[2019_03_13_02]<原発事故に備え バス避難を考える>(下)「隠れた要支援者」どう把握(東京新聞2019年3月13日)
 
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<原発事故に備え バス避難を考える>(下)「隠れた要支援者」どう把握

 東海村の日本原子力発電東海第二原発から五キロ圏に入る那珂市の本米崎地区に住む無職東貞男さん(85)は、放射能が漏れる深刻な事故が起きた時、車で約七十キロ先の筑西市に避難することが求められている。
 「マイカーで、避難先に迷わずにたどり着けるのか分からない。バスに乗せてもらいたいが、一斉に住民がバスに集中すると、実際に乗れるんでしょうか」
 自治体が用意するバスの避難は、障害者や高齢者ら一人で避難できない「要支援者」や、マイカーを持っていない人が対象。東さんは心筋梗塞になり、医師から運転を控えるように言われている。
 那珂市は自己申告しないと要支援者にカウントせず、その数は約千五百人。東さんは「申告は知らなかった」とし、要支援者に含まれていない可能性がある。
 市は、災害対策基本法で義務付けられる要支援者の名簿を作成するに当たり、六十五歳以上の一人暮らし世帯や、障害者などに該当する人は約五千人と把握。そのうち、要支援者を自己申告で定めている。
 この要支援者数をベースに、市は避難に必要なバスの台数を計算する方針のため、実際に事故が起きたときに、東さんのようなカウントされていない可能性がある「隠れた要支援者」がバス避難を希望し、バスが足りなくなる恐れがある。
 自治会によっては、独自に正確な人数を調べるが、自治会に未加入だったり、住民が個人情報を出したがらなかったりして苦労している。原発十五キロ圏にある那珂市の上宿第一自治会の後藤只男会長(72)は「行政と自治会が協力し、自治会の加入者を増やすなどの努力をしないと、追いつかない」と指摘する。
 一方、日立市は「隠れた要支援者」の存在も考え、原発五キロ圏のアンケートで、本人の申告とは別に、障害者手帳を持っている人など範囲を広げ、約千人を対象に避難でバスを使うかなどを聞いている。担当者は「要支援者が漏れることが一番怖い。自然災害では近くの避難所に歩いて行けても、原発事故ではバスなどで逃げたいと思う人もいるかもしれない」と話す。
 県は昨年六月現在、三十キロ圏の要支援者を六万人と推計。自治体で要支援者の基準は異なるが、自治体からのデータを積み上げて計算しているため、「隠れた要支援者」が算入されず、避難でバスが必要な人は増える可能性がある。
 福島県によると、原発事故の時、病院や福祉施設ですらバスが手配できず救出が遅れた。
 「在宅の要支援者はもっと避難が厳しかったはずだ」(県の担当者)。教訓を踏まえ四月以降、東京電力福島第二原発の事故に備え、立地する楢葉と富岡の両町全住民約四千三百人を対象に、具体的な避難方法などの調査を始めるという。 (この連載は、山下葉月が担当しました)

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