[2020_10_08_06]文献調査、交付金のうまみ 核ごみ立地2町村名乗り 阻めなかった北海道(毎日新聞2020年10月8日)
 
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文献調査、交付金のうまみ 核ごみ立地2町村名乗り 阻めなかった北海道

 高レベル放射性廃棄物(核のごみ)最終処分場の建設立地を巡り、北海道の寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村が8日、選定手続きの第1段階となる文献調査の受け入れを表明した。国は来年前半にも2町村での調査作業を開始したい考えだが、第2段階の概要調査、第3段階の精密調査を経て最終処分場の建設地を決定するまでには約20年を要する。2町村が文献調査を経て概要調査に進むのか、最終的に建設地になるのかどうかは現時点で見通せない。

 ◇知事権限なし、道民不在で町村独断

 「条例の順守を求める」。北海道の鈴木直道知事は7日、文献調査の受け入れ決定を控えた神恵内村に出向き、全都道府県で唯一「核抜き」を明記した道条例に触れ、高橋昌幸村長に慎重な判断を迫った。
 しかし、高橋村長は8日、村議会が調査への応募を求める請願を採択したことを受け「議会の議論を尊重する」と述べ、調査を受け入れる意向を示した。寿都町の片岡春雄町長も同日、町議会全員協議会の議論を踏まえ応募を表明した。
 道議会での議論を経て2000年に制定された「核抜き」条例は「放射性廃棄物の持ち込みは慎重に対処すべきであり、受け入れがたいことを宣言する」と明記するが、持ち込みを禁じてはいない。「条例は拘束力がなく、実効性がない」。かねて片岡町長はこう述べており、2町村は、条例が「宣言」にとどまるとの解釈から調査受け入れに乗り出した格好だ。
 鈴木知事は道条例を管轄する立場として、当然に条例順守を打ち出す必要がある。一方で、2町村は泊原発に近い立地で、原発周辺自治体が受けられる交付金を受けるなどしてきた経緯があり、過疎化や主要産業の衰退により、将来への活路を見いだしたい事情もあった。
 応募の仕組みの問題もある。最終処分場の選定方法を定めた最終処分法は、@文献調査(2年程度)A概要調査(4年程度)B精密調査(14年程度)――の3段階を経て建設地を決めるとする。
 その中で、概要調査について「経済産業相は場所を定める時、都道府県知事及び市町村長の意見を聴き十分に尊重しなければならない」と明記するが、文献調査については知事の関与に触れていない。
 寿都町で応募の動きが表面化した8月中旬、鈴木知事は「札束でほおをたたくようなやり方はどうなのか」と述べた。文献調査を受け入れる自治体には、国側から最大20億円の交付金が払われる仕組みを問題視した発言だった。
 これに対し、東京・霞が関で9月4日に鈴木知事と会談した梶山弘志経産相は「(北海道の)条例があるから(文献調査は)できないということにはなっていない」との考えを示した。上京して道条例の趣旨を説き、道内の応募の動きをけん制したかった鈴木知事のもくろみは不発に終わった。
 それに先立つ同2日の道議会特別委員会で、鈴木知事は後ろ盾となる最大会派「自民党・道民会議」の道議から「(寿都)町内の議論も始まっていない段階で反対姿勢を示すのは越権行為」と非難された。身内からの批判もあり、以後、鈴木知事の反対姿勢はトーンダウンし「条例の順守を求める」とする以外にすべがなくなった。
 ただ、鈴木知事は第2段階の概要調査に進む際には「反対する」と明言している。一方で、梶山経産相は「知事や市町村長の意見に反して先に進むことはない」「文献調査は最終処分場誘致に直結しない」と繰り返している。
 だが、核の問題に詳しい木場知則弁護士(札幌弁護士会)は「最終処分法の表記はあくまで知事などの意見の『尊重』で、反対した場合は『選定してはならない』となっていない。国の説明は手続きが途中で中止されることへの担保にならず、法の解釈次第で文献調査が処分場設置までつながりかねない」と指摘している。【山下智恵、岸川弘明】

 ◇適地「科学的特性マップ」 意義あったのか

 地上施設1〜2平方キロ程度、地下施設6〜10平方キロ程度、(地下)坑道の総延長200〜300キロ――。核のごみを置き続けることになる最終処分場の概要だ。事業主体となる原子力発電環境整備機構(NUMO、ニューモ)は、2017年に作ったパンフレットでそう紹介する。地下300メートル以上深い所に整備される施設には、ガラスで固められた円筒状の核のごみ4万本以上が入る。
 補足説明には「地上施設は1000メートル×2000メートル程度、地下施設は3000メートル×3000メートル程度」と記されている。この場合、地上施設の広さは約2平方キロになり、東京ディズニーリゾート(千葉県浦安市)とほぼ同じになる。地下施設は、その4・5倍の広さだ。NUMOによると、地上施設に一定の広さが必要なのは、最後に地下を埋め戻すため、掘削した土の仮置き場も要るためだ。
 経済産業省資源エネルギー庁は17年、こうした施設の建設に適した場所が国内の全域でどこになるのか、地質学の視点や核のごみの輸送面、金属などの鉱物資源の採掘への影響などを踏まえて「科学的特性マップ」として公表した。それに照らすと神恵内村は適した地域がほとんどなく、わずかな適地は大半が小高い山となっている。
 にもかかわらず、経産省は9日、村に文献調査への応募を申し入れる予定だ。経産省の担当者は「少しでも適地があれば、調査をする意味はある。地域を詳細に調べれば、適地が増えも減りもする」と話す。しかし、文献調査を受け入れる自治体には国側から最大20億円の交付金が支払われるだけに、経産省には明確な説明が求められそうだ。
 一方、寿都町はほとんどが「適地」となっている。ただし、鉱物資源を今後採掘したり断層がずれたりする可能性も踏まえると、適地の範囲は狭くなる。さらに、小高い山が連なり、平地の適地は限られる。NPO法人「原子力資料情報室」の伴英幸・共同代表は「小高い山々に地上施設を建設するとなると大量の残土が発生するだろう」と指摘。「それが最初から分かっていて、建設に向けた第1段階の調査をする意味があるのか」と話す。
 経産省のある幹部は「今回は適地いかんではなく、住民と議論する機会が得られたのが大きい。(2町村内には反対意見もあり)一時は切羽詰まっていたので本当によかった」と明かす。
 原発では、二つの自治体にまたいで建設された所もある。伴氏は「隣接の市町村にまたがることがありえる」という。その場合、NUMOの担当者は一般論とした上で「原発同様に、またがる市町村が立地自治体となるので、建設には両自治体とも調査をする必要がある」と話した。【荒木涼子】
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