[2024_03_28_10]鉄道事故調査報告書_JR東日本_列車脱線事故_東北新幹線_2022年3月16日(運輸安全委員会_国交省2024年3月28日)
 
参照元
鉄道事故調査報告書_JR東日本_列車脱線事故_東北新幹線_2022年3月16日

 04:00
         鉄道事故調査報告書

 鉄道事業者名:東日本旅客鉄道株式会社
 事 故 種 類 :列車脱線事故
 発 生 日 時 :令和4年3月16日 23時37分ごろ
 発 生 場 所 :宮城県白石市
 東北新幹線 福島駅〜白石蔵王駅間
 東京駅起点 284k155m付近
 令和6年2月26日
 運輸安全委員会(鉄道部会)議決
 委 員 長 武田展雄
 委 員 奥村文直(部会長)
 委 員 石田弘明
 委 員 早田久子
 委 員 鈴木美緒
 委 員 新妻実保子

             要 旨

 <概要>
 東日本旅客鉄道株式会社の東北新幹線東京駅発、仙台駅行き17両編成の第223B列車は、令和4年3月16日(水)、福島駅を定刻(23時21分)から約5分遅れで出発した。列車は、速度約154km/hで福島駅〜白石蔵王駅間を走行中、架線停電により自動で緊急ブレーキが動作し停止した。
 停止後、列車の運転士は大きな地震の揺れを感じ、揺れが収まってから車内及び車外から列車を確認したところ複数の車両が脱線していた。
 その後の調査の結果、全68軸のうち60軸が脱線していた。また、脱線した60軸のうち10軸については、車両に設置されていた逸脱防止ガイド等がレールを乗り越えている状態であった。
 列車には、乗客75名、運転士1名、車掌4名が乗車しており、このうち乗客6名が負傷した。
 なお、同日23時36分33秒ごろ、福島県沖を震源とするマグニチュード7.4の地震が発生し、最大震度6強の揺れが観測された。また、その約2分前にマグニチュード6.1の前震が発生し、最大震度5弱の揺れが観測された。

 <原因>
 本事故は、令和4年3月16日に発生した福島県沖を震源とする地震のうちの、同日23時36分33秒ごろ発生した地震の地震動を受けたため、列車が脱線したものと推定される。
 脱線に至る過程としては、地震動による軌道面の強い揺れにより、車体のローリン グが発生したことで、左又は右車輪が上昇し、レールを乗り越えて脱線(ロッキング脱線)に至ったと考えられる。さらに、車体のローリングに伴い空気ばねが過大な変形により空気抜けの状態となったことが脱線を助長したと考えられる。
 また、一部の輪軸において逸脱防止ガイド又は排障器取付腕がレールから外れ逸脱している状態であったことについては、脱線後に継続した地震動により逸脱を防止していた逸脱防止ガイドがレールを乗り越えて逸脱したこと、又は脱線時に排障器取付腕や歯車箱がレール上に落下した後に逸脱したことによる可能性があると考えられる。
 なお、本事故においては、同地震の約2分前に発生した地震により早期に列車を停止させるシステムが動作して脱線時に列車が停止していたこと、及び多くの逸脱防止ガイド等が機能して車両が軌道から大きく逸脱することを防いだことが関与し、被害拡大を防止できたものと考えられる。

(中略)

       5 再発防止策

 5.1 必要と考えられる再発防止策

 高速走行を前提とする新幹線列車は、脱線事故が発生し、更に逸脱が生じた場合は、大きな被害が発生することが想定されることから、脱線・逸脱防止対策による安全性の確保は最大限行われるべきであり、今回の事象を踏まえた新幹線列車の脱線・逸脱防止対策の更なる高機能化について検討を行い、実施していくことが必要である。
 なお、本事故においては、多くの逸脱防止ガイド等が機能して車両が軌道から大きく逸脱することを防いでいたものの、一部は想定された機能が発揮されず逸脱が発生していた。特に排障器取付腕が設置されている輪軸は、列車の先頭軸も含まれ、走行中に脱線し逸脱すると、前方車両との拘束がないことから、大きく逸脱し被害が拡大する可能性があるため、今後十分な検討及び研究や技術開発を行い、逸脱を極力させない有効な対策を実施することが望ましい。
 さらに、本事故は高架橋等の構造物上の列車が軌道面の強い揺れにより脱線・逸脱したものであり、車両や構造物の改良による振動抑制対策が有効であると考えられるため、これらを実施するための検討及び研究や技術開発を進めていくことが望ましい。

 5.2 事故後にJR東日本及びJR北海道が講じた措置

 JR東日本及びJR北海道は、本事故発生後に地震による列車脱線事故に関する再発防止策を検討し、従来の対策に加えて、以下の新たな対策に取り組むこととしている。

 (1) 逸脱防止性能の向上

 地震による脱線を完全に防ぐことは困難であるが、脱線後に大きく逸脱することを防止するため、一部の箇所で逸脱防止効果を大きくするための改良を行う。具体的には、列車の先頭軸も含まれ大きく逸脱し被害が拡大する可能性がある排障器取付腕に関して、レールに掛かる部分の形状を改良し、逸脱防止ガイドと同じ高さまで延長した構造としてレールに掛かりやすくすることにより、より逸脱防止性能の向上を図る。(図38参照)

 図38 排障器取付腕の改良イメージ

 (2) 地震対策左右動ダンパの導入検討

 地震によって発生する左右方向の大きな揺れに対して、ダンパに高い減衰力を発揮させて車体の揺れを抑制し、脱線しにくくすることを目的に、新しい地震対策左右動ダンパを導入することを検討する。(図39参照)

 図39 地震対策左右動ダンパ

 5.3 事故後に国土交通省が講じた措置

 国土交通省鉄道局は、令和4年3月16日に発生した福島県沖を震源とする地震による東北新幹線の脱線及び施設被害を踏まえ、構造物等の耐震設計等の技術基準、耐震補強計画等これまで進めてきた新幹線の地震対策を検証し、国土交通省が取り組むべき方向性を整理するため、学識経験者・研究機関等の有識者による検証委員会を発足させた。
 第1回検証委員会を令和4年5月31日に、第2回検証委員会を令和4年12月14日に開催し、耐震補強の当面の方針を含む、耐震基準、耐震補強等の検証結果について、令和4年12月14日に「新幹線の地震対策に関する検証委員会−中間とりまとめ−」(https://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_fr7_000044.html)を公表した。

(後略)
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