[2020_03_06_04]<東海第二への教訓>(中)事故なら生産諦めないと 奥久慈茶業組合長・藤田宏之さんに聞く(東京新聞2020年3月6日)
 
参照元
<東海第二への教訓>(中)事故なら生産諦めないと 奥久慈茶業組合長・藤田宏之さんに聞く

 東京電力福島第一原発事故があった福島県に隣接する茨城県大子(だいご)町で、四百年ほどの歴史がある特産茶「奥久慈茶」を生産している。この地域は冬季の冷え込みが厳しいことから、茶葉が厚くて、何回入れてもおいしく飲めるのが特徴だ。
 二〇一一年は寒暖差が安定し、数年に一回あるかないかのいい出来だった。収穫を楽しみにしていたが、五月上旬の収穫前の三月に、原発事故があった。
 福島第一から約三百キロ離れた神奈川県のお茶から、放射性セシウムが検出されたのを知り、「大子町は約百キロしか離れてないし、出荷した後に知らなかったでは済まされない」と検査を受けたところ、セシウムが検出されて、出荷制限となった。三十年近くやってきて、初めてだった。
 制限は翌一二年四月に解除されたが、風評被害は予想以上だった。生産量は半分ほどに落ち込み、売り上げは三、四割減少。出荷の再開後、震災前に注文があった顧客にはがきを送って安全性を訴えたが、いまだに戻ってくれない。
 日本原子力発電東海第二原発は茶畑から約五十キロで、福島第一の半分の距離。そこで事故が起きたら福島の事故とは比較にならないほどの被害が出るだろう。生産者としての仕事は諦めざるを得ない。
 原発を動かす一事業者の利益だけ求めて、私たち周辺住民が事故におびえながら生活しなければならないのはなぜか。そう考えたら、再稼働は反対だ。原発の場合、事故が起きてからでは遅い。
 東海第二の三十キロ圏に入る自治体では、原発事故時の広域避難計画の策定が求められており、大子町は「避難先」となっている。だが、風向きによっては、私たちも避難を強いられることも考えられるし、茨城に限らず、首都圏全体でパニックになる。
 そもそも、一事業者のために避難計画を作ること自体がおかしい。避難計画が必要であれば、初めからこんな危険なものは造らなければいい。そこまでして、東海第二を動かす理由はない。
 今、福島第一の放射能汚染水を海に流す話が出ており、福島や茨城の漁業者が反対している。だが、漁業者に限らず、隣接する茨城ということで、私たちにも風評被害が出てくるのではないか。福島第一の事故時と同じようなことが、また起こるのではないかと心配になる。風評というのはそれほど、大きな影響を及ぼす。 (聞き手・松村真一郎)
<ふじた・ひろゆき> 1965年生まれ。茨城県大子町で、奥久慈茶を生産する「清水園」の3代目として、山あいにある1.2ヘクタールの茶畑で、年間約3500キロの茶葉を育てる。2017年4月から、奥久慈茶業組合長を務める。
KEY_WORD:FUKU1_:TOUKAI_GEN2_: