[2020_06_01_02]処理水放出、宮城知事と茨城知事が対照的対応(河北新報2020年6月1日)
 
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処理水放出、宮城知事と茨城知事が対照的対応

 東京電力福島第1原発にたまり続ける処理水の処分を巡り、政府小委員会が「海洋や大気への放出が現実的な選択肢」との報告書を2月に出したことを受け、福島の隣県の宮城、茨城の知事と漁業者が対照的な対応を見せている。「風評被害を助長する」として茨城は知事を先頭に一丸となって反発。宮城では表立った動きがなく、反対する漁業者と静観を貫く村井嘉浩知事に温度差も生じている。
 「海洋放出は結論ありき。受け入れることはできない」。茨城沿海地区漁連(水戸市)の吉田彰宏専務理事は憤る。
 福島と茨城の沖合は、親潮と黒潮が交わる好漁場として知られた。水産物は高評価を受けたが、原発事故後に一部の魚種で国の基準値を上回る放射性セシウムが検出され、出荷規制を強いられたり、取引拒否に遭ったりした。
 2017年3月に海の全28魚種の規制が解除されたが、市場評価の回復は道半ばだ。吉田氏は「海洋放出されれば、風評から立ち直りつつある浜の努力が水の泡になる」と訴える。
 同漁連は20年2月、政府に海洋放出をしないよう求める要請書を県に提出。大井川和彦茨城県知事も処理方法について白紙で検討するよう政府に要請した。
 東電は年間100兆ベクレルの放出で、海水1リットル当たり1ベクレルを超えるのは第1原発の南北30キロ、沖合2キロと推計し、海洋環境に大きな影響はないとしている。だが、漁業者の不信感は根強い。
 宮城県漁協(石巻市)の松本洋一理事長は「風評は絶対に出る。具体的な風評対策も示さず、不信感が募る」と語気を強める。韓国政府による県産ホヤの禁輸措置が続き、浜は原発事故から9年たった今も負の遺産に苦しむ。
 県漁連には意見聴取会の開催を探る連絡が東電からあった。松本氏は「海洋放出は東日本大震災からの復興を期す漁業者の息の根を止める行為だ。反対姿勢を崩さず、現場の思いを伝えていく」と力を込める。
 一方、村井知事の見解は一般論にとどまる。4月13日の定例記者会見では「非常に難しい問題」とした上で「県議会の質問でも、私は是も非も申し上げていない。関係者にしっかりと説明をして、理解を得ることが最優先ではないか」と述べるにとどめた。
 両県は再稼働を目指す原発を抱える。茨城の日本原子力発電東海第2原発(東海村)は18年9月、宮城の東北電力女川原発2号機(女川町、石巻市)は今年2月、原子力規制委員会の新規制基準適合性審査にそれぞれ合格した。
 もともと原発関連の発言には慎重な村井知事。定例会見でも、県議会が2月定例会で処理水の自然界放出に反対する意見書を可決したことを挙げ、「議会の議決の重みを東電や国に伝えることも私の役割だ」と言葉を選んだ。

[福島第1原発の処理水] 第1原発の構内に3月時点で約119万トン保管されている。放射性物質トリチウムを含んでおり、トリチウム総量は約860兆ベクレル。2022年夏に満杯の137万トンに達する見込み。政府は4月から意見聴取会を福島県と東京都で開いたが、漁業者を中心に風評被害の懸念が相次いだ。原発の汚染水に含まれる放射性物質のうち、トリチウムは現在の技術では除去できない。
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