[2023_11_10_08]<社説>福島作業員汚染 処理水放出 一時中断を(北海道新聞2023年11月10日)
 
参照元
<社説>福島作業員汚染 処理水放出 一時中断を

 05:00
 東京電力福島第1原発で先月25日に作業員が放射性物質を含む廃液を浴びた問題で、管理体制の不備が明らかになってきた。
 トラブルは汚染水を処理する多核種除去設備(ALPS)の配管洗浄中に起き、汚染を防ぐ雨がっぱ未着用の2人が一時入院した。
 現場で安全確保を担う作業班長が不在だったことも分かった。
 原子力規制委員会の山中伸介委員長は先週の記者会見で私見として「(廃炉を進める)実施計画違反であると認識」すると述べた。
 東電は新潟県の柏崎刈羽原発でも一昨年にずさんなテロ対策が発覚し、規制委が事実上の運転禁止命令を出している。福島事故の反省を忘れてしまったのだろうか。
 8月から続く処理水放出にも懸念が生じよう。放出を一時中断し廃炉作業を総点検すべきだ。
 東電によると作業の監視役だった2人は、配管洗浄後の廃液をタンクに移す際に仮設ホースが外れて、防護服の上から浴びた。
 廃液には放射性物質ストロンチウム90などが含まれており、除染後も汚染レベルが基準を下回らず病院に搬送された。東電は「雨がっぱ着用は必要」と認めている。
 2人とも体調に問題はないというが身体汚染の作業員入院は福島事故時以来だ。当初約100ミリリットルとみられた廃液飛散も数リットルだったと判明し、軽視できぬ事態だ。
 東電は当初1次下請けの作業としていたが、実際は3次下請けで3社にまたがっていた。作業班長も契約上は常駐であるものの不在であり、いいかげんさが目立つ。
 トラブル時には国際原子力機関(IAEA)の調査団が現地視察に訪れていたが目立った議論はなく「放出は計画通りに進んでおり、技術的な懸念はない」とした。
 結果だけでなく作業過程に問題がないか調べる必要があろう。
 政府の姿勢も問題だ。西村康稔経済産業相は国会答弁などで「違反はない」としていたが、山中氏の発言を受け「原子力規制委員会の議論を注視する」と修正した。
 「東電や経産省の職員から法令に違反していないと報告を受けていた」ためと言うが、岸田文雄政権が打ち出した原発回帰政策の中で再び「安全神話」に陥り、不都合な事実に目を背けていないか。
 処理水放出は全国の漁業者らの反対を押し切って強行された。30年以上続くとされ、トラブルには正確で丁寧な対応が必要である。
 放出に国際社会の関心も高い。政府と東電はトラブルの検証と再発防止を早急に示してほしい。
KEY_WORD:ALPS洗浄_廃液浴びる_:FUKU1_:KASHIWA_:汚染水_: