[2022_11_17_05]原発の運転期間から停止期間を除外したい原発事業者 日本原電と東京電力救済策の色合いが強い 原発事業者の利益のため住民にリスクを負わせる (その1) 圧力容器の脆性破壊を防ぐ手段はない 格納容器の健全性も確認できない 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)(たんぽぽ2022年11月17日)
 
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原発の運転期間から停止期間を除外したい原発事業者 日本原電と東京電力救済策の色合いが強い 原発事業者の利益のため住民にリスクを負わせる (その1) 圧力容器の脆性破壊を防ぐ手段はない 格納容器の健全性も確認できない 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

 原子力の利用は安全が第一、これは岸田首相から経産省、そして事業者も皆、口をそろえて唱えるおまじないだ。
 「ではご安全に」原発で入域する作業員に声かけしているこの言葉と、何ら変わらない。
 裏付けも何も伴わない、空虚なおまじない程度の言葉。日常的な安全対策教育こそが安全の担保になる。同様に原子力の安全規制も、「安全が第一」と唱え始めたらいよいよ危険だ。
 そこで老朽炉を動かしてはならない理由を、二回に分けて述べる。

◎安全を確認する方法がない

 原発は一度運転を開始したら1年あまり人は近寄れない。原子炉で核分裂中は大量の中性子が飛び交い、圧力容器とそれに繋がる配管には高温高圧の熱水や蒸気が流れるので、「危険とみたら直ぐ止める」訳にはいかないのだ。
 原子炉スクラムをかけても温度と圧力が共に、人が接近できるまで下がるのに数日かかる。
 放射線量に至っては、何年経っても人が接近不能な場所はいくらでもある。
 結局、「解析・想定・検査」の繰り返しで、1年以上は持つと判定して動かしているに過ぎない。
 万一、蒸気漏れや冷却水漏れがあったら、直ぐに止めて事なきを得ることが可能な(爆発火災の場合はその限りにはあらずだが)火力発電とは全く異なる。
 「確認」とは、原子力の場合は検査結果に基づく想定に過ぎず、火力などのように人が計器を持って動いているポンプ、配管、電源系統、タービン、圧力容器回りチェックして「確認」することとは次元が異なるのである。

◎圧力容器の脆性破壊(※)を防ぐ手段はない

 安全を確認する方法がないものの中には、圧力容器と格納容器と電源ケーブルという、原発の安全性に極めて重要な装置、機器類が含まれる。
 圧力容器は、中性子が当たって脆化する「中性子照射脆化」の見通しが極めて厳しい原発がいくつもある。
 そのうちの一つ、関西電力高浜原発1号機は、圧力容器が脆くなる限界温度である「脆性遷移温度」(その温度以下では鋼が変形せずに割れてしまう目安の温度)が監視試験ベースで99度Cと高い。
 圧力容器は粘り気のある鋼鉄で出来ていて、急激な温度変化や圧力変化でも耐えられるようになっている。
 しかし中性子が圧力容器の中の元素を叩き、分子の格子構造に欠陥を作り出す。
 鋼鉄に含まれる銅の成分が多いと、これを起こしやすいことが知られている。
 欠陥が大きくなると、鋼鉄容器がまるでガラスのように脆く破壊される「脆性破壊」を起こす危険性が高まる。その限界温度が99度になっていると観測されたのが、高浜1号機だ。
 高浜原発1、2号機は、40年で廃炉にするべきところ、規制委が延長運転を認めてしまい、今再稼働の準備工事を行っている。その再開が来年の6月から7月に迫っている。
 もし、運転中に一次、二次系の冷却材喪失事故が発生し、ECCS緊急炉心冷却装置が作動して低温の水が注水されたとき、圧力容器の温度が90度以下に急激に下がったところに何らかの衝撃が加われば、脆性破壊を引き起こし、圧力容器が破断してしまうかも知れない。
 そうなると一次系の水は一瞬で蒸発し、燃料はむき出しになる。
 メルトダウンは避けられず、福島第一原発事故の初期段階よりもひどい状態になる。

◎格納容器の健全性も確認できない

 福島第一原発事故の教訓は、過酷事故が発生したら格納容器を守れなければ大量の放射性物質の拡散を止められないことが明らかになったことだ。
 いまさらながら、「5重の壁」なるものは存在せず、炉心溶融まで至る過酷事故では唯一、格納容器だけが放射性物質の拡散を辛うじてブロックできる装置だという現実が明らかになった。
 このことは、深刻な問題を明らかにしている。
 格納容器は原発で最も巨大な鋼鉄製構造物であり、全体の健全性を確認する方法などない。
 原子炉側からはある程度観察可能だが、建屋の側からは何も確認できない。建屋のコンクリートが視野を封じていて見ることさえほとんど出来ないのである。
 格納容器の健全性は唯一、密封度の検査でのみ確認することになる。
 格納容器の耐圧は、沸騰水型軽水炉で約5気圧、加圧水型軽水炉では3気圧もない。
 これらは、定期検査時に空気または窒素ガスで圧力をかけ、漏洩率が一定の値以下であることで確認する。
 加圧してから6〜12時間後に圧力を測定し、低下率が0.5%(沸騰水型軽水炉)か0.1%(加圧水型軽水炉)を満足することが条件だ。
 ところが、この試験では、設計圧力である最高使用圧力の0.9倍までしか加圧しない。
 例えば福島第一原発事故の時のように設計圧力を超える圧力で長時間維持されたうえ、設計温度138度も大きく超える状態が続いていたと見られることは想定外であり、格納容器の健全性を維持するための条件を遥かに逸脱していた。
 実際に2号機の格納容器は3.11の地震と津波に被災した段階で原子炉は止まり、冷却材も供給できていた。
 電源がなくても炉心の蒸気圧で駆動する原子炉隔離時冷却系が動いていたため、3基のうち最も状態が良かった。
 しかし3月14日午後1時25分頃になってこれが停止していると判断され、ベントによる減圧と注水が急がれたが、結局間に合わずメルトダウンに至ったとされている。
 格納容器の健全性を守ることが唯一、放射性物質の大量放出を防ぐ手段なのに、その健全性は確認できない。
 設計圧力でも破損しない程度の検査では、全く不十分で、腐食や割れがないかを確認できなければ検査にならない。
 しかしそれは原発では不可能である。
 ならば、交換するか、長期間持つような容器にするしかないが、今さら40年超の原発で出来るわけがない。建て直す以上の費用がかかってしまう。
 これもまた、老朽原発を動かしてはならない理由である。
                       (その2)に続く
 (※)「圧力容器の脆性破壊」の参考資料あります。
   たんぽぽ舎発行パンフNo83『侵攻する原発の老朽化』
   −原子炉圧力容器の照射脆化を中心に− 井野博満氏講演録
   B5判 28頁 頒価400円
KEY_WORD:原発_運転期間_延長_:FUKU1_:TAKAHAMA_:廃炉_: