[2020_03_28_03]むつ核燃新税 中間貯蔵搬入前施工を狙う 市長「暮らし向上に期待」県・RFSと交渉の手札に(東奥日報2020年3月28日)
 
 使用済み核燃料へ新たに課税する「むつ市使用済燃料税条例」が27日に成立したことを受け、市は今後、創設に向けた総務大臣協議に入る。同意を得た後に、使用済み核燃料中間貯蔵施設(同市)に燃料が搬入される前の条例施行を目指す。総務省によると、地方税法に定めのない税目「法定外税」を県内市町村が制定した事例はなく、総務大臣の同意が得られれば初となる。   (工藤洋平)

 使用済燃料税は、使途に制限がない法定外普通税。地方税法は市町村の法定外税について(1)他の税と基準が同じで、税負担が著しく過重(2)物の流通に重大な障害を与える(3)国の経済施策と照らして適当でないーの3要件に抵触しない限り、総務大臣は同意しなければならないと定めている。
 経済省は、法定外税の総務大臣協議から同意までの標準処理期間について、3カ月を目安としている。ただ、中間貯蔵事業のように過去に事例がない案件の場合は、この期聞を超えることがあるという。
 むつ市は総務大臣の同意を得た後、規則で条例の施行日を定める予定。中間貯蔵施設を運営するリサイクル燃料貯蔵(同市、RFS)は、2021年度の事業開始を見込んでいる。
 市では、宮下順一郎前市長(故人)時代に使用済み核燃料への課税を検討していた。09年に条例などの素案を作成したが、11年の東日本大震災や福島第1原発事故を受け作業は中断した。宮下宗一郎市長が19年に再び課税の方針を示し、同年8月から庁内プロジェクトチームで検討、20年3月に市議会へ条例案を提出した。
 市議会は27日の臨時市議会で、使用済燃料税の減免措置運用に当たり市に対して「事業者の経営状況の正確な把握に努め、過重負担とならないよう、最大限真摯な対応を要望する」との付帯決議(議員提出議案)を審議。賛成多数で可決した。

 市長「暮らし向上に期待」

 むつ市使用済燃料税条例成立を受け、宮下宗一郎市長は27日、市役所での会見で「新たな財源が、市民の暮らし向上につながると期待する」と述べた。宮下市長は30日に、特定納税義務者となるリサイクル燃料貯蔵(同市、RFS)に条例成立を報告するほか、今後三村申吾知事への報告も予定している。
 宮下市長は会見で「私たちは、国策を受け入れ協力する立場にある。それをてこに税収を得て、将来的に国策から自立していく道をっくる」と新税の意義を強調。県の動向に関して「県は課税の意思表明をしていないと確認している。私たちから協議を申し入れることではない」と話した。
 むつ市の条例成立に対し、県税務課の織田勝則課長は「特にコメントできることはない」と述べるにとどめた。使用済み核燃料中間貯蔵施設への県核燃料物質等取扱税(核燃税)課税については「原子力施設の立地の都度、課税対象として追加しており、中間貯蔵施設についても同様の取り扱いになると考えている」と、これまでの説明を繰り返した。
 RFSは「これまでの市当局との協議の中で、十分な内容確認に至っておらず、現時点では判断できる状況にない」と、市議会に提出した意見書と同様のコメントを発表。「互いに十分な理解に達するまで、しっかり協議を重ねていきたい」とした。
 一方、核燃サイクル事業に反対するむつ市の団体「核の中間貯蔵施設はいらない!下北の会」の栗橋伸夫氏は「なぜ今、急いで成立させたのか。もっと時間をかけて、新税に対する市民の理解や、RFSとの合意を得るベきだ」と語った。
 (工藤洋平、加藤景子)

 県・RFSと交渉の手札
 解説

 「市制施行以来最大の挑戦」とむつ市が位置づけてきた使用済燃料税の創設は、市議会への条例提案から23日という短期間で、第1ステージが決着した。先んじて課税の意思を明確にし、核燃料物質等取扱税(核燃税)条例がある県や、特定納税義務者となるリサイクル燃料貯蔵(RFS)との交渉の手札にする−。その思惑が、市と市議会で一致したからだ。
 市は昨夏のプロジェクトチーム発足以降、検討状況を逐次公表してきた。市議会や市民を巻き込んで課税の既成事実化を進め、県やRFSをけん制してきた。総務大臣の同意や、RFSが減免を申し出た際の協議に時間的余裕を持って臨むため、早期成案を図った。
 市議会には、年度をまたいで条例を審査するシナリオもあった。しかし、使用済み核燃料中間貯蔵施設が将来的な課税対象となり得るとする県の見解や、「財政需要や担税力を判断できる状況にない」とするRFSの意見書を受け、早期成立へと傾いた。「時間がかかると足をすくわれる」「前に進めるためには確たる材料が必要」との判断が働いた。
 使用済燃料税の創設は、総務大臣の同意に向けた第2ステージに入る。ただ、県が核燃税課税へ本格的に動き始めれば、二重課税の問題が生じる。中間貯蔵施設の操業開始が2021年度の見込み通りとなるかは予断を許さず、そもそも操業しなければ税収は得られない。実現への道のりは、険しいままだ。(工藤洋平)
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