[2009_03_13_01]志賀原発訴訟 18日高裁判決 国の新耐震市指針 司法は 一審は旧指針「ノー」 住民「想定なお甘い」 全原発に影響(朝日新聞2009年3月13日)
 北陸電力の志賀原発2号機(石川県志賀町)をめぐり、住民らが北電に運転差し止めを求めた訴訟の控訴審判決が18日、名古屋高裁金沢支部で言い渡される。一審判決は耐震性に問題があるとして運転差し止めを命じた。志賀原発は一審判決後に、国の新しい指針に基づいて再点検され、補強工事もされた。控訴審がその結果をどう評価するのか、全国の原発への影響も大きく、注目される。

 一審は旧指針「ノー」

 「原子力施設の耐震安全性について、国民の関心が依然として非常に高い」。原子力安全委員会は1月、国による安全確認を加速させる方針を示した。鈴木篤之委員長は同委員会の会議で、急ぐ理由をこう説明した。
 関心を集める大きなきっかけになったのは、06年3月、金沢地裁が志賀2号機について運転差し止めを言い渡した判決だ。運転中の原発に対して初めての差し止め判決で、理由は「想定を超えた揺れで原発が壊れ、被曝する可能性があるから」と明快で、原発周辺の住民に大きな衝撃を与えた。
 国内で運転中の原発は78年につくられた耐震指針(旧指針)をもとに、それぞれの原発ごとに、どんな地震が起きるか調べた上で、揺れを想定し、その揺れに耐えるよう設計されてきた。
 判決は、この旧指針による設計を「現時点では妥当性を認めがたい」と判断した。直下地震の想定が小さい▽揺れの計算方法が時代遅れ▽活断層を短く評価している、などを理由にあけた。
 判決から1年後の07年3月、志賀原発から十数`の場所で熊登半島地震(マグニチュード(M)6・9)が発生。北陸電力が「活断層ではない」と考えていた断層で地震は発生し、「想定が甘い」という地裁判決が、実際の地震で裏付けられた形になった。新潟県中越沖地震(07年7月)では、東京電力の想定を3・8倍上回る揺れが生じ、原発の安全性への不安は高まった。

 住民「想定なお甘い」

 控訴審では「新指針」の妥当性が初めて争点となった。一審に続いて北陸電力の主張が否定されれば、新指針も揺らぎ、全国の原発に影響する可部性がある。
 耐震指針は一審判決の半年後、28年ぶりに全面的に見直された。判決とは直接関係なく、阪神大震災をきっかけに時代遅れになった部分が目立ってきたため、より大きな揺れを想定するよう、安全委が5年がかりで見直した。
 一審判決後、北陸電力も新指針にもとづいて活断層調査をやり直した。志賀原発では配管などの揺れを抑える装置を1246カ所取り付け、補強。その上で、昨年3月に「これまでより1・2倍大きな揺れを憩定しても耐震安全性は保たれている」という中間報告を国に提出した。
 北陸電力は新指針での直下地震の想定をM6・8程度とした。控訴審で「旧指針でも耐震性に問題は無かった。新指針にもとづいて再検討してみても、安全性が十分に確保できる」と主張した。経済産業省原子力安全・保安院と原子力安全委も今年2月、北陸電力の中間報告の内容を適正だと判断した。
 一方、住民側は「一審判決はM7・2〜7・3クラスの直下地震を想定すべきだとしており、M6・8では小さい。活断層の評価もまだ甘い」と主張する。
 ただし、一審が指摘するような想定に耐えられるように補強するには、巨額の費用がかかる。志賀の約2倍の揺れを想定する東京電力・柏崎刈羽原発7基の補強は計約1千億円。1・5倍ぐらいの揺れを想定した浜岡原発1、2号機は費用がかかりすぎ、補強を断念、廃炉にする方針を決めた。
 安全委で北陸電力の中間報告についての審議をとりまとめた奥村晃史・広島大教授は「新指針に基づき、最新の科学的な知見を採り入れて見直したことで、志賀原発の安全性はより正確に評価できたと思う。断層の調査法などまだ改善すべき点もあり、最終報告に向けて安全性の追求を続けていきたい」と話す。
 判決では、国が出したばかりの「お墨付き」で本当に安心できるのかが問われることになる。

 全原発に影響

 新指針にもとづく耐震性の再検討は、志賀だけでなく全原発で進められている。昨年3月に各電力会社が一斉に中間報告を提出。各原発で考慮する活断層の数が大幅に増えたら長さが延びたりし、すべての原発で従来の揺れの想定が引き上げられ、最大1・6倍になった。ただ、電力会社側は、施設はもともと余裕をもってつくってあり、安全上の問題はないとの立場だ。
 安全委で、新指針に基づく確認作業を進める特別委員会の入倉孝次郎委員長は「旧指針は78年の制定当時を考えるとベストに近い選択だったが、現在の知識に照らせば問題点がたくさんある。一審判決はそれを明らかにした点で評価している。新指針のもとで安全性を再検討していく」と話している。
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