[2021_10_07_07]和歌山市の水道橋の崩落事故に思う 中央構造線断層群に注意せよ 伊方原発直下地震の危険性がある 新規制基準では基準地震動の揺れを二度連続して受けるケースは想定外 断層運動で社会インフラも損傷か 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)(たんぽぽ舎2021年10月7日)
 
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和歌山市の水道橋の崩落事故に思う 中央構造線断層群に注意せよ 伊方原発直下地震の危険性がある 新規制基準では基準地震動の揺れを二度連続して受けるケースは想定外 断層運動で社会インフラも損傷か 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)


1.和歌山市で水道橋の崩落事故
  紀の川に架かる水道橋の落橋と中央構造線断層帯

 和歌山市紀の川に架かる水道橋「六十谷(むそた)水管橋」が突如崩落した事故で、和歌山市の尾花正啓市長は10月4日に会見を開き、「(耐震化)工事をしたばかり。老朽化そのものが落橋につながったとは考えられない」と語った。
 耐震化工事は2015年度に実施したとし「大きい地震が来ても落ちないようにしっかりやっていた」と述べた。
 2本並んで敷設されている管のうち北側(上流から見て左)は完全に切れて落ち、南側はぶら下がった状態だと説明、「何らかの原因があったのでは」としたが、原因は調査中という。
 落橋事故の影響で市の北部地域で断水が続き、各地からの救援を含めて多数の給水車が水を運んでいる。断水している世帯は約6万世帯(約13万8千人)に上るという。
 後日、隣接する道路橋を封鎖して臨時の給水管を敷設し、仮復旧するのに9日までかかるとの見通しを明らかにしている。
 落橋時の動画は、和歌山河川国道事務所が近くに設置していたカメラに記録されており、それが公開されている。
 わずか3秒ほどで完全に落ちてしまうが、最初に向かって左側の水道管2本がアーチ構造と接続している部分が破断し、アーチ状の桁と同時に落下している。
 右側は落下に伴い折れ曲がるように破損しているが、完全には落ちていないので配管がぶら下がった状態になっている。最初の破断が起きた場所に大きな力が加わって瞬時に壊れたようだ。
 天候は晴れているようで、風が強いとか竜巻が起きているといった状況ではない。落下当時、隣の自動車橋には普通に車が走っていて、気象が原因ではない。
 地震も起きていないし、もちろん船舶や漂流物が衝突したわけでもない。まさしく「突然落ちた」印象だ。

2.中央構造線が通る場所

 橋のある場所は和歌山市内の紀の川の下流部、中央構造線の中の「根来断層」にも近い。
 実は、和歌山県北部は地震が多い。今年に入り震度1以上の地震が60回も起きている。ほとんどは1程度だが、中には2021年3月15日0時26分頃の震度5弱(M4.6)などというものもある。
 ただし、この地震の震源は紀の川よりもかなり南で、紀の川付近の震度は1程度。
 地震調査研究推進本部(地震本部)によれば、紀の川周辺は中央構造線断層群の一部にあたり、落橋した場所にも近い。
 右横ずれ断層である根来断層も中央構造線断層群の一部で、長期評価によればAランク、「和泉山脈南縁のうち、和歌山県紀の川市から和歌山市付近に至る区間(根来区間)の最新活動は、7世紀以後、8世紀以前であったと推定され、1回の活動に伴う右横ずれ量は4m程度であった可能性がある。平均的な活動間隔は2500年から2900年程度であった可能性がある。」 (中央構造線断層帯の長期評価(第二版)平成29年12月19日公表)
 また、断層帯の将来の活動については「根来区間が活動すると、M7.2程度の地震が発生すると推定され、その際に3m程度の右横ずれが生じる可能性がある。」と評価している。
 中央構造線断層帯(金剛山地東縁〜和泉山脈南縁)における重点的調査観測による地下構造調査」(京都大学防災研究所年報第63号 2020年)によると、紀の川付近の中央構造線(地質境界)の南側、三波川変成岩層に対して、北側の和泉層群の地層は大きく曲がっており、長い時間に蓄積された右横ずれによる変動の状況がよくわかる。
 ここまで調べると、落橋と中央構造線の活動の間に何らかの関係があるのではないか。そういう疑問がわいてきた。
 近年、中央構造線は各所で活動度が上がっているとされている。
 最近、徳島県北部を震源とする地震も多くなっている。
 地震で瞬時に破断したのではなく、徐々に両岸で変異が蓄積し、そのひずみが水道橋の配管にかかり続けた結果、ある段階で限界を超えて破断し、落下してしまったのではないかと思われる。その際には既にあった腐食なども影響したかも知れない。
 通常の道路や鉄道の桁は、橋脚の上に乗せているもののがっちりとは固定せずに、揺れや伸びを逃がす構造になっている。
 落橋防止装置の金具やワイヤなどもついており、多少の変形があっても落下することはないようにしている。落下しそうなほどの変形が認められれば補修や架け替えができる。
 しかしこの水道橋は、橋げたの上に水道管を通しているが、水道管自体はボルトで連結されており、両岸の変位は中央部に応力集中しそうだ。実際に落橋したのは真ん中付近からだ。

3.連動して起きる地震に備える

 東北地方太平洋沖地震の発生により、海溝沿いのプレート間地震について関心が高まっている。
 地震本部によれば「南海トラフで発生する地震はマグニチュード8〜9クラスで今後30年以内に70%〜80%の確率」(海溝型地震の長期評価「南海トラフで次に発生する地震の発生確率」より)とされている。
 さらに、これに影響を受ける断層群についても考慮しなければならない。
 例えば、同じ地震本部による「主要活断層帯の長期評価」で、中央構造線の評価は各地の断層ごとに異なる。
 このうち、伊方原発のほぼ真下に位置する中央構造線断層帯(金剛山地東縁−由布院)の長期評価では、伊予灘については「Zランク、0.04−0.1%」とされている。
 しかし、この区域の地震も最近いくつか起きているし、南海トラフの地震が起きれば極めて大きな力が加わることにより連動して大地震になるかもしれない。
 東日本大震災では、大地震の影響を受けた直下型地震も起きている。
 東北地方太平洋沖地震から1か月後の4月11、12日、連続して直下型の大地震に見舞われ、いわき市中・南部に大きな被害をもたらした。
 3月に起こった大地震の影響(誘発地震)とみられ、いずれも震度は6弱の大きさであった。
 4月11日には午後5時16分、井戸沢断層(田人町石住−川部町)南端の地下約6kmで起こり、マグニチュード7.0であった。この場合、断層が地表に現れたのは井戸沢断層に沿って西側に出現した断層(塩ノ平断層)であった。
 しかも井戸沢断層よりも北北西方向に約5km延びた場所で地割れや亀裂が生じた。
 4月12日は午後2時7分、湯ノ岳断層(遠野町入遠野−常磐藤原町)の西側、地下約15kmで起こり、マグニチュード6.4。
 従来の研究により確認されていた断層に加え、長い同断層の南東方向に約2km延びた場所で、地割れや亀裂が生じた。(「いわき市・東日本大震災の証言と記録」より)
 プレート間地震による大きな力は、内陸の断層にも大きな影響を与え、従来動くとは考えていなかった断層が活動することもある。
 また、プレート間地震からある程度時間をおいて発生することもある。

4.新規制基準では基準地震動の揺れを二度連続して受けるケースは想定外

 こうした地震の影響を原発は想定していない。
 もともと中央構造線が真下に近い場所を通っている伊方原発は、南海トラフの巨大地震の影響を受けたのちにダメージを被ったまま、今度は誘発されて起きる中央構造線断層群の地震にも襲われる。いわばダブルパンチ。
 現在の新規制基準において、基準地震動の揺れを二度連続して受けるケースは想定外だ。
 最初の地震で損傷を受けていても冷却材の喪失や全電源喪失を起こしたり炉心溶融のような事故に至っていなければ問題がないとされる。
 しかし設備や冷却能力の一部が損傷した後に大きな地震に襲われることを想定していないので、二度目の打撃は評価もされていない。
 中央構造線は活断層であり、想定される地震動はかなりのものになるから、伊方原発で、南海トラフの地震による大きな損傷をうけたのちに、誘発された中央構造線断層群による直下地震に見舞われて炉心溶融に至ることは、想定できるし、しなければならない。
 しかし規制委はそうしたことを四国電力に要求していない。
 最初の紀の川水道橋に戻るのだが、徐々に断層が動いている場合は、GPSなどで精密測定でもしていないとわからない。
 中央構造線から600m程度しか離れていない伊方原発の敷地内で、ゆっくりと地盤が変動し続けた場合、原発内外の大量の配管に徐々に応力がかかり、各所で破壊寸前または変位によりひずみがたまった状態になっているかもしれない。
 そこに地震動の強大な力が一気にかかると、計算上は持つはずだった冷却系配管や電源設備が瞬時に同時破壊してしまうかもしれない。
 こうしたことを、水道橋の落下映像を見ていて考えていた。
 もちろん、データがあるわけでもないので、ある種「妄想」である。
 しかし否定する証拠もないだろう。
 四国電力はそのような可能性も含めて、危機感を持って管理しているのだろうか。
 水道橋の落橋は、活動的な断層の、変動する地形の真っただ中に原発を建ててしまったことへの警告なのではないだろうか。

※関連報道
 “水管橋崩落”の瞬間 専門家が警鐘「全国でも起きる可能性…」
           (10/5(火)13:06配信「テレ朝news」)
https://news.yahoo.co.jp/articles/b4c42a8ff08426359f2e7fa1558e3f89c6ef9a8a
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