[2019_03_27_02]スリーマイル島事故40年 原発延命論 不安続く(東京新聞2019年3月27日)
 
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スリーマイル島事故40年 原発延命論 不安続く

 【スリーマイルアイランド(米ペンシルベニア州)=共同】鏡のように穏やかな川面を輝かせる米東部ペンシルベニア州サスケハナ川。その中州に鼓形の巨大な四つの建造物がそびえる。スリーマイルアイランド原発の冷却塔だ。二つは1号機の運転に伴う水蒸気を発するが、2号機用の残り二つは静けさが漂う。
 一九七九年三月二十八日、2号機で核燃料が半分近く溶融するメルトダウンが発生。放射性物質が外部に漏れ、周辺住民十四万人以上が避難した。八六年の旧ソ連のチェルノブイリ原発、二〇一一年の東京電力福島第一原発の事故より前に、原発災害の脅威が現実のものとなった事故から四十年がたつ。
 午前四時ごろ、タービンを動かす蒸気を作るための給水系統のトラブルで原子炉が緊急停止。この時に開いた炉心冷却水の圧力調整用の弁が自動で閉じなかったことに運転員が気付かず、冷却水が施設内へ流れ出し水位が下がり続けた。冷却機能を運転員が止めるミスもあり、数時間後に回復するまでに炉心の三分の二が露出、過熱して45%が溶融した。
 米原子力規制委員会(NRC)などさまざまな組織が原因を調査し、機器の故障や複雑で誤解しやすい計器類、運転員のミスによる複合要因と結論付けた。設備の安全対策の強化や運転員の教育訓練、緊急対応計画の改革につながった。溶融核燃料(デブリ)の取り出しと搬出が完了したのは十年余りたった九〇年。発生した汚染水の処分も九三年に終わり、外観をとどめたまま監視が続く。
 事故後、米国では三十年以上、原発の新規着工が敬遠された。最近ではシェールガス革命に伴う火力発電や、太陽光や風力などの再生可能エネルギーによる発電が安価で、競争力を失った原発は廃炉が相次ぐ。ピークの九〇年代に百十基余りあった米国内の原発は九十八基に。事故以来と期待された四基の新設計画のうち二基は頓挫した。
 隣接する1号機も例外でない。二〇三四年まで運転が認められているが、事業者の米電力大手エクセロンは一七年、前倒しで一九年九月末までに閉鎖すると発表した。2号機の解体は1号機と並行して進む予定だ。
 だがここに来て、1号機の運転を引き延ばす可能性が浮上している。地球温暖化対策として、二酸化炭素を出さない原発を再生可能エネルギーと同様に優遇することを州議会が検討。実現すれば1号機は補助金により延命され、2号機の解体も影響を受けるとみられる。連邦議会でも原子力の新技術開発には党派を超えた支持があり、推進する法律が成立している。
 地元では今も事故が影を落とす。健康への不安などを語り合うウェブ上の交流サイトは参加者が四千人近くに上る。原発から約五キロの場所に住むパティー・ロングネッカーさん(75)は「近所では白血病などのがんで亡くなる人がいて、事故の影響だと考えてきた。私にとって、四十年前に始まった懸念は決して終わることがない」と話した。

◆日本、廃炉の参考 デブリ総量、福島は7倍

 炉心溶融を起こし、デブリを取り出したスリーマイルアイランド(TMI)原発のケースは「先行事例」として東京電力福島第一原発の廃炉作業の参考となっている。3基で炉心溶融が起きた第一原発では2019年度内にデブリ取り出し初号機を決めるが、TMI事故とは相違点も多く、今後の困難さが際立つ。
 1979年のTMI事故で炉心溶融が起きたのは2号機の1基で、燃料の半分近くが溶融した。カメラによる内部調査などを経て、デブリ取り出し開始は事故6年後の85年。大きな損傷は免れた原子炉圧力容器を水で満たして放射線を遮り、水中でデブリを砕く作業を繰り返した。デブリは極めて硬く、場所により硬さや形状も異なるため、同時並行で工具を開発。先端部に人工ダイヤモンドを含む掘削用ボーリング機器などが使われた。
 90年までに約130トンに上るデブリを取り出し大半は3000キロ以上離れた米アイダホ国立研究所に鉄道輸送された。ただ1トンほどのデブリは取り切れず、原子炉内に残されている。
 事故を起こした2号機に隣接する1号機は現在も稼働中のため、解体と残りのデブリ取り出しは1号機の運転終了後に同時に行う。このため2号機は40年前とほぼ同じ状態で置かれている。
 これに対し、福島第一原発は3基同時に炉心溶融が起き、デブリは圧力容器を突き破って原子炉格納容器に達している。事故で損傷した原子炉の修理は困難で、格納容器を水で満たさずに取り出す「気中工法」で着手することが検討されている。デブリの総量も3基で計約880トンと推計され、TMIの7倍近くだ。
 汚染水を浄化した後に残る放射性物質トリチウムを含んだ水の扱いも異なる。TMIでは近くの川への放出が検討されたが、下流域の住民が反発。91年から93年に約9000トンを蒸発させ大気中に放出処分した。一方、第一原発では貯蔵量が既に100万トンを超えて増え続け、政府が海洋放出などの処分方法を検討しているが、結論は出ていない。
<スリーマイルアイランド原発> 米東部ペンシルベニア州にある原発。1号機と2号機の2基あり、いずれも米メーカーのバブコック&ウィルコックス製の加圧水型軽水炉。1号機は1974年、2号機は78年に稼働した。2号機では79年3月28日早朝に部分的なメルトダウン(炉心溶融)事故が発生。商業運転開始から3カ月しかたっていなかった。 (ワシントン・共同)

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