[2018_09_08_09]指標 北海道大停電 需給ずれ 悪条件重なる 100%の予防困難 備え議論を 京都大学特任教授 安田陽氏(東奥日報2018年9月8日)
 今回の北海道全域の停電は単なる「広域停電」ではなく、あるエリアですべての発電機が止まってしまう現象で「ブラックアウト」と呼ばれ、日本初だと思われる。2016年9月に南オーストラリアで暴風雨のために発生している。
 電力システムは、すべての発電機が同じ周波数で同期している。発電と消費が釣り合っていないと周波数にずれが生じ、それが、あまりに大きかったリ急激だったりすると、発電機が壊れないように緊急停止する。
 一般に電力システム内の最大の発電設備が1台緊急停止しても、周波数のバランスが崩れないようにシステム全体が設計されている。この運用基準は「N−1基準」と呼ばれ世界中で採用されている。今回は、地震で苫東厚真火力発電所の3台の発電機が同時に停止したと考えられるためN−3に相当する。N−1基準を大きく超え、他の発電所も次々と連鎖的に緊急僚止したものと考えら.れる。
 ある程度の周波数のずれなら、供給網の一部を遮断するなど全域に影響が及ばないように設計されているが、今回は、それが間に合わないスピードで周波数のパランスが崩れたとみられる。
 震源地のすぐ近くに大型の発電所があり、1台ではなく3台の発電機が恐らくほぼ同時に停止したこと、夜間で需要が少なく他の発電所もあまり動いておらず、調整力が相対的に少なかったことなど悪条件が重なった。
 ただ、これは「想定外」ではなく、N−1基準を超える事象が発生した場合、ブラックアウトになる可能性があるということは、日本だけでなく世界中の電力システムの設計思想に、あらかじめ盛り込まれている。「絶対に停電しない」電力システムは、この世には存在せず、極めてまれではあるが停電は一定確率で発生する。
 詳細は事故の調査を待たなければならないが、現在の技術や経済性の観点からは今回のようなブラックアウトを100%防ぐことば難しいと考えるのが妥当だろう。
 再生可能エネルギーなどの分散型電源が増えれば起こらなかったと、簡単には言えない。再エネ中心の分散型電源システムであれば、なおさら適切に設計しないと、もっと脆弱になる可能性がある。そうならないような技術的対策もあるが、日本ではまだ議論の途上だ。
 また、仮に泊原発が稼働していれば防げたという主張もあるが、今回は短時間の周波数バランスの問題なので、単に供給力に余裕があればよいという問題ではない。
 仮定の話は詳細な事故の解析を待たなければならず、臆測や願望に基づく発言は災害時であればこそ自重すベきだろう。
 今後、大きな発電機3台が同時に故障しても大丈夫、という厳しい基準を採用するならば、そのコストは巨額になり、社会全体で許容できるかとなると難しい。
 むしろ、自然災害による大規模な停電は一定の確率で起こり得るということを国民全体が意識し、非常用電源の整備など、万一停電になっても生命や安全が確保できるようなリスクマネジメントに基づく合理的な対策を、国全体で議論することが重要だ。

 <やすだ・よう1967年東京都生まれ。94年に横浜国立大で博士号取得(工学)。2016年9月から現職。電力工学が専門。著書に「世界の再生可能エネルギーと電力システム」など>
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