[2020_02_20_01]女川原発再稼働を許さない 規制委は被災原発の「審査書」は撤回すべき 東北電力の経理的基礎を問うべき 事故に対処する人員の確保が不十分 山崎久隆(たんぽぽ舎)(たんぽぽ舎2020年2月20日)
 
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女川原発再稼働を許さない 規制委は被災原発の「審査書」は撤回すべき 東北電力の経理的基礎を問うべき 事故に対処する人員の確保が不十分 山崎久隆(たんぽぽ舎)

 ところが規制庁側が女川原発2号機についてはまだ審査が終わっていないことを理由に、回答を拒否、当日は具体的な問題点については一切答えなかったため手続面にのみ集中して、市民側から疑問点をぶつけるに留まった。
 東海第二に続き被災原発の女川原発2号機の再稼働に道を開く「審査書(案)」は既に決定されていて、パブリックコメントを受けて審査書決定の直前にあると思われるのに、具体的な点には一切答えない規制庁側の姿勢には強く抗議をしながら、他の問題についての議論に移っていった。

 女川原発2号機でのやりとり

 手続き、特にパブリックコメントまで終わっているのに、この場で質問に答えない(答えられない)のはどうしてか、といったところに質問と意見は集中したが、規制庁から出席した担当者は苦しい回答に終始した。
 原子力規制委員会は2019年11月27日に女川2号炉の設置変更許可審査書(案)を全会一致で決定し、12月27日までパブリックコメントを募集し、現在その回答と審査書をまとめている段階だ。だからこそ、私たちの疑問に明確に回答できなければならない。
 また、決定前に最後に市民が意見を言う場であり、それについての釈明を規制庁が事務方として説明しなければならない。
 原子力規制庁が質問文の指摘に自信を持って回答することが出来ないからの回答拒否である。
 女川原発では何が問題か
 規制庁からの回答はなかったが、東京と仙台で質問を提出した。
 その要旨は次の通り。

1.複数号機立地問題・他号機の審査もしなければならない

 女川原発は3基の原子炉が建っており、2号機だけの審査をしても放射性物質拡散防止対策は不十分だ。1号機は廃炉だが使用済燃料プールには燃料体があるし、3号機は再稼働申請はしていないが廃炉でもない。使用済燃料プールも問題である。

2.東北電力の経理的基礎を問うべき

 東電と同様、東海第二に推定600億円の資金支援を表明し、債務保証を行う見通しだが、女川だけで3400億円、さらに金額未確定の東通原発もあり、経営規模が比較的小さい東北電力としては経営基盤を揺るがせかねない巨額の負担になっている。これを審査しない理由は何か。

3.事故に対処する人員の確保が不十分

 福島第一原発事故では緊急事態に陥った時に交代要員もなく被曝を強いられた運転員や下請け従業員が多数あり、「福島フィフティ」と呼ばれた「決死隊」によりキーとなる時期の収束活動を行わなければならなかった。
 東北電力も約70名で収束活動を7日間、救援無しで行うとの想定だが、これは福島第一原発事故の教訓をも無視する暴挙ではないか。

4.東北電力の「経験」とは何を意味するのか

 福島第一原発事故の影に隠れてあまりにも知られていないが、女川原発も極めて危機的状況に陥っていた。
 これは2007年に中越沖地震の際、柏崎刈羽原発で起きた高エネルギーアーク損傷火災(※1)(3号機の起動変圧器火災事故)を教訓化していなかったことが大きな原因であり「過去の経験に学ぶ」ことが出来なかった。その点に何の言及もないのは異常なことである。

5.地震想定の誤り

 最大1000ガル(水平)600ガル(垂直)の基準地震動は極めて過小な評価であり、女川原発に近い岩手宮城南部地震での4000ガルを超えるケースや柏崎刈羽原発の基準地震動2300ガル、浜岡原発の2000ガルに比べても大きく見劣りがする。
 また、近年解明されてきている「キラーパルス」(※2)についても何ら考慮されていない。

6.津波想定の誤り

 津波の想定が29メートルと極めて高く設定されているようだが、実際には三陸地方では30メートルを超える津波はざらに観測されている。また、引き波による取水口露出についても過小評価となっている。

7.竜巻想定の誤り

 竜巻想定は100メートル毎秒だが、120メートル毎秒程度は起こりえる。想定が小さい。特に近年指摘される台風の大型化などは今後想定されるべきものである。

8.火山対策の誤り

 火山の噴火に伴う火砕降下物(火山灰など)の想定は15センチを想定しているが対策も15センチを前提としている。想定値と対策値が同じではばらつきに対処できない。

9.外部火災の評価の誤り

 「外部火災に対する設計方針」は事実上「想定しない」ことにになっている。
 航空機の墜落は確率的に小さいから想定しないとしつつ、故意による航空機墜落は「テロ行為」として想定している矛盾がある。

10.システムへの侵入防止対策の問題点

 「その他人為事象に対する設計方針」では実態とはかけ離れた審査をしている。
 一般にこれは安全保護系統以外のサイバー攻撃ないしは外部からシステムへの侵入についてを想定していると考えられるが、その観点からの対策は一切記載されていない。

11.安全保護系の安全対策の問題点

 「安全保護系のデジタル計算機は、盤の施錠等により、ハードウェアを直接接続させないことで物理的に分離する設計とする。」等が対策とされている。
 しかし盤の施錠は破壊されれば突破されるので、そもそも対策にはならない。それ以外にも鯉による侵入を図ろうとするものには大した効果がないことが羅列されているだけである。

12.火災損傷防止対策の問題点

 火災による損傷の防止としては3.11の際の「高エネルギーアーク損傷火災」(※1)が1号機タービン建屋で発生していることが重要。
 これは地震により発生した2例目であり、教訓化されていなかった証明でもある。地震により高圧設備が大きく揺れる場合、この種の火災を防止することは困難である。

13.原子炉停止系と後備停止系の成立性の問題点

 「原子炉停止機能喪失」及び「緊急停止失敗時に発電用原子炉を未臨界にするための設備及び手順等」については、解析が不十分であり安全性確保の体制が取られているとは言い難い。
 沸騰水型軽水炉は特に地震による揺れで炉心が不安定になりやすい。その際、同時に制御棒駆動系が破損して挿入できなくなれば原子炉は止まらない。
 その場合、炉心出力を下げるためには再循環ポンプを停止して自然循環状態にするが、その結果ますます炉心は不安定になる。
 ほう酸を注入して原子炉を止める「後備停止系」を使うことになっているが、制御棒駆動系統が破壊されるほどの打撃を受けているのだから、ほう酸注入系統配管が破壊されていてもおかしくない。また、それを前提としておくべきである。
 従って、これらの対策のない原子炉は安全上問題がある。

14.発電所敷地外への放射性物質拡散対策の誤り

 原子炉建屋が破損して大量の放射性物質が拡散した場合、大気への拡散の抑制、海洋への拡散の抑制を期待して外部から放水砲を使って海水を泡立てて放水する。
 しかしこれでは高温の燃料体に海水をかけることになる上、周辺に放出された放射性物質を海に流し込むことになる。
 想定している場面と効果について、矛盾があるのではないか。
 ちなみにチェルノブイリ原発では建屋が損傷して大量に放射性物質を放出している原子炉にはドロマイトと鉛を投入した。水をかけてはいない。

15.防潮堤に関して

 原発の重要施設は基礎が岩盤まで届いていることが求められているのに、168本の鋼管杭を地盤に打ち込み壁としている構造の防潮堤の杭が、下にある設備のために岩盤まで届いていないものがある。そのため地盤の改良が必要とされた。しかしそれは巨額の費用がかかるのに実効性に問題がある。

16.格納容器破損防止対策と水蒸気爆発について

 東北電力が行おうしている格納容器破損防止対策は、その直下に「水張り」をすることにより溶け落ちた核燃料を冷やすというものだが、それが却って水蒸気爆発を誘発させるのではないか、という懸念がある。
 過酷事故対策が対策になっていない問題が生じていることを指摘している。
 今後も追及しよう
 女川原発の再稼働は被災原発であることもあり極めて危険だ。
 東日本大震災の後も、宮城県沖を含む日本海溝沿いでは高い確率で地震と津波を引き起こす可能性が指摘されている。
 地震についても、想像を絶するキラーパルス(※2)による破壊が発生する危険性があり、更に高エネルギーアーク損傷火災(※1)の対策も十分ではない。
 原子炉は暴走の危険もあり、地震と津波で被災した女川町や石巻市の人々にとっても、さらに大きなリスクをもたらす。
 再稼働させないために、今後も国、事業者に対して共に追及していきたい。

※1「高エネルギーアーク損傷」
       (HEAF:High Energy Arcing Fault)
 遮断器や開閉器などの通電された導体間、または通電された部品とアースの間に大電流のアーク放電が発生し、熱、光、金属の蒸発及び圧力上昇を伴って、急激なエネルギーの放出が起こる事象として特徴付けられる爆発性の電気故障である。
 (「原子力規制委員会」 www.nsr.go.jp/data/000160077.pdf )より

※2「キラーパルス」別名:やや短周期地震動
 地震学において、地震による揺れの速さ(周期)のうち、特に木造 家屋などにダメージを与えやすい、1秒〜2秒周期の揺れ。
                 「新語時事用語辞典」より
「脱原発東電株主運動ニュース」No290より転載(2020年2月16日発行)
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