【記事72190】災害の名前の付け方 気象庁が名前付けなかった「大阪北部地震」 青森も大被害なのに「十勝沖地震」」 (島村英紀2018年7月13日)
 
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災害の名前の付け方 気象庁が名前付けなかった「大阪北部地震」 青森も大被害なのに「十勝沖地震」」

 さる6月18日に起きたマグニチュード(M)6.1の大阪府北部の地震は気象庁に名前を付けてもらえなかった。
 気象庁が名前を付けるには基準がある。「陸で起きた地震ではM7.0 以上(震源の深さが100キロ以浅)で最大震度5 弱以上」「海で起きた地震ではM7.5 以上(100キロ以浅)で、最大震度5 弱以上または津波2メートル以上」とか、「全壊100 棟程度以上など顕著な被害があった場合」や、「群発地震が起きて被害が大きかった場合」という条件があり、このいずれにも達しなかった。
 このため、新聞やテレビ局ごとに、この地震の名前は違った。たとえば気象庁は「大阪府北部の地震」、産経と日経は「大阪北部地震」、朝日と読売は「大阪府北部を震源とする最大震度6弱の地震」、NHKは「大阪直下地震」だった。このようにまちまちだと混乱の元になる。
 地元の人々から見れば、大変な被害を受けたのだから、地震に名前をつけてもらえなかったのは不満かもしれない。
 気象庁には、かねてからこの種の要望が多かったに違いない。死者行方不明者が42人にもなった2017年7月の九州北部の豪雨では、人的被害が大きいことから、後日、「九州北部豪雨」と命名した。後日に命名されたのは例外的なことだ。この豪雨は「損壊家屋等1000 棟程度以上、浸水家屋10000 棟程度以上」の命名基準には達していなかった。
 これらのために、気象庁は14年ぶりに「基準」を見直して、名称を定める方針を変えた。7月2日に開かれた交通政策審議会気象分科会に報告した。
 主な変更は、いままで入っていなかった人的被害を基準に加えたことだ。ただし人数の目安は設けずに「相当の人的被害」とした。人数については弾力的に運用するという。
 このほか、あいまいだった自然災害を「気象」「台風」「地震」「火山」の4つに区分して新たに基準を設定した。たとえば台風は発生年と発生順だけの組み合わせだったが、今後は地域名や河川名も含めて名付ける。
 だが、じつはその先に問題がある。どこの地域の名前を付けるか、という問題だ。
 1968年に「十勝沖地震」(M7.9)が起きた。この地震の震源は、北海道・襟裳(えりも)岬と青森・八戸のほぼ中間点にあったから、青森県も大きな被害を受けた。
 しかし、地震の名前が十勝沖だったばかりに、国民の同情を集めたり、政府の援助を獲得するうえで青森県はたいへんに損をした、と青森県選出の政治家は深く心に刻んだに違いない。15年後の1983年に秋田県のすぐ沖の日本海でM7.7の大地震が起きたときに、この青森の政治家はいち早く気象庁に強い圧力をかけたと言われている。
 この地震は秋田県の沖に起きたのに、秋田沖地震ではなくて「日本海中部地震」と名付けられた。
 地震学的に言えば。被害を起こすような地震が起きるところは日本海ではごく東の端の日本沿岸だけなのである。地震学的には明らかに「秋田沖地震」だった。
 災害に名前を付けるのも、なかなか大変なことなのである。

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