[2024_03_23_02]志賀原発で何が起きていたか? D壊れた変圧器は、データ改ざんのあった三菱電機製だった(まさのあつこ_地味な取材ノート2024年3月23日)
 
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志賀原発で何が起きていたか? D壊れた変圧器は、データ改ざんのあった三菱電機製だった

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 能登半島地震で、志賀原発1号の変圧器から3,600リットル、2号機の変圧器から19,800リットルもの油が漏えいして機能しなくなった問題の続き。

 参議院予算委員会での質疑

 「志賀原発の変圧器は、500ガル程度までの耐震設計を要求されていたのに、399ガルで壊れてしまった」と書いた(2月8日「志賀原発で何が起きていたか? C変圧器が壊れた後のできごと」 )。
 まさにこの点を含めた質疑が、3月4日の参議院予算委員会で行われた。
 石垣のりこ議員による質疑で、まずは壊れた変圧器が、試験性能データに改ざんがあったものだったことが明らかにされた。その概要は以下の通り。

 不適切な検査が行われた三菱電機製の変圧器

  石垣議員:2022年4月に三菱電機製の変圧器の試験性能データ改ざんがあった。どのような事案だったか?
  齋藤健経産大臣:ユーザーに約束した条件が守られていなかった。規制上の問題はない。三菱電機からの報告によると不適切な検査が行われた変圧器は、大手電力10社およびJERA、電源開発で行う発電・送配電事業、火力発電所19ヶ所で計40台、水力発電所10ヶ所で15台、地熱発電所1ヶ所で1台、変電所99ヶ所で192台、それ以外は601ヶ所の施設で907台が使用された。
  石垣議員:原子力発電所は?
  山中原子力規制委員長:原子力発電所の変圧器のうち35台。
  石垣議員:経産省では把握していないのか。なぜ答えなかった?
  齋藤大臣:原子力発電所は原子力規制委員会が所管しているから。
  石垣議員:問題がある変圧器がどこで使われているかは、推進側として把握する責任がある。

  石垣議員:能登半島地震で志賀原発では変圧器が壊れた。使われていた変圧器は、不適切記載のあった三菱電機製の変圧器であると間違いはないか。
  山中委員長:三菱電機製だ。
  齋藤大臣:把握している。
  石垣議員:能登地震で壊れた志賀原発2号機変圧器は500ガルまで耐えられるはずだが、最寄りの地震計によれば399ガルで壊れた。耐震性についても疑義が生じたのでないか。
  山中委員長:三菱電機の不適切事象が明らかになった際、今回損傷した2号機の主変圧器において、「交流耐電圧試験」、「温度上昇試験」において不適切行為が行われていたとの報告を北陸電力から受けた。耐震性に関する事項については不適切行為が行われたとの報告は受けていない。
  399ガルは志賀原発1号機の原子炉建屋地下2階に設置された地震計で記録された最大加速度。今回、損傷した変圧器が受けた加速度と必ずしも同じではないために、500ガルの耐震性能があるはずなのに399ガルで損傷したとのご指摘は必ずしもあたらない。
  いずれにしても北陸電力において内部点検の結果を踏まえた上で、構造解析を実施し、変圧器が損傷した原因についての調査が行われている。原子力規制委員会としてはその内容を厳正に確認したい。
      2024年3月4日参議院予算委員会 より概要

 ん? 1号機でも壊れたんだが。

 国会質問で問題とされたのは2号機だけだが、変圧器の油漏れは1号機にもあった。3,600リットルが起動変圧器のコンサベータから漏れた。

令和6年能登半島地震による志賀原子力発電所の影響について(第5報) 2024年1月5日 北陸電力株式会社

 2号機からは主変圧器のコンサベータから3,500、冷却機配管から1,800、本体から14,500、合計19,800リットルが漏れた。

令和6年能登半島地震による志賀原子力発電所の影響について(第5報) 2024年1月5日 北陸電力株式会社

 つまり、1号機変圧器は、たった399ガルでも壊れた。
 また、2号機は本体まで大々的に壊れた。ということは、1号機(399ガル)以上揺れたと考えるのが自然ではないか。

 山中委員長のいう「399ガルは志賀原発1号機の原子炉建屋地下2階に設置された地震計で記録された最大加速度。今回、損傷した変圧器が受けた加速度と必ずしも同じではないために、500ガルの耐震性能があるはずなのに399ガルで損傷したとのご指摘は必ずしもあたらない」というのは何の説明にもなっていないのではないか。

 北陸電力が三菱電機に確かめるべきこと

 1号機、2号機の変圧器で三菱電機が報告していた耐震性と、その裏付けとなる試験データ、およびそこにも不正がなかったかは、最低でも北陸電力が自らの点検以外にも、三菱電機に対して求めるべきではないか?原子力規制委員会がやる気がないのであれば。

令和6年能登半島地震による志賀原子力発電所の影響について(第5報) 2024年1月5日北陸電力株式会社より関係部分を筆者抜粋

 あと2つの素朴な疑問

 なお、北陸電力は「 読売新聞社に対する当社の抗議内容について(2月5日掲載) 」で以下のように説明していた。

  ・同じ志賀町ではありますが、今回の地震で観測した地震動は、志賀原子力発電所で399ガル、志賀町富来地区の地震観測計で2,828ガルでした。
  ・当社が申請している1,000ガルよりも志賀町富来地区の地震観測計で2,828ガルの方が大きく、令和6年能登半島地震に伴い気象庁の震度計で観測された志賀町富来地区を用い、当社が申請している志賀原子力発電所の基準地震動が大きく足りていないかのような構成となっていますが、地震計が設置されている地盤が異なることから、志賀原子力発電所の地震動と地震観測計の地震動を単純に比較することは適切ではありません。

  北陸電力「 読売新聞社に対する当社の抗議内容について(2月5日掲載)

 基準地震動は1,000ガルでいいのか?

 北陸電力のこの説明をまとめると、
  ・志賀町富来地区の地震観測計で2,828ガル
  ・北陸電力が申請している志賀原発の基準地震動は1,000ガル
  ・2つは地盤が異なるから単純比較できない
 ということになる。

 北陸電力「 読売新聞社に対する当社の抗議内容について(2月5日掲載) 」より

 しかし、第1に、北陸電力が申請した「基準地震動1,000ガル」が十分かどうかは別問題として残る。今回の能登半島地震を受けての新知見は、2、3年はかかるのではないかと原子力規制委員会周辺では囁かれている。また、住民からはそれ以上の厳格さが規制側に求められている(「 地震や津波は止められない。でも原発は止められる」原発周辺住民が要請 )。いずれにしても、見直しは必至だ。

 変圧器耐震性は500ガルでいいのか?

 第2に、100歩譲って、たとえ基準地震動が1,000ガルだとしても、変圧器の耐震性が500ガルでいいのかどうか。壊れることが前提でいいのかという問題も残る。

 安全性の確保に時間と人材が削がれる電源

 このように微に入り細に入り、安全性の確保に時間と人材が削がれる。それを無視して再稼働をすることが許されないのが原発だ。非効率な電源だ。石垣議員は岸田総理大臣にも見解を求めた。

  石垣議員:今後の調査を待つところもあるが、40年にわたり法令上の問題がないとはいえ、データ改ざんが行われてきた。耐震性の確認が必要だと思うが。
  山中原子力規制委員長:新規制基準では外部電源の信頼性を高める観点から少なくとも2回線の独立性を求めている。外部電源は遠方の他の発電所から電線路を経由して供給される。長大な電線路のすべてに高い信頼性を確保することは不可能。このため、新規制基準では敷地内で多重性、多様性を確保し、独立性を持たせた非常用電源の設置により、外部電源によらずとも原発の安全機能が維持できることを求めている。今回の志賀原発でも必要な電源は確保されていた。ただし、変圧器の故障原因が不明なまま放置されるのは好ましいことではない。本年1月10日の原子力規制委員会で、規制庁事務局に対して、北陸電力に原因究明を行わせること。新たな知見がないかを検討するよう指示をした。
  石垣議員:耐震性を含め検証しなおすべきではないか。
  岸田総理大臣:ご指摘も踏まえて経産省において適切に考えるべき。
  石垣議員:適切にとは?
  岸田総理大臣:製品の技術的観点も踏まえて安全性確保に必要な点を確認した上で対応すべきだ。
              2024年3月4日参議院予算委員会より概要

 2022年の不正の背景もわかりにくい

 なお、原子力規制庁は 2022年12月14日 に原子力エネルギー協議会(ATENA)から、不正について説明を受けていた。「規定されている通りに試験を実施していなかったものであるが、電気設備技術基準の要求は満足している」というものだ。
 その会合で、 不正をされた側の電力会社が束になって作って出した 資料によれば、不正があったのは、山中委員長が国会で答弁したように、「交流耐電圧試験」と「温度上昇試験」の2つ。

 「交流耐電圧試験」については、現地での試験を省略してよい規制緩和が行われていたことがわかる。

三菱電機(株)及び日本製鋼所(株)子会社の不適切行為に関する電力各社の状況
令和4年12月14日 資料1 P4

 「温度上昇試験」についても同様だ。

三菱電機(株)及び日本製鋼所(株)子会社の不適切行為に関する電力各社の状況
令和4年12月14日 資料1 P6

 これだけを見れば、現場での試験データを求められなくなり、工場試験を実施すればいいという規制緩和がなされたことが事実としてあり、結果的にデータ改ざんが行われていたことがわかる。しかし、それだけでは1982年から不正が行われていたことの説明にはならない。齋藤経産大臣が求めた「十分な対外説明」にはなっていないように思う。

 不正発覚後も検査不正が行われていた

 さらに、2022年4月21日高知新聞「 三菱電機、また検査不正 40年間で変圧器3千台超 」や同年4月22日朝日新聞「 三菱電機、変圧器の性能不正を3月まで継続 出荷先の原発は非公表 」によれば、こうした検査不正に関する調査は2021年7月に始まったにもかかわらず、出荷は2022年3月まで続いていた。悪質だ。
 調査は、経産大臣が国会で「第三者調査委員会による」と答弁したが、第三者と言っても、「 調査委員会による調査報告書 」によれば三菱電機が依頼した社外弁護士(西村あさひ法律事務所の弁護士)らによるものだ。

 2ヶ月後にメディア公開

 北陸電力は3月7日に地震以来初めて、メディアに公開。2号機変圧器については「復旧に向けて補修方法などを検討している」段階だとされる。

志賀原発の被災設備初公開 北電、変圧器の復旧時期調査

 原発の部品は1000万点にものぼると言われる。その安全性を一つひとつ確認しなければならない(実際にはされていない)。故障する。老朽化もする。少子高齢化する日本で本当に、必要とされる電源なんだろうかと首を傾げる。

 【タイトル画像】

 2022年12月14日 原子力規制委員会資料1「 三菱電機(株)及び日本製鋼所(株)子会社の不適切行為に関する電力各社の状況 令和4年12月14日 」表紙より
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