[2020_12_18_07]大飯原発の設置許可取り消し! 大阪地裁が示した地震への"甘すぎる想定"(週プレNEWS2020年12月18日)
 
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大飯原発の設置許可取り消し! 大阪地裁が示した地震への"甘すぎる想定"

 『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、大飯原発の設置許可取り消しについて語る。
 (この記事は、12月14日発売の『週刊プレイボーイ52号』に掲載されたものです)

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 これは、すごいことだ。12月4日、大阪地裁(森鍵一[もりかぎ・はじめ]裁判長)は関西電力大飯(おおい)原発(福井県)3、4号機の設置許可の取り消しを命じる判決を下した。
 争点となったのは、関電が算出した「基準地震動」の数値を基に大飯原発の設置を許可した、原子力規制委員会の判断の可否だった。基準地震動とは、その施設の周辺で起こりうる最も強い地震の揺れのことで、関電は3、4号機を最大856ガルと設定している。
 規制委はこれを適正としてきたが、判決はこの評価に「看過しがたい過誤、欠落がある」と断じ、再稼働停止どころか、原発設置許可自体を取り消す判決を下したのだ。
 注目すべきは、この判決は福島第一原発事故を踏まえてより厳しくなった新しい規制基準に照らしてもなお、3、4号機の耐震設計が不十分と認定したことである。全国の原発はすべてこの新しい規制基準に沿って安全対策を行なってきた。
 もし、この判決が確定すれば、この規制基準そのものに欠陥ありと司法が判断したことになり、すべての原発の安全性の再評価が必要となる。つまり、この判決は大飯だけでなく、日本中の原発の設置許可が取り消しになってもおかしくない効力を持つのだ。
 この判決の意義を再認識させてくれた人がいる。2014年5月に大飯原発3、4号機の運転差し止め判決を書いた元福井地裁裁判長・樋口英明さんだ。私も参加したある集会で登壇した彼はこう言っていた。
 「原発の耐震度は一般の住宅より低いことを多くの裁判官が知らずにいる。数々の訴訟で原発を差し止めなかった裁判官らも原発再稼働に前のめりの政権に忖度(そんたく)したというより、この重要な事実を知らないまま、正しい判断を下したつもりで請求棄却の判決を書いてしまったのでしょう」
 樋口さんによれば、これまで最も強い揺れを記録した地震は08年の岩手・宮城内陸地震で、その数値は4022ガルだった。そのため、三井ホームで5115ガル、住友林業で3406ガルなど、住宅メーカーは強い揺れに耐える住宅を造っている。一方、大飯原発の耐震度は新基準でもわずか856ガルだ。
 2000年代に、国内で1000ガル超の揺れを記録した地震は17回を数える。いくら関電が「算定したガル以上の揺れは来ない」と力説しても、とても信じられない。「一般常識、そして良識と理性に従って差し止め判決を書くしかなかった」という樋口さんの言葉は極めて説得的だ。
 今回、設置許可取り消しを判断した大阪地裁の判事も樋口元判事と同様、一般住宅より原発の耐震性能が低いというファクトを知り、常識に従って判決文を書いたのではないか。
 私たちは過酷事故時のリスクの巨大さを福島で経験した。それを前提にすれば、原発は誰が考えても止めるか、耐震性を極限まで高めるかの2択しかない。だから「政府は非常に厳しい耐震基準を定めた」はずだった。
 しかし、それはまやかしで、実際は一般の住宅よりはるかに緩い耐震基準だったという事実。今後、国と電力会社が控訴すれば、高裁あるいは最高裁で判決が覆るとみる人も多いが、このシンプルな事実を多くの判事が知れば、二審、三審、さらにはほかの訴訟でも同様の判決が出るのではないか。この判決は日本の原発政策を大きく転換させるかもしれない。

●古賀茂明(こが・しげあき)1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中。古賀茂明の最新刊『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社)が発売中
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