[2022_01_09_02]【独自】富士山より大規模噴火Xデーの可能性が高い16活火山「マグマだまり、兆候ある」と専門家〈dot.〉(アエラ2022年1月9日)
 
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【独自】富士山より大規模噴火Xデーの可能性が高い16活火山「マグマだまり、兆候ある」と専門家〈dot.〉

 筆者:吉崎洋夫
 日本で標高が最も高い富士山は、大規模噴火の可能性が常に心配される活火山の一つだ。ただ日本は火山大国。専門家の間ではそれ以外の活火山にも目が向けられている。過去の噴火の規模で比較すれば、1707年の富士山大噴火を超える活火山が全国に16もあることが、AERAdot.の調べでわかった。さらに取材を進めると、Xデーに今から備えるべき火山もわかってきた。
 「内閣府では首都圏への降灰対策の議論を進めているが、これは富士山の大規模噴火だけを想定したものではありません」
 産業技術総合研究所(産総研)地質調査総合センター活断層・火山研究部門の山元孝広副研究部門長は強調する。
 2020年に内閣府の中央防災会議は、1707年に富士山が大規模噴火したケース(宝永大噴火)を事例にした首都圏における火山灰の降灰シミュレーションを公表した。1707年の大規模噴火では、降灰が横浜で10センチ、江戸でも5センチもの厚さになったところがあると推定。火山灰が1センチでも積もれば、車の運転は難しくなり、火力発電所のガスタービンに火山灰が入ると、発電設備が損傷する可能性が高いとされる。電気・ガス・水道などのライフラインが止まるだけではなく、気管支炎などの住民の健康被害も想定されている。
 この公表で富士山の大規模噴火に特に注目が集まったが、想定していた火山はほかにもある。山元氏はこう指摘する。
 「富士山以外の活火山でも大規模噴火する可能性があることは専門家の間では共通の認識です。たとえば首都圏へ影響でいえば、浅間山。大規模噴火すれば、首都機能が壊滅的な被害を受ける可能性もあります。首都圏の住民は大規模噴火の被害を受けた経験はないでしょうが、噴火の長い歴史から見れば、偶然でしかない。内閣府や自治体でも万が一の噴火に備えてどう対応するか。議論を進めているところもありますが、十分に進んでいるとは言えない状況です」

 では、日本には全国に活火山が点在しているが、いったい日本のどこの活火山がどのくらい噴火する可能性があるのか。AERAdot.は、産総研の「1万年噴火イベントデータ集」で、日本全国110ある活火山の噴火実績を調査。火山の噴火規模を表す「噴火マグニチュード」(噴火M)が、1707年の富士山大噴火(噴火M5・26)より大きい事例をまとめた。
 その結果、過去1万年以内で1707年の富士山大噴火の噴火Mを超えたことのある火山は16あった。富士山でも2例(5600−3500年前の間、864〜866年)あった。学術的には噴火M6以上は「巨大噴火」、噴火M6未満4以上は「大規模噴火」に分類される。富士山以外では、巨大噴火した火山は3つ、大規模噴火は13もあった。
 これらは過去の噴火の規模を表すデータだ。この中で、遠くない将来に噴火が起きる可能性がある活火山はあるのだろうか。
 実は、直近の地盤の変化から推測して噴火の兆候がみられ、専門家の間で懸念は高まっている火山がある。桜島(鹿児島)の噴火だ。1779年に噴火M5・7の大規模噴火を起こし、1914年にも噴火M5・6の噴火(大正大噴火)を起こしている。山元氏は「大正大噴火クラスの大規模噴火する兆候が出てきている」という。
 鹿児島市危機管理課によると、大正大噴火後に80センチ地盤が沈下した場所が、現在は大正大噴火に近い程度にまで地盤が隆起してきている。これは地下の「マグマだまり」という場所にマグマが溜まってきていることを示している。市の担当者はこう語る。
 「必ずしも大規模噴火するわけではないが、マグマが蓄積してきていることはわかっており、2020年代には大正噴火と同じレベルまで溜まると言われている。大規模噴火に警戒を要する時期に入っています。桜島では大規模噴火を想定した避難訓練を毎年実施しており、意識は高い。鹿児島市街地でも火山灰・軽石の対応計画を昨年7月から周知しているところで、これからも対策を進めていくところです」

 過去に起きた大正大噴火は桜島が大隅半島と陸続きになった噴火だった。軽石・火山灰は桜島のほぼ全域で20センチを超え、厚いところでは1メートルを超えた。大隅半島でも厚さ10センチの区域が、ほぼ半分の面積を占め、多いところでは1メートルを超えた。火山灰はカムチャッカ半島にまで飛んだと言われる。交通や通信が不通となり、農業も壊滅的な被害を受け、周辺地域に大打撃を与えたと言われている。
 大規模噴火の兆候がなくても、取り組みを進める自治体もある。十和田火山(青森・秋田)は6200年前に噴火M5・8の大規模噴火を、915年にも噴火M5・7の大規模噴火を起こしている。青森県、秋田県、岩手県などで構成される十和田火山防災協議会は「今は静かに見えるが、十和田火山は将来必ず噴火する」と警鐘を鳴らしている。
 特に影響が大きいとされるのが、青森県の被害だ。公表されているハザードマップによると、青森県は全域で10センチ以上の火山灰や軽石などの降下物があるとされる。青森市では30センチ以上、多いところでは100センチ以上積もる可能性がある。大間原発では10センチ以上、東通原発と使用済み核燃料再処理工場は30センチ以上のエリアに入っており、影響が懸念されている。
 大規模噴火すれば、県が壊滅する事態が想定される。青森県防災危機管理課の担当者はこう語る。
 「今はハザードマップを踏まえて、避難計画についてはいま検討しているところです。小規模噴火の対応から検討していますが、大規模噴火となると関係機関も多くなり、対応をまとめるのにはかなりの時間がかかると見ています」
 一方、三瓶山(島根県)は3870年前に噴火M6・5もの巨大噴火を起こしたことがある活火山だ。巨大噴火を起こせば、数万軒もの家屋が被害を受けるとされ、風向きによっては首都圏にも火山灰が降るとも言われる。
 しかし、島根県防災危機管理課の担当者は「大規模に噴火することも想定して危機意識の啓発のために年に一度講演会を開いているが、避難訓練などは行っていない。噴火の兆候もなく巨大噴火に対する危機意識は高くない」という。
 自治体によって温度差がある噴火対策。しかし人類は、想定外の自然災害に翻弄され続けてきた。まずは、自分の住む地域に影響を及ぼす活火山の歴史を調べてみてはどうだろうか。(AERA dot.編集部・吉崎洋夫)
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