【記事76290】社説 免震不正 地震国を覆う深い不信(東京新聞2018年10月19日)
 
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社説 免震不正 地震国を覆う深い不信

 製品の信頼を損なう事態が何度起きれば収まるのか。今度は大手油圧機器メーカーKYBが不正な免震・制振装置を生産・販売していた。命に関わる問題での不正であり生ぬるい対応は許されない。
 KYBと子会社は性能検査で適正な結果が出なかった免震・制振装置について、データを改ざんし、適切な数字に変えて出荷していた。装置は油の粘りを利用して地震の揺れを小さくするオイルダンパーという。不正の理由について会社側は「納期に追われていた」などと説明している。
 しかし、このような弁解は一切許されるはずもない。不正の正確な開始時期ははっきりしないが二〇〇〇年代初めごろからという。この間、〇五年に耐震偽装事件が発覚し、一五年には東洋ゴム工業による免震装置のゴムのデータ改ざんがあった。なによりも一一年に東日本大震災があり、今年は北海道で大きな地震があった。
 さらに南海トラフ地震を念頭に地震への備えが国民的な課題となっている。不正はこうした状況下で見過ごされてきた。教訓を得る機会は何度もあったのに何ら改善はなされなかった。KYB経営陣の責任はあまりに重い。
 一方、国土交通省の対応にも疑問が残る。同省は改ざん幅の大きい装置でも「震度6強から7程度でも人命に損傷は及ばないレベル」などと検証結果を説明する。しかし、基準に満たなくても最大レベルの地震で人命に影響が出ないなら、基準そのものがおかしいということになりはしないか。
 今回、対象となる建物は住居、医療施設から官公庁、五輪関連施設など範囲が膨大だ。KYB以外のメーカーで同様のケースがある恐れも否定できない。このため不安は国全体を覆い始めている。
 神戸製鋼所、日産自動車、SUBARU…。地震関連に限らず国内メーカーでは製品の検査不正が次々起きている。その度、責任の所在が分からないまま事態は収束する。経営陣が法的な責任を追及されるケースは少なく、監督官庁が再発防止策を指示して幕引きとなる。
 今回も現場の検査官が不正を引き継いでいたことが指摘されている。しかし、問題の根源は製品の安全より目先の利益を追い求める経営陣と、その姿勢を放置してきた監督官庁にあるのではないか。現場へのしわ寄せは、新たな不正を呼ぶだけだ。今度こそ、行き過ぎた利益優先の企業風土を改める契機としなくてはならない。

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