【記事63190】定年を目前に控え、伊方原発の運転停止命令を下した裁判官の素顔とは?(アエラ2017年12月16日)
 
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定年を目前に控え、伊方原発の運転停止命令を下した裁判官の素顔とは?

 四国電力・伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の運転停止命令を広島高裁が決定した。住民が求めた運転差し止めの仮処分を高裁が認めたのは初のケース。住民はなぜ勝てたのか。
 今回の高裁の決定では火山の影響に触れ、伊方原発から約130キロ西にある阿蘇山が過去最大規模の噴火をした場合、火砕流や火山灰の影響を受けるリスクがあると判断。新規制基準では原発から160キロ圏の火山の影響調査を義務付けたが、原子力規制委員会の判断は不合理だと結論付けた。
 原告弁護団の一人で長年、伊方原発訴訟に関わる薦田伸夫弁護士が言う。
「今回の仮処分裁判では火山噴火の危険性について、火山学者の意見書を始めとして十分すぎるぐらいの主張をしました。火山リスクは福岡高裁の宮崎支部や広島、松山地裁での裁判でも認められていましたが、1万年に1度ぐらいしか起きないまれな現象という屁理屈でかわされてきた。今回は裁判長が認定事実に基づいて素直に判断してくれたのです」
 高裁として初の差し止め判断をした野々上友之裁判長(64)は、09年の広島地裁の原爆症認定で初めて国の責任を認め、14年に行われた衆議院選挙の一票の格差を巡る訴訟では広島高裁で「違憲判断」を判断した。
「国民の人権擁護が自分の使命と自覚している理想的な裁判官」(薦田氏)というように周囲の評価は高い。
 野々上氏をよく知るという元判事の井戸謙一弁護士(63)は「裁判官として非常に優れた資質を持った人」と評する。
「人柄がよくて部内の人望も厚いうえ、上司の顔色をうかがって仕事をするようなこともない。国の責任を認めるような判決を出す傾向があると分かっていても、判事としての実力がある以上、人事部局でもそれなりの処遇をせざるを得ないのです」
 これで仮処分による原発の差し止め命令は、福井地裁と大津地裁がそれぞれ15年と16年に出した高浜原発3、4号機に続いて3例目。野々上氏は今月下旬で定年退官するが、続く裁判官はいるのか。井戸氏が続ける。
「正義感のある裁判官はいつも一定数いて、いまの高裁のなかにもあと何人かいます。それに原発裁判については厳しく当たらなければいけないと考える判事が増えている。電力会社は高い費用を投じて原発を動かそうと思ったら司法に停められる。そろそろ原発から方向転換する時期でしょう」
 一方、四国電力は今回の決定を不服として、保全異議と執行停止の申し立てを行う予定。原発が動かせない代わりに、火力発電9基の稼働率を上げる。「毎月35億円ほど燃料費が膨らむ」(広報部)という。(桐島瞬)

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