[2021_05_25_07]巻頭言 原発に抗うは、国のあり様を問うこと 東海村元村長 村上達也(たんぽぽ舎2021年5月25日)
 
参照元
巻頭言 原発に抗うは、国のあり様を問うこと 東海村元村長 村上達也

※事故情報編集部より
 この転載は、末尾に記したように〔2020年4月1日「益子」朝露館たよりの巻頭言〕です。編集部が拝見したのが遅かったのですが、内容は現在でも通じるものだと判断したので紹介致します。
 2012年12月、衆議院選で民主党が大敗し安倍政権が誕生した。暗黒の時代の幕開けである。同年12月東海村で800人を超える聴衆を前に小出裕章さんと湖西市長三上元さんの反原発講演と私を交えての鼎談があった。
 私は言った「原発と闘っていて後ろをみたらファシストが立って
いた。前門の虎、後門の狼だ。2012年12月16日(衆院選投票日)は
歴史の転換点となる」と。
 その後の政治情勢は一強多弱の国会で秘密保護法、集団的自衛権容認の安保法制、共謀罪法等の強行採決、森友、加計学園の安倍関連の疑獄事件はウヤムヤ、この国は官邸の国家主義者らに乗っ取られてしまった。あろうことか安倍政権は憲政史上最長になるとか。
 「国策」を僭称する原発勢力も一気に息を吹き返した。「国策」とは天皇制と戦争とに結びついたおどろおどろしい言葉である。
 日本の歴史では「帝国国家要綱」と3回の「帝国国策遂行要領」が出てくるが(どれも1941年<昭和16>の御前会議決定)、それは侵略戦争を企画したものだった。その結果は「朝露館」の展示と石川逸子さんの詩に詳しい。
 中国と東南アジアに1800万人、国民に310万人の死者と破壊、悲劇をもたらした。
 「国策」などあってはならない。
 原発政策はそれを「錦の御旗」に推進されてきた。
 また「日本では起こらない」という安全神話をつくり、東日本大震災時にはこの地震列島で54基もの原発を動かしていた。戦前の「神国日本」に同じだ。
 高浜原発汚職事件では関電が犠牲者面しているが森山元助役は関電の現地差配人ではなかったか。
 安倍政権下で「国策」の亡霊が復活している。最近、朝日新聞も社説で2度も「国策」を使ってきた、ブルータスお前もか。
 柏崎刈羽原発再稼働に関し、「原発は『国策民営』が実態だ。国が前面に出よ」と、また東海第二原発の日本原電支援については「『国策』で進めながら再稼働が難しい原発に政府も主体的に取り組め」と。
 憲法理念はどこかに、国家主義思潮が高まっている。オリンピックや災害など利用の「ガンバロー日本」的風潮も危うい。
 さて首都圏唯一の原発、私が村長であった茨城県東海村の日本原電(株)東海第二原発について。
 この原発は昨年(2019年)11月、稼働開始後40年を経過したが、その直前に原子力規制委員会は20年の運転延長を駆け込み承認した。
 福島原発事故後に独立行政機関として設立の委員会も政権を忖度し国策に敗北した。
 日本原電は原発専業で4基の原発を保有しているが大震災後の約9年間1ワットも発電していない。
 倒産して当然だが、稼働後の電気供給を前提にした東電以下の電力会社からの基本料金で息づいている。
 その額は2023年の再稼働時(計画)には優に1兆円を超える。再稼働のための工事費も3500億円を要す。
 更に福井県敦賀市の原発新設工事(2基)で2500億円余の資金を投じたが完成の目処なく不良資産化している。この会社は完璧な死に体。ゾンビ会社が原発を動かすとは怪談ものである。
 また地震、津波に弱い地政学的弱点を抱え、生命線である電気ケーブルの全面難燃化ができないなど不安の多い原発である。
 緊急対処圏区域内94万人が住む14市町村は避難計画策定中だが、金と労力のムダ使いの何物でもない。
 帚とハタキ、バケツで空襲と闘え、竹槍と鎌、ナタで米軍に立向かえと言われた父祖の時代と変わらぬ愚行だ。
 原発被害は30km圏に止まらない。東京中心部まで120km、事あれば日本壊滅だろう。こういう不条理が罷り通るのも国家主義、安倍政権下だから。
 原発に抗うことは単にエネルギー問題、経済問題に関わることではなく、憲法などこの国のあり様に関わる問題であること。
 最後にラトビアの作家の言葉「権力は個人が個人であることを許さない。個人が個人であるのを止めたときファシズムがやってくる」−銘記すべきである。
〔「益子」朝露館たより(2020年4月1日「朝露館につどう会」発行)巻頭言より了承を得て転載〕
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