【記事76500】<原発のない国へ 全域停電に学ぶ> (1)北海道電安定供給を犠牲に(東京電力2018年11月4日)
 
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<原発のない国へ 全域停電に学ぶ> (1)北海道電安定供給を犠牲に

 北海道が最大震度7の地震に見舞われ、戦後初めての全域停電(ブラックアウト)を引き起こす四カ月前、電力需給対策を検討する経済産業省資源エネルギー庁の専門委員会が開かれた。その会議の資料に、こんな言葉が残っている。
 「発電所一機の計画外停止が与える影響が大きい北海道では、厳寒時の需給逼迫(ひっぱく)が国民の生命・安全に及ぼす影響が甚大である」
 つまり、北海道電力の供給態勢は危うい−。国の委員会は二〇一二年以降、毎年同じような警鐘を鳴らしてきた。
 北海道電は泊原発(泊村、総出力二百七万キロワット)と、石炭が燃料の苫東厚真(とまとうあつま)火力発電所(厚真町、同百六十五万キロワット)を電源の柱としてきた。二つの総出力は、一日の最大需要五百二十五万キロワット(一七年度)の七割以上を占める。
 しかし、一二年五月に泊が定期点検で停止。柱の一本を失った中、頼りの苫東厚真が地震で止まった。
 「一二年から六回の冬を越してきたが、それだけ道民を危険にさらしてきた」。電力業界に詳しい橘川武郎(きっかわたけお)・東京理科大大学院教授は、北海道電の供給態勢のあり方を厳しく批判する。
 北海道電は、原発を再稼働させて「二本柱」に戻そうと必死だった。有価証券報告書によると、一三〜一七年度の五年間に、停止中の泊原発に千八百八十七億円を投じた。火力や水力を含めた発電所への投資総額は三千七百三十八億円。実に半分以上が、原発への投資だった。
 投資は、再稼働に必要な新規制基準適合に向けた工事費が中心。しかし原子力規制委員会の審査は停滞し、再稼働は見通せない。
 結果的に、他の発電所への投資が後手に回った。北海道電は大手電力十社の中で北陸電力とともに、出力の調整能力が高い液化天然ガス(LNG)の火力発電所を稼働させていない。緊急時に電力を地域間で融通する基盤も弱い。本州とつなぐ北本(きたほん)連系線の容量は六十万キロワット。四国−本州の約六分の一、九州−本州の約九分の一という小ささだ。
 LNG火力を一九年二月から稼働させる。北本連系線も三十万キロワット増強を進めているが、いずれも実現しないうちに地震に襲われた。
 電力需給を検証する委員会のメンバー、松村敏弘・東大教授は「経営陣は安定供給を犠牲にすることを承知の上で、原発への投資を判断したということを認識しておくべきだ」と話す。
 「原発は即効性があり、打ち出の小づち」と橘川教授。原発は安価とされる電力。いずれも二原発四基を再稼働させた関西電力と九州電力は、財務体質を改善し、関電は料金値下げにも踏み切った。ただし、橘川教授はこう続ける。
 「原発は順調に動いていると依存度を高めて、経営資源を集中させてしまい、他のことを考えなくなる。それが恐ろしさだ」
 原発依存の落とし穴にはまった北海道電は、太陽光や風力など再生可能エネルギーの適地とされるのに出遅れた。一三〜一七年度の再生エネへの設備投資額は全体の0・5%。エネルギー政策に詳しい高橋洋・都留文科大教授は指摘する。「世界的に再生エネが伸び、飛躍のチャンスがあるのに、北海道電は大手で一番遅れている」 (小川慎一、松尾博史)

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 北海道地震での全域停電は、大手電力会社の想定の甘さや、原発に依存することの危うさを改めて示した。北海道での経験から、原発に頼らない方策を探る。

<北海道地震と全域停電> 2018年9月6日未明に起きた地震で、北海道内の電力需要の約半分を賄っていた苫東厚真火力発電所1、2、4号機(厚真町、出力計165万キロワット)が全基停止。北海道電力は低下した供給力に合わせて需要を下げようと、強制的な停電を試みたが、需給のバランス調整に失敗。道内ほぼ全域の295万戸の停電を引き起こした。このように電力会社の管内全域に及ぶ大規模停電を「ブラックアウト」と呼ぶ。

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