[2020_11_20_01]「特定重大事故等対処施設」問題を解く 九州電力川内原発1号機の再稼働に問題あり 「特重」とは「テロ対策」のみに対応する設備ではない 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)(たんぽぽ舎2020年11月20日)
 
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「特定重大事故等対処施設」問題を解く 九州電力川内原発1号機の再稼働に問題あり 「特重」とは「テロ対策」のみに対応する設備ではない 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)


1.「特定重大事故等対処施設」とは何か

◎ 「特定重大事故等対処施設」略称「特重」。現在稼働している原発も「新規制基準適合性審査」の審査書が決定し再稼働をしてきた高浜原発や玄海原発、再稼働のための安全対策工事をしている東海第二や柏崎刈羽6、7号機、女川原発2号機は、まだ完成していない。
 最初にこの施設が出来たのは、九州電力川内原発1号機、このため11月17日に川内原発1号機を起動した。
 「特重」は既存の原発の原子炉建屋とは別棟として建てられる。
 そこには原発の中央制御室を代替できる施設として原子炉を直接コントロールできる制御盤等がある緊急時制御室、送電線からではなく自立的に発電できる発電設備、圧力容器に水を送るポンプ、溶融した炉心を冷却するため格納容器に水を送るポンプ、そしてこれらの水源(淡水タンク、枯渇する場合は海から取水)を設置するとされる。

◎ では「特重」とは、いかなる考え方から出てきたのか。
 「『特定』重大事故等対処施設」とは、重大事故が起きている状況下でさらに『特定』のシナリオに乗って拡大することを防止するために対策することであり「特定重大事故等対処施設」として準備するよう法令上(原子炉等規制法第43条)で義務づけた。
 一部報道のように「テロ対策」のみをするような設備ではない。
 新規制基準では「シビアアクシデント対策」「重大事故対策」が必須であり、さらにそれを超えるシナリオ、予測困難な事態を想定しなければならない。
 そのことから「重大事故」の先にあるものとして「特定重大事故」がある。テロ対策は、その中の1つに過ぎない。
 現在重大事故になり得るものとして想定されているのは「地震」「津波」に加え、「火山噴火」「竜巻」「大規模火災」「内部溢水」などがある。もちろんこれらが複合することも十分あり得る。

◎ 災害が発生し、原子炉冷却用のシステムが使えなくなり、外部、非常用の電源を全て失った状態から、炉心溶融へと進行し福島第一原発事故への道をたどる恐れが高まった場合に、代替冷却、放射性物質の拡散防止対策を実行できるように「特重」が設けられる。
 なお、「テロ対策」としても機能させるかの法令上の記載、国や事業者の説明があり、マスコミでもそのように記載しているが、特重を対テロ施設、設備として活用できる証拠は何処にも示されていない。
 国や事業者は「テロ対策施設、設備は相手(テロリスト?)に手の内を晒すわけにはいかないから秘密」などともっともらしいことを言うが、これは説明責任を回避するための方便だ。

2.原子力規制委員会の説明

◎ 規制委が2015年11月13日に出した文書に「特重」の考え方が書かれている。
 「特重施設等は、発電用原子炉施設について、本体施設等(特重施設等以外の施設及び設備をいう。)によって重大事故等対策に必要な機能を満たした上で、その信頼性向上のためのバックアップ対策として求められるものである。」現状の重大事故対策では不足しているので、重大事故時においても大量の放射能を格納容器の外に出さないなどの規制基準を満たす「信頼性向上」のために求められている。

◎ 更田豊志委員長は「施設が完成し、実際に使えることがきちんと示せて初めてOKとなる」としているが、私たちに具体的な実証をしないまま理解を求められても認めるわけにはいかない。
 言うまでもないことだが、「対テロ施設」が必要な状況で、テロ攻撃を受けるリスクのあるものを作るべきではない。
 これでは現実に航空機の衝突をともなう攻撃があり得るものと想定していることになる。
 もしも攻撃を受けた場合は「特重」があろうとなかろうと、結果に大きな違いはない。
 なぜならば「特重」の機能を使う想定をしているケースでは、原子炉が溶融し、建屋にも大きな損傷が発生して格納容器から大量の放射性物質が拡散し続ける中、新たに付け加えられた巨大な水鉄砲「放水砲」で大量の水を掛けてチリをたたき落とすことが「最終防衛」だとしている。
 この程度で大量放出を本気で止められると信じる人はいない。

◎ 大規模な土木工事を実施し、1000億円以上(川内原発は2基分で2420億円)もの費用をかけても、福島第一原発事故を超える事故にならないような対策をすることはできない。
 ましてテロ対策としての「特重」では、攻撃内容、規模などが想定不可能なので、その実効性についての評価も不可能だ。 規制委に対して「武力攻撃に耐えられるのか」と問うと、その答えは驚くべきものだ。
 「武力攻撃事態に対しては、武力攻撃事態対処法及び国民保護法に基づき対策を講じることとしています。」
 「特重」の出番はないらしい。

3.「特重」施設全般の問題点

◎ 「特重」には格納容器スプレイ・圧力容器注水・格納容器の真下のペデスタル注水という3つの注水ラインがあるとされる。
 そこに水源から「特重」に設置されたポンプを使って水を入れる。
 建屋は100メートル以上離れた場所にあり、「特重」施設との間の洞道を介して注水する。
 「特重」と原子炉建屋を離したのは、航空機が意図的にぶつかってくるような場合を想定しているからだという。
 これで「特重」施設が生き残るから重大な炉心溶融に陥ったとしても原子炉建屋に注水できる、というのだ。

◎ 新しい注水ラインを100メートルも引き延ばしたため、複雑な問題が発生する。
 まず、圧力容器への注水ラインを何処に取り付けるのかだ。既に圧力容器には通常の給水ラインに加え、非常用注水系(ECCS)や水位計など様々な配管が繋がっている。
 新たに圧力容器に取り付けるような改造工事は構造上不可能。
 従って既存の給水ラインに繋がる配管のどれかに接続するしかない。
 その配管が破断するなど機能を失っていれば、このラインも機能しない。信頼性はその程度である。

◎ 次に、圧力容器の他にもペデスタル(圧力容器の真下、格納容器の下部の空間)への注水もおこなう想定だが、切り替えがどのように行われるのかを含め、運用が明確ではない。
 圧力容器は川内原発のような加圧水型軽水炉で130気圧もあるので、高圧注入ポンプでないと水は入らないが、ペデスタルは数気圧から10気圧程度で入るだろう。どちらに何時注水するかの判断は難しい。
 さらに、ペデスタル注水は別の問題も引き起こす。
 それは水蒸気爆発だ。
 最大2800度の溶融燃料を冷やすために水を張ると、落下した時に水蒸気爆発を引き起こしかねない。事業者も国も否定するが、これも「絶対に起きない」という保証はない。
 「背に腹は替えられない」とばかりに設計したとしか思えない。

◎ 欧州の新型加圧水型軽水炉「EPR」では、直接水で冷却せず、溶融燃料を取り囲むコンクリート構造物を取り囲んで水で冷却できる「コアキャッチャー」という回収装置を組み込んでいる。これならば水蒸気爆発を極力抑制できると思われる。
 最初から設計時に組み込むならば、この程度のことは可能なのだが、後付けの設備では不可能である。

4.「白抜き黒枠」で情報非公開

◎ 実は、「特重」について、どのような問題があるのかを私たちが詳細に検討することは、ほとんど出来ない。外部の専門家による検証もできない。
 その理由は、白抜き黒枠。つまりほとんどの情報が非公開なのだ。
 いわゆる海苔弁状態だが、黒く塗るのではなく白く抜いて枠線を引いているので「白抜き黒枠」ということ。

◎ 決まり文句は「テロ対策設備なので」「事業者のノウハウを含むので」ということだが、市民の命と企業のノウハウとどっちが大事か。テロ対策というのも先に述べた通り口実に過ぎない。
 図面や構造物の強度計算、さらに後付けの設備なので運用の仕方については問題点がないか知る権利がある。
 ところが意味のある情報はほとんど秘匿されているため、公表されている文書に書かれているような「放射性物質の拡散を防止する」「炉心の溶融進展を防止する」「格納容器を守る」「放射性物質の拡散を低減させる」といった定性的な「能書き」に信頼性があるのかどうかを見極める方法さえないのである。
KEY_WORD:SENDAI_:FUKU1_:ONAGAWA_:KASHIWA_:TOUKAI_GEN2_:GENKAI_:TAKAHAMA_:汚染水_: