[2023_06_10_01]「私が原発を止めた理由」 樋口英明元福井地裁裁判長の講演を聞いて (下) 原発事故のもたらす被害は我が国の存続にかかわる 原発の耐震性の低さを正当化できる学問的根拠はなく、原発の運転を続ける社会的正当性もない 先崎(まっさき)千尋〔茨城県、元瓜連(うりづら)町長、瓜連町は合併により今は那珂市です〕(たんぽぽ2023年6月10日)
 
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「私が原発を止めた理由」 樋口英明元福井地裁裁判長の講演を聞いて (下) 原発事故のもたらす被害は我が国の存続にかかわる 原発の耐震性の低さを正当化できる学問的根拠はなく、原発の運転を続ける社会的正当性もない 先崎(まっさき)千尋〔茨城県、元瓜連(うりづら)町長、瓜連町は合併により今は那珂市です〕

 
◎ 「原発は自国に向けられた核兵器だ。ウクライナのサポリージャ原発は、何故簡単にロシアに占拠されたのか。ウクライナ軍は危険だと分かっているから反撃できないし、従業員も逃げ出せないからだ。
 ウクライナが、その後取り返そうとして原発事故が起きれば被害はとてつもなく大きく、ヨーロッパ全体に及ぶからウクライナは取り返すことが難しい」。このことは、ロシアによるウクライナ戦争で私が危惧していたことの一つだった。

 樋口さんが原発の再稼働を止めるべきだとしている根拠の最も大事なことは、日本は地震大国であるにもかかわらず、原発の耐震性が極めて低いことだと言う。
 福島第一原発事故の時の震度は6強、800ガルだった。ガルは原発の耐震設計基準(基準地振動)に用いられる単位であり、地震観測でも震度以上に重要な単位とされている。

3.地震に弱い日本の原発

◎ 樋口さんの集めたデータによれば、2000年以降でも、1000ガル以上の地震は17回起きており、被害が大きかった2016年の熊本地震は1740ガルだった。東海第二原発は現在1009ガルに設定されている。
 日本全国が地震の巣。いつどこで福島原発事故のときより大きな地震が来るか、地震学者にも分からないと言う。

◎ さらに樋口さんは、「ハウスメーカーの耐震設計基準は、三井ホームで5115ガルに、住友林業は3406ガルに設定している。大飯原発は判決当時700ガル(当初は405ガル)で、原発の耐震性は一般住宅よりも低い。とてつもなく危ない」と説明してくれた。
 「ホントなの、それ」と思ってしまう。だが、福島でも、原発では非常用発電機や緊急炉心冷却装置が破損したが、原発のある大熊町や双葉町の街並みはそのまま残っていたことからも、その説明はよく理解できる。

◎ さらに、日本の原発は岩盤の上に建っているから安全だという原発推進派の主張に真っ向から反論する。
 東海第二もそうだが、日本の原発の半分は岩盤の上に建っていない。さらに、岩盤上の揺れが地表上の揺れよりも大きい場合があった、と樋口さんは指摘する。
 「地震は、観測も実験もできない。資料もない。要するに、地震のことはよく分からないのだ。それなのに、原発の敷地に限っては、強い地震は来ないというのが原発推進派の言い分だ。この主張を認めるかどうかが原発差し止め訴訟の本質だ」。
 樋口さんはこのほか、使用済み核燃料のことなど多岐にわたって資料をもとに原発の危険性を説いた。
 そして原発を止めるべき理由として次のように5段階にわたって説明している。

1.原発事故のもたらす被害は極めて大きく、その被害は我が国の存続にかかわるほどだ。

2.それ故に、原発には極めて高度の安全性が求められる。

3.地震大国日本において、「止める、冷やす、閉じ込める」という安全三原則が強く求められる原発に極めて高度の安全性があるということは、原発に極めて高度の耐震性があることだ。

4.我が国の原発の耐震性は極めて低く、一般住宅よりも劣っているため、平凡な地震によってさえも危険が生じる。

5.よって、原発の運転は許されない。
 その耐震性の低さを正当化できる学問的根拠はなく、原発の運転を続ける社会的正当性もない。

◎ 最後に、「無知は罪、無口はもっと罪」という言葉を引いて、私たちに「原発の本当の危険性を知ってしまった以上、それを国民に伝えることが自分の責任。私の話を聞き、本を読んだ人も、自ら考えて自分ができることを実行してほしい」と静かに語った。
 現在、私たちには所得格差や雇用、年金、コロナなど身近な問題があり、議論しているが、ひとたび原発事故が起きれば、これらの問題は吹き飛んでしまうのだ。
 原発こそこの国の最重要課題だ。
 原発の問題を正しく理解し、論理に従って行動する。健全な怒りを示す。
 そのことを樋口さんから学んだ。
 ※先崎氏の「崎」の字は、本来「たつさき」です。
  メールソフトから「機種依存文字」と指摘されるのでやむなく「崎」と表記させていただきます。
(『スペースマガジン』2023年6月号「葦の髄から」第82回より)
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