[2021_05_07_04]<東海第二原発 再考再稼働>(29)危険性の立証に手応え 元原発設計技術者・後藤政志さん(71)(東京新聞2021年5月7日)
 
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<東海第二原発 再考再稼働>(29)危険性の立証に手応え 元原発設計技術者・後藤政志さん(71)

 水戸地裁で開かれた日本原子力発電(原電)東海第二原発(東海村)の運転差し止め訴訟に原告側証人として出廷し、原発の構造材が想定より小さい力で壊れる可能性を指摘した。
 判決は、実効性ある広域避難計画の不備などを理由に運転差し止めを認めたものの、原発自体の危険性についての原告の主張は退けた。ただ、全く手応えがなかったわけではない。
 証人尋問では、圧力容器の転倒を防ぐための「スタビライザ」に十分な耐震性能がなく、基準地震動(原発の耐震設計の基準となる地震の強さ)に満たない地震でも破損の恐れがあることを説明した。そうなれば、圧力容器が周囲の遮蔽壁に倒れかかって複数の配管が破壊され、炉心の冷却機能が失われる。絶対にあってはならない事故だ。
 基準地震動を超える地震で、格納容器の金属材料が変形してつぶれる「座屈」が容易に起こり得ることも訴えた。これも配管の「ギロチン破断」に直結する。
 原電側とは、炉心損傷が始まったのを受けて冷却水を注入し、格納容器下部の圧力抑制室の水位が目いっぱい上がった状態で、基準地震動クラスの地震が起きるケースについて論争になった。
 当然、大量の水の荷重を考慮して座屈の危険性を評価するべきだが、原電側はそのような事態は現実的にあり得ないと一蹴。事故収束に必要だからやる注水を、めったにないことだから考えなくてよいと自ら否定したわけだ。
 だが、東京電力福島第一原発は「めったにない」マグニチュード9・1の巨大地震による高さ十五メートルの津波に襲われ、過酷事故に至った。確率が低いからと対策を怠り「想定外」の事故を招いたことを、私たちは反省したはずではないか。
 私の証言を裁判官は非常に熱心に聞き、時間をかけて質問もした。判決は「原子力災害の発生は当然想定されなければならない」と言及しており、原発の安全性に懸念を持ったのは間違いない。「避難」で原告を勝たせると腹に決めていたので、あえて(東海第二が新規制基準に適合するとした)原子力規制委員会の判断を覆すのは避けたのだろう。
 一審の立証で一定程度くさびを打ち込んだことは、決して無駄ではない。控訴審ではあらためてこれらの論点を取り上げ、一審ではあまり触れられなかった水素爆発や水蒸気爆発の対策の不備についても議論したい。
 原発では、ある対策を取ろうとして、それが別のリスク要因になることがよくある。炉心溶融を止めるための注水が、逆に水蒸気爆発の危険性を高めるのはその典型。だが技術者の感覚では、これは両側が崖っぷちの狭い尾根を歩いている状態だ。水を入れるのか入れないのかのどちらかに手順を寄せておかなければ、過酷事故対策として機能しない。
 私の主張は技術者としての実地体験に基づいている。教科書だけなら大学教授にかなわないが、経験の裏付けをもって語ろうとするのが技術者だ。その重みが裁判官に伝わるよう控訴審に臨みたい。 (聞き手・宮尾幹成)
<ごとう・まさし> 1949年、東京都世田谷区生まれ。広島大工学部卒。三井海洋開発を経て、東芝で柏崎刈羽原発3・6号機、浜岡原発3・4号機、女川原発3号機の格納容器の設計に携わった。2009年に退職し、福島第一原発事故後は原発の危険性について発信。市民シンクタンク「原子力市民委員会」規制部会長。著書に「『原発をつくった』から言えること」など。
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