【記事74440】「どこでも直下型地震は起こりうる」首都圏ブラックアウトの恐怖を専門家が警告〈週刊朝日〉(アエラ2018年9月12日)
 
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「どこでも直下型地震は起こりうる」首都圏ブラックアウトの恐怖を専門家が警告〈週刊朝日〉

 北海道で最大震度7の内陸直下型地震が6日に発生した。一斉に広域停電する「ブラックアウト(全系崩壊)」が起きて、都市機能がマヒし大混乱に陥った。直下型地震は全国どこでも起こりうる。他人事(ひとごと)ではない。
 北の大地を激震が襲ったのは、9月6日午前3時8分。震源は道南西部の胆振(いぶり)地方で、札幌市東区でも震度6弱を観測した。
 混乱に拍車を掛けたのが大規模停電だ。北海道電力の発電所が相次いで停止し、一時は道内のほぼ全域の295万戸が停電するという前代未聞の事態に陥った。
 ライフラインの中で止まると最も影響が大きいのが電気とされる。くしくも、近畿地方では台風21号の影響で延べ218万戸が停電し、混乱したばかりだった。
 道内では街灯や信号が消えた暗闇の中、多くの人がさまよった。
「札幌駅前や狸小路など中心街も真っ暗闇。懐中電灯がないと歩けないほどでした。ビルのテナントに入っているコンビニは全部だめで、街道沿いの路面店舗などは営業していました。何店も回って水やおにぎり、電池などを買い込みました」(札幌市の男性会社員)
 北海道の地元コンビニチェーン「セイコーマート」を運営するセコマ(札幌市)によると、停電や従業員が出勤できないなどの理由で、50店舗が休業したという。
 停電のため各家庭ではテレビが見られず、情報源や通信手段はもっぱらスマートフォンや携帯電話が頼りだった。携帯ショップなど充電のできるところには長蛇の列ができた。
「電池が減ってきた時には『これまでか』と思いましたが、友人が信号も復旧していないなか車でバッテリーを持ってきてくれました」(小樽市の女性公務員)
 金融機関も一時、多くの店舗が営業できなくなった。道内最大手の北洋銀行は168店舗中47店、北海道銀行は140店中27店しか営業できない状態だった。ATMが止まり、お金を引き出すことができず、右往左往する人もいた。
 多くの患者を抱える医療機関への影響は、さらに深刻だった。道内で300超の病院が停電。34カ所の災害拠点病院が自家発電で対応に当たった。停電した病院では、重症者や人工透析の患者を、ほかに転院させる対応に追われた。道内には透析患者は約1万5千人。日本透析医会の山川智之常務理事がこう話す。
「透析の間隔は2日間以上開けないようにしなければなりません。しかし、患者さんを移動させることは体に負担をかけることになります。数十キロの移動は阪神・淡路大震災や熊本地震で経験していましたが、広域停電は本当に困る。何百キロも移動させることを考えなければならなかったからです。当初は、電気の復旧まで1週間以上と聞いて緊張が走りました」
 道内全域で「ブラックアウト」という異常事態を招いたのは、震源近くにあり、道全体の約半分の電力を供給していた苫東厚真火力発電所(3基、計165万キロワット)が被害を受けたからだ。電力の需給バランスが崩れ、他の発電所も故障を避けるために次々と止まった。
 北海道電力の真弓明彦社長は6日の記者会見で「極めてレアなケース。すべての電源が落ちるリスクは低いとみていた」と釈明した。
 だが、地震学者の島村英紀・武蔵野学院大学特任教授が批判する。
「北海道電力で最大の火力発電所が、止まってしまった。一つの発電所で北海道の約半分の電力をまかなっていたことが、問題でした。地震への備えが不十分だとの批判は、免れないと思います」
 環境エネルギー政策研究所の飯田哲也所長もこう指摘する。
「もし今回の地震が真冬に起きていたら、さらに多くの死者が出ていたかもしれません。これまでの大規模集中型の発電所を見直し、消費地の近くに分散配置する必要があります。分散型だと、停電してもダメージを受ける地域は限られる。デンマークやドイツでは分散型に移行し、停電の発生率も低くなっています」
 今回は泊原発の外部電源がすべて使えなくなるという局面も発生した。非常用ディーゼル発電機で、使用済み核燃料プール内の冷却を維持できた。原発のリスクを改めて思い起こさせた。
「大災害時には複数のトラブルが発生するものです。外部電源喪失に何らかの人為ミスが加われば、恐ろしい事態になりかねません。政府や北海道電力は、たぶん原発が動いていれば広域停電は起きなかったと言いたいのでしょう。しかし、原発自体が大きな揺れで自動停止する可能性があるので、説得力がありません」(飯田氏)
 気象庁によると、北海道で最大震度7を観測するのは初めてのことで、国内では6例目だ。巨大地震はなぜ起きたのか。
 元東京大学地震研究所准教授の都司(つじ)嘉宣氏はこう解説する。
「北海道は離れた二つの島が地殻活動でだんだんと接近し、合体して現在の姿になったのです。接合部は札幌から苫小牧までの石狩平野になります。東西から押し合う力がかかって起きた逆断層型の地震で、東側の岩盤が西側に乗り上げる格好だったと考えられます」
 震源地の近くに主要活断層帯の「石狩低地東縁断層帯」が南北に走る。だが、政府の地震調査委員会は今回の地震はこの断層帯で発生したものではないとの見解を表明した。
 前出の地震学者、島村氏がこう警告する。
「いままでにわかっていない活断層が起こした直下型地震だったわけです。活断層は全国で6千カ所くらいあると見られていますが、現在わかっているのは2千カ所だけ。上に堆積(たいせき)物などがかぶって見えない活断層が4千カ所もあり、首都圏の真下にも存在する可能性は十分あります」
 震源は地下37キロとやや深かった。もし浅ければ、もっと広範に震度7を記録した可能性もあるという。内陸直下型の阪神淡路大震災(95年)、熊本大地震(16年)、大阪府北部地震(今年6月)の震源の深さは、いずれも10キロ台だった。
 震源が浅い直下型の地震が首都圏を襲うとどうなるのか。首都圏ブラックアウトは起きないと、断定はできない。私たちにできることは、一人ひとりが今から備えておくことだ。(本誌・亀井洋志、太田サトル、大塚淳史)
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