[2012_02_10_01]3.11大震災 青森考 フクシマの教訓 第6部 断層問題1 活動性有無 判断難しく 事業者「横浜」の評価覆す(東奥日報2012年2月10日)
 
 2008年9月、むつ市南部から横浜町にかけて南北に延びる横浜断層が、事業者による調査で、新たに「活断層」であることが分かった。
 それまで「活動性がない」としていた事業者は評価を覆した格好となったが、同時に、断層調査の精度や信頼性に一定の限界がある現実を浮き彫りにした。
 「判断が難しかった。十分な調査を行ったと考えているが…」。東通原発1号機の建設を計画していた東京電力の担当者らは、記者会見でため息交じりに語った。

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 東電は06年、同原発の原子炉設置許可を国に申請した際、施設の耐震性の検討で、横浜断層を「考慮すべき断層」に含めなかった。だが、国はさらなる調査を指示。隣の敷地で東通原発1号機をすでに稼働していた東北電力、むつ市に使用済み核燃料中間貯蔵施設を計画中のリサイクル燃料貯蔵を加えた3事業者が合同で調査したところ、横浜断層の中心部とされる横浜町鶏沢地区で、約11万年前の地層に、断層活動による変形が見つかった。
 事業者が当初、約13キロと評価していた断層の長さも、最終的には国の専門家調査会で約15.4キロと断定した。
 結果として、事業者の過小評価、調査不足があったことは否めない。ただ、複数の専門家は「断層の活動性の評価は難しい」と口をそろえる。
 活動性は、断層活動による地形の変形の有無や、切り通しなどに現れた地層の断面、地表面を掘り下げた溝(トレンチ)の調査、音波探査などで調べる。
 弘前大学理工学研究科の小菅正裕准教授(地震学)によると、地形の変形は活断層を見つける重要な手段だが、それだけでは有無の判断が難しい場合がある。また、今なお確認できない「未知の活断層」が、各地に存在する可能性があるという。
 例えば、20人以上の死者・行方不明者を出した08年6月の岩手・宮城内陸地震は、地震を起こした活断層が事前に確認されていなかった。小菅准教授は「地震が起きた後に調べて『活断層では』という話が出てくることもある。断層が動いても地表に現れない場合があり、そのような活断層は見つけにくい」と説明する。
 原子力安全委員会の耐震安全性評価特別委員長を努める愛知工業大学の入倉孝次郎客員教授(強震動地震学)も評価の難しさを認めつつ、一方で「疑わしい断層はすべて、地震動を評価して影響を検討することが必要」と指摘。調査を徹底するべきだとの認識を示した。

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 3事業者は、横浜断層の活動性を認めるとともに、断層が起こす可能性のある地震の揺れについて各施設への影響を新たに調べた。そして、他の地震活動を参考に想定していた最大の揺れ(基準地震動)を下回る−と結論づけた。今も、各施設の耐震安全性に問題はないとする見解は変えていない。
 だが、ある地形学者は根本的な問題を指摘する。「世界的に見て、日本は地殻変動が激しい地域。そこで原発を稼働させる危険性を、日本人は本当に知っているのだろうか」

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 本県の断層と原子力施設の安全性をめぐる議論が収束しないまま日本は東日本大震災を経験し、東電福島第1原発の事故を目の当たりにした。活動性の評価にとどまらず、断層問題は、専門家間の意見の食い違い、安全審査の在り方など、さまざまな課題を抱える。断層問題をあらためて考える。(本紙取材班) 断 層 近くに力が加わって岩盤が面上に壊れた痕跡。断層が動く都度、地震が起きる。一定の間隔で繰り返し活動することが多い。最近数十万年の間に活動した形跡があり、将来も地震を発生させる恐れがある断層を特に活断層と呼ぶ。2006年に改定された、原発の耐震設計審査の新指針では、13万〜12万年前以降に動いた可能性のあるものを「考慮すべき断層」とし、旧指針よりその取囲を広げた。
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