会社は多くの発電所がいらないと気づいた。米国ではシェールガス・ブームでガス価格が下がり、福島第1原発の事故も発生した。破綻はこうした要因が組み合わさった結果だ。

 −−親会社だった東芝の経営は適切だったか。
 ◆東芝は両社の能力を組み合わせ、世界一になるビジョンを描いた。しかし原発ルネサンスは実際には起こらず、東芝の財務問題が状況を一層複雑にした。ただ、東芝の問題がWHに大きなインパクトを与えたとは思わない。破産法11条を申請せざるを得なくなったことを除けば、東芝は良い親会社だった。

 −−今後の再建の方針は?
 ◆世界が今後の電力需要を満たすには、すべてのエネルギー源の使用が不可欠だ。原発は安全な運転が可能で、中国やロシア、インド、中東などでは建設が続く。欧米向けは短期間で建設でき、価格も安い小型原発の技術研究を進める。廃炉も成長分野になる。

 −−カナダの資産運用会社が新しい親会社に決まった。トランプ政権は安全保障上の懸念から、中国企業による買収を嫌ったとされるが。
 ◆WHはそうした議論に関与していない。親会社の選定には60社以上が参加し、透明でオープンな手続きで、ベストな親会社を決めることができた。


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