[2021_02_16_04]これからも大きな余震あるのか…終わらぬ恐怖 「今回ほど大きいものが来るとは」<福島・宮城 震度6強> (東京新聞2021年2月16日)
 
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これからも大きな余震あるのか…終わらぬ恐怖 「今回ほど大きいものが来るとは」<福島・宮城 震度6強>

 13日深夜、福島県沖を震源として最大震度6強を記録した地震。福島を中心に土砂崩れや家屋倒壊が相次ぎ、150人以上がけがをし、関東・東北の広範囲で停電が起きた。誰もが10年前の東日本大震災の恐怖を思い出す中、気象庁は「東日本大震災の地震の余震」と発表した。10年たってもこれだけの余震が起きるのか、また、今後も大余震の可能性はあるのか。(榊原崇仁、佐藤直子)

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◆「いきなりの揺れで、一気に家がつぶれると思った」

 「布団の中で横になってたら下からドカンと揺れが来た。それから停電になって、真っ暗になって。すぐに10年前のことが頭をよぎった」

(写真)東日本大震災では車が建物の屋根に乗るほどの大津波に襲われた=2011年3月15日、宮城県女川町で

 震度6強に見舞われた福島県相馬市の国分富夫さん(76)は発災時の状況を振り返る。自宅は無事だったが、「近所でブロック塀が倒れたし、小学校の校庭で地割れができたみたい」。
 お隣の南相馬市の小沢洋一さん(64)は「いきなりの揺れで、一気に家がつぶれると思った。慌てて外に出ると、家が横に縦にバウンドしているように見えた」と語る。その自宅は土壁がはがれ落ち、引き戸の鍵が折れてしまった。

◆「緊急地震速報の前から揺れ すぐ停電、携帯も通じず」

 同じ県北部にある伊達市の主婦島明美さん(51)は音声SNS(会員制交流サイト)の「Clubhouse(クラブハウス)」を使って茨城県内の知人らとやりとりをしていた際に被災した。「緊急地震速報の前から揺れだして。どうしよう、どうしようと思って30秒ほどたつと知人の方も揺れ始めた」
 すぐに停電になり、携帯電話も通じなくなった。家族3人でリビングに集まって眠ろうとしたが落ち着かず、ラジオで何とか情報を集めようとした。その一方で、「10年前の震災の後、倒れそうな家具は固定していたので、壊れたのは器一つぐらいで済みました」。
 宮城県南部も強い揺れに見舞われた。丸森町議の山本明徳さん(65)は「地下の深いところからゴーッと響きだすような感じで、『東日本大震災の時と似ている』と直感的に思った。最初は横揺れで、次に縦揺れが来て、台所の茶だんすが倒れてしまった」と話す。町内では停電や断水が発生し、「道路への落石、土砂崩れも起きたという話を聞いています」。

◆「今回ほど大きい余震想像せず油断していた」

 福島、宮城両県では「3・11」後も幾度となく地震が起きていたが、福島市の主婦(60)は「今回ほど大きいものが来るのは想像していなかった。油断していました」と振り返る。相馬市の精神科医、蟻塚亮二さんは「『またやられた』『10年頑張ってきたのに』と無力感を抱いた」と語る。
 10年前のつらい思いがよみがえった人もいる。
 福島県いわき市で暮らす根本美佳さん(51)の長女(16)は、ぐらりと揺れた瞬間、全く動けなくなり、「私が『大丈夫だから』と声を掛けると、泣きだしてしまった」。週明けの15日、根本さんは長女を通学先の高校まで車で送った上、担任の教諭に事情を伝え、様子を見守ってほしいとお願いしたという。
 ただ心配は絶えない。
 東日本大震災の2日前には、宮城県の牡鹿半島の東沖を震源地とするマグニチュード(M)7・3の地震が起きていたため、根本さんは「今回の地震は10年前と同じような予兆なのかもしれない。数日後により大きな地震が来なければいいけど…」と気をもんだ。

◆福島・大熊町役場の壁 いくつものひび入る

 東京電力福島第一原発がある福島県大熊町にも、地震の被害は及んだ。
 町南部の大川原地区は19年春に避難指示が解除され、新たな町役場が開庁したが、町によると今回の地震で役場の壁にいくつものひびが入った。町議の木幡ますみさん(65)は「建てたばっかりなのにもう壊れるなんて」と嘆く。
 当然ながら、原発が気になる。「何かが傷んで放射性物質が出てこないか。すごく怖く思っている」。近隣市町村の住民も同じで、冒頭の国分さんは「一番心配なのは第一原発。でも、東電も国も情報を出さないからな。それがやっかいなところ」と話す。
 東北電力女川原発がある宮城県石巻市の原伸雄さん(78)は「大きな地震が突然起きると改めて分かったはず。そんな中で各地の原発を再稼働させていいのか、よくよく考えなければならない」と語る。

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◆最強クラスの震度6強 「余震」「別系統の地震」…分かれる見方

 今回の地震は、10年前に起きた東日本大震災を起こした地震の「余震」だという。ただ余震と言えば、大きな地震(本震)が起きた数日後にそれよりは弱い地震として起きるイメージがある。震度6強という、かつてなら最強クラスの地震が、10年後に余震として発生する―。それは地震学的には普通のことなのか。
 東京大地震研究所の加藤尚之教授(地震学)は「大きい地震が起きると断層が動き、岩盤にかかる力が再配分される。その力を解放しようとしてまた起きる地震が余震となる」と説明し、「100年以上続くことも不思議ではない」と言う。
 その一例として挙げるのが、1891年10月に岐阜県南部の本巣郡西根尾村(現・本巣市)を震源にした、「濃尾地震」だ。この地震はM8・0の規模で、岐阜・愛知両県を中心に死者7000人を出した日本史上最大級の内陸直下型地震だった。今年でちょうど発災後130年になるが、加藤氏は「その余震は、今も現在進行形で起きている」と話す。
 今後もさらに余震や津波を伴った地震の可能性はあるのだろうか。加藤氏は「頻度はだんだん少なくなっていくが、大小さまざまな規模で余震は続く」とみて、津波にも警戒を促す。津波は今回、石巻港(宮城県)で最大20センチを観測したのにとどまった。「今回は震源が深く、太平洋プレート内部で起きた地震だったため津波はほとんどなかったが、10年前の本震のように震源が浅ければ、今後の余震でも海底面が変形して海水を持ち上げ、大津波は起こりえる」

(写真) 崩落した岩が道路をふさいだ現場=福島県相馬市で、本社ヘリ「おおづる」から

 ほかに危惧されている南海トラフや首都直下型地震への影響はあるのか。加藤氏は「今回は太平洋プレートの地震なので、直接的に内陸部の首都直下型やフィリピン海溝がずれて起きる南海トラフ地震には関連しない」との見方を示すが、「そもそも日本の地震の原因は、海側のプレートが陸側のプレートの下に沈み込んで、日本列島が押されていることにある。力のバランスが変わればいつどこで大きな地震があってもおかしくない」と警戒を促す。
 一方、10年前の余震ではなく、本震から誘発された別系統の地震の可能性を指摘する専門家もいる。武蔵野学院大の島村英紀特任教授(地震学)だ。今回の震源が福島県沖でも、宮城県三陸沖の本震の震源地から離れている点に注目し、「地下ではプレート同士が押し合って均衡を保っているが、バランスが崩れて地震の力が外側に動いている可能性がある」と話す。
 地震には「すみか」があって揺れはその中で起きているが、東北沖の本震を抑えていた「留め金」が1カ所でも外れたときに、断層の北側と南側で新たな巨大地震が連動する恐れがあるという。「東日本大震災の本震が一つ留め金を外し、その北側、南側も留め金が外れそうな段階にあるのかもしれない。そうだとすれば、北は青森から北海道にかけて、南は関東や中部、南海沖にかけて、東日本大震災並みの地震が来る可能性もある」

【デスクメモ】
 携帯電話から毎日のように緊急地震速報が響き、その都度身構えた10年前。あれが余震で、もう収まったと思っていた。だが、地球史上では10年は一瞬で、地下の動きは続いていたのだ。今回は、「収まった」を前提にした東京五輪や原発再稼働を、考え直す最後の機会かもしれない。(歩)
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