[2020_02_14_01]事故前規定で45年必要 福島第一原発の汚染水 海洋放出(東京新聞2020年2月14日)
 
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事故前規定で45年必要 福島第一原発の汚染水 海洋放出

 東京電力福島第一原発では10日現在、浄化処理しても除去できないトリチウムを含む汚染水を113万立方メートル保管しており、1日100〜150立方メートルのペースで増え続けている。仮に海洋放出する場合、事故前にあったルールに従えば、全てを放出するには45年ほどかかる計算だ。風評被害も10年単位の長期にわたる恐れがある。 (宮尾幹成)

◆旧ルール

 福島第一原発では二〇一一年三月の事故前、原発を運転する際の順守事項などを定めた「保安規定」で、年間に放出できるトリチウム量の上限「管理目標値」を二十二兆ベクレルと定めていた。実際の放出量は年二〜三兆ベクレルほどで、目標値よりかなり低かった。
 旧ルールの年二十二兆ベクレルを今回の海洋放出の基準にすると、どうなるか。
 現在、福島第一の敷地内のタンクで保管中の処理済み汚染水百十万立方メートル(十一億リットル)に含まれるトリチウムの総量は八百兆ベクレルに達し、全量放出には三十六年かかる。東電が最大保管可能量と主張する百三十七万立方メートルで計算すると、総量は千兆ベクレルで全てを流すには四十五年の歳月を要する。 ただ、保安規定に替わり策定された廃炉の「実施計画」には、放出量の上限の定めはない。

◆上限緩和?

 一方、別の法令で、平常時に原発敷地境界の空間放射線量を年間一ミリシーベルト以下に抑えることを目標にした「一リットル当たり六万ベクレル以下」という濃度の規制はある。事故を起こした福島第一の場合は、さらに厳しい規制がかかる。
 経済産業省の原子力発電所事故収束対応室によると、処理済み汚染水のトリチウム濃度は一リットル当たり平均七十三万ベクレルで、海に流すには水で大幅に薄める必要がある。濃度規制だけなら、理論上は薄めさえすれば、いくらでも放出できてしまう。
 ただでさえ海洋放出には批判が強いのに、放出量の上限を設定しなかったり、旧ルールよりも緩めたりすれば、漁業関係者をはじめ国民の反発は必至だ。
 原子力規制委員会や経産省は現時点で、放出量の目標値を新たに設けるかどうか明らかにしていない。東電は「今後、処分方法が決まる中で定められるものと考えている」と説明する。

◆長期保管

 民間シンクタンクの「原子力市民委員会」(座長・大島堅一龍谷大教授)は、国の石油備蓄に使われる十万トン級の大型タンクを十基造り、処理済み汚染水を長期保管する案を示していた。当面の風評被害を回避し、トリチウムの放射能減衰を待ちながら、処分方法の検討を続ける狙いがあったが、経産省の小委員会では採用されなかった。
 トリチウムの半減期は一二・三年で、四十年保管しておけば放射能は八分の一程度に下がる。それでも、なお総量は百兆ベクレル以上に上り、旧ルールなら、全量放出には五年以上かかる。保管期間が半減期十回分に当たる百二十三年なら、放射能は千分の一程度まで減衰する。

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