[2020_06_26_02]次世代にツケ「使用済みMOX燃料」という新たな矛盾(毎日新聞2020年6月26日)
 
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次世代にツケ「使用済みMOX燃料」という新たな矛盾

 核燃料サイクルは、原発から出た使用済み核燃料を青森県六ケ所村の日本原燃の工場で再処理し、取り出したウランとプルトニウムを「ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料」に加工して、既存の原発で「プルサーマル発電」として使うことを目指している。しかし、未解決の課題が山積している。政府と電力会社はどうするつもりなのか。【毎日新聞経済プレミア・川口雅浩】

 2011年の東京電力の福島第1原発事故後、国内で再稼働した5原発9基のうち、プルサーマルに対応できる原発は関西電力高浜3、4号機、四国電力の伊方原発3号機、九州電力玄海原発3号機の3原発4基しかない。
 現在、国内の原発がプルサーマルで使用しているのは、フランスに再処理を依頼し、加工してもらったMOX燃料だ。日本の電力会社は英国にも再処理を依頼していたが、英国のMOX燃料加工工場は採算がとれず11年に閉鎖したため、現在はフランス製のMOX燃料を使っている。

 ◇四国電力に続き関西電力でも

 では、プルサーマルに用いた後の「使用済みMOX燃料」はどうなるのか。
 20年1月13日、日本の原発で初めて、プルサーマル後の使用済みMOX燃料が、四国電力の伊方原発3号機から取り出された。
 日本のプルサーマルは09年に九州電力玄海原発3号機で始まり、これまで全国5基の原発で行われた。しかし、東電の原発事故の影響で国内の原発は全基がストップ。再稼働した原発の中で、最も早くMOX燃料を使い切ったのが伊方原発3号機というわけだ。
 続いて関西電力の高浜原発3号機でも1月27日、プルサーマルに用いた使用済みMOX燃料が取り出された。伊方原発3号機に続き、全国2例目だ。

 ◇「冷やしながら保管するしかない」

 ところが、この使用済みMOX燃料の行き場は決まっていない。当面は原子炉建屋内の使用済み燃料プールで、十数年にわたって冷やしながら保管するしかない。
 使用済みMOX燃料が発する熱量は「通常の使用済み核燃料の約3〜5倍になる」という。このため東京電力福島第1原発事故のように停電になると冷却できなくなり、重大事故を招く恐れがある。
 このことから、政府の原子力規制委員会は原発内のプールで長期間、保管することに懸念を示す。更田豊志委員長は記者会見で「安全上の観点から言えば、いたずらに多くの(使用済みMOX燃料の)集合体が保管される状態というのは好ましくない」と指摘している。
 なんとか十数年かけ冷やし続けたとして、その間に使用済みMOX燃料の行き先は決まるのだろうか。
 核燃料サイクルを推進する政府は、エネルギー基本計画で「使用済みMOX燃料の発生状況とその保管状況、再処理技術の動向、関係自治体の意向などを踏まえながら、引き続き研究開発に取り組みつつ、検討を進める」としている。使用済みMOX燃料の再処理は、まだ研究段階ということだ。
 再処理技術に詳しい鈴木達也・長岡技術科学大教授は、使用済みMOX燃料の再処理について「フランス、ドイツ、日本、ロシア、英国で試験的に行われた実績はあるが、大量処理された実績はない」と話す。

 ◇政府から回答なく

 このため原発を抱える自治体は「使用済みMOX燃料が原発内に永久に保管され続けるのではないか」と疑念を抱く。関西電力高浜原発が立地する福井県の杉本達治知事は20年1月27日、「使用済みMOX燃料の処理・処分について、技術的な検討・研究開発を加速し、その具体的な方策を明らかにする」よう、梶山弘志経済産業相に要請した。
 しかし、「今のところ大臣から知事に回答はない」(福井県)という。梶山経産相は記者会見で「使用済みMOX燃料については、これまでの研究開発で技術的課題や解決の検討が進んでいる。使用済みMOX燃料を含め、すべての使用済み燃料を再処理し、回収したウランとプルトニウムを再利用するのが政府の方針だ」と、これまでの答弁を繰り返すばかりだ。
 政府と電力会社が原発から出た使用済み核燃料だけでなく、プルサーマル後の使用済みMOX燃料についても、再処理して使うという方針を堅持するのは、使用済みの両燃料を「核廃棄物」と認めてしまったら、最終処分先を探さなくてはならないからだろう。
 電力会社は使用済み核燃料と使用済みMOX燃料を会計上、資産に計上している。しかし、どちらも核廃棄物とみなせば資産でなくなり、電力会社は赤字に陥る可能性がある。電力会社が再処理にこだわる理由には、そんな事情があるのも間違いない。
 仮に六ケ所村の再処理工場が稼働し、プルサーマルでプルトニウムを消費したとしても、使用済みMOX燃料という新たな難題が生まれ、次世代にツケを残すのは目に見えている。
 国際的な環境NGO「FoE(フレンズ・オブ・ジ・アース)ジャパン」は「核燃料サイクルは既に破綻している。使用済みMOX燃料の処分の見通しも立たないなか、政府は一刻も早く再処理事業の撤退を決断すべきだ」と、原子力規制委に申し入れた。だが、安倍政権に見直しの動きはない。
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