[2021_04_07_02]汚染処理水処分、憤る東北の漁業者 「安全というなら東京湾に」(毎日新聞2021年4月7日)
 
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汚染処理水処分、憤る東北の漁業者 「安全というなら東京湾に」

 東京電力福島第1原発事故の後、今もタンクにたまり続けている汚染処理水。その処分を巡り、菅義偉首相は7日、海洋放出を念頭に「近日中に判断したい」との意向を表明した。事態が大詰めとなる中、東北の漁業関係者らは憤り、落胆の思いをにじませている。
 原発から約6・5キロ北にある請戸(うけど)漁港(福島県浪江町)は東日本大震災の大津波で壊滅した。その後、荷さばき施設も復旧し、2020年4月には9年ぶりに競りが再開された。最近は「常磐(じょうばん)もの」として評価が高いヒラメなどは値が戻りつつあった。そんな需要動向に、海洋放出は影響を及ぼしかねない。相馬双葉漁協請戸地区代表で漁師の高野一郎さん(73)は「多かれ少なかれ風評被害が出る。我々と意見を交わさないまま結論は出さないでほしい」と憤る。
 原発から南に約55キロ離れたいわき市の小名浜港。観光物産センター「いわき・ら・ら・ミュウ」鮮魚市場の「一吉商店」で働く中垣繁さん(66)も風評被害を心配する。「原発事故から10年かけ、やっと魚種も増えてきたところなのに」。今も「放射能は大丈夫か」と聞く客もいて、中垣さんはそのつど魚の安全性を説明してきたという。海洋放出で、積み上げてきたものが台無しになるのではないか。そんな心配がよぎる。
 仲買人らでつくる福島県水産加工業連合会の小野利仁会長(64)によると、以前に海洋放出の可能性が浮上した際も、買い控えの動きがあったという。ただ、落胆しながらも「放射能が検出されたものはこの10年間、水産物に関しては一度も市場に出していない。海洋放出はあくまで反対だが、安全ではない魚は今まで通り市場に出さない自信がある」と強調する。
 宮城県の漁業関係者の間でも困惑の声が出ている。女川町の60代の男性漁師は「隣県の漁業者として海洋放出は断固反対だ」と語気を強める。原発事故後、三陸沿岸でもヒラメやタラなどから放射性セシウムが検出されたことがあり、風評被害で韓国向けのホヤの輸出は止まったままだ。男性漁師は「売れ残ったホヤの廃棄処分をせざるを得なかったこともある。そんなに安全というなら、東京湾に運んで放出すればいい」と語る。
 宮城県の村井嘉浩知事は7日、記者団の取材に「首相の口から直接、漁業関係者に話があったということは重く受け止めなければならない」と述べた。同日夕には梶山弘志経済産業相から電話があったとした上で「(海洋放出が)安全であったとしても漁業関係者は不安に思っている。安全性についてしっかり説明してもらいたい」と伝えたという。村井氏は「海洋放出が決定された場合、風評被害を受ける人へのケアが重要。漁業関係者の意見をとりまとめて県として政府にぶつけていくことが大事だ」と語った。【尾崎修二、柿沼秀行、藤田花、深津誠】
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