[2019_04_27_03]重大事故対処等施設が完成しない 中途半端な安全設備のまま再稼働している 福島第一原発事故の教訓はどこにいったのか!(たんぽぽ舎2019年4月27日)
 
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重大事故対処等施設が完成しない 中途半端な安全設備のまま再稼働している 福島第一原発事故の教訓はどこにいったのか!

1.川内原発などの現状

 最初に規制委が、川内原発1号機について特定重大事故対処等施設(特重施設)の許可を出したのは2018年5月7日の審査会合だ。2013年7月に施行された新規制基準で新たに設置が要求された。
 川内原発は2015年8月に新規制基準後初めて再稼働しているが特重施設の設置はプラント本体の工事計画認可(2015年3月18日)から5年間の猶予期間が設定されている。運転継続には2020年3月までに建設を完了させる必要がある。
 特重施設には、意図的な航空機衝突のようなテロ攻撃を想定し、大規模な損傷が発生して常設の冷却設備が使えない事態でも燃料プールや原子炉を冷却できるように整備することとされる。
 原子炉格納容器への注水機能や電源設備、通信連絡設備の他、これらの設備を制御する緊急時の制御室を備えており、既存の中央制御室を代替する能力が要求される。
 最初に期限が切れる川内1、2号機については2015年12月に特重施設の審査(設置変更許可)を規制委員会に申請した後に許可取得後3段階にわたり工事計画の認可を申請した。
 川内原発の他には関電高浜1〜4号機、四電伊方3号機で工事計画認可の審査が進められている。その設置期限は以下の通り。

川内1号2020.3.17 2号2020.5.21 (約1年)
高浜3号2020.8.3 4号2020.10.8 (約1.5年)
伊方3号2021.3.22 (約2年)
高浜1号2021.6.9 2号2021.6.9 (約2年)
美浜3号2021.10.25 (約2.5年)
大飯3号2022.8.24 4号2022.8.24(約3.5年)

 全てPWRであり、BWRの東電柏崎刈羽原発6、7号機や日本原電東海第二原発は、申請書の提出さえまだだ。
 つまり特定重大事故対処等施設の審査が、まだ始まってさえいないのだから、期限までに完成する可能性はほとんど無い。

2.特重施設の原型は米国NRCの「B.5.b」

 よく知っている人は「あああれか」と思い出すかもしれない「B.5.b」。
 米国で2001年9月11日に発生した「同時多発テロ」攻撃に対し、原子力施設もターゲットになり得るとした米国原子力規制委員会NRCは、原発事業者に対して翌2002年に緊急対策「暫定的な防護・保安代替措置」(*)を行政命令として発行した。
 その後に米連邦政府官報に掲載されるが、添付文書2のB5条b項(Section B.5.b)と記述されていることから「B5b」と通称されるようになる。なお条文そのものは今も非公開だ。
(*)2002年2月25日、既存原発を運営する事業者にあてて、その設置・運営の許可条件を修正する形で出された。『当委員会(NRC)は、あなたがた(原子力事業者)が2001年9月11日の出来事を受けて、自主的に、かつ、責任をもって、追加の保安措置を実施しているものと認識していますが、ハイレベルの脅威が引き続いている現状に照らして、この保安措置は、すでにある規制の枠組みと整合するように命令に取り込まれるべきだと判断しました。』
(奥山俊宏 https://judiciary.asahi.com/articles/2012012900001.html

 その後も改訂を重ねたB.5.bは、その趣旨については日本にも伝えられたが、当時は原子力安全・保安院さえ、所属部署の誰も認識をしていないとされていた。
 時を経て、2006年、日本の原発でも「アクシデントマネジメント」(AM対策)として、B5bの一部を取り入れる対策が実施されたのだが、現実には極めて不十分だった。規制基準ではなく事業者の自主的な取り組みとされ、AM対策が整備されなくても運転は継続された。
 福島第一原発を例に取れば、AM対策において要求されたのは、恒設の電源設備や冷却装置類が作動しなくなった場合、あるいは電源を喪失した場合の対策だったが、代替冷却については、原子炉建屋に外部から注水出来るノズルを取り付け、ラインを消防用水配管に繋いで、緊急時にはこのラインを通じて給水可能な設計としたのだが、実際には建屋のノズル部が地震により損傷した。
 別ルートから注水を試みるのだが、ポンプの突出圧が足りず、圧力容器にまで十分注水出来ていない。
 そのためAM対策で後付けした格納容器ベントラインを使って減圧を試みるのだが、これも電源が使えず失敗した。減圧と注水は炉心損傷を防ぐ唯一の良い手段だったが、結局うまくいかなかった。
 後付けの装置類は、信頼性に大きな問題がある。特に、本来の目的ではないラインを使っての注水は、まともに動くと考えるべきではない。そのことは吉田所長も思っていたようだ。

3.再稼働に向けて構想された後付けの設備

 福島第一原発事故では、後付けの設備の信頼性を高めることが極めて難しいことを知った。
 福島第一原発のAM対策は炉心損傷を回避できなかった。使用済燃料プールを辛うじて守ったのも、偶然の漏水と後から投入したコンクリート圧送車の注水だった。
 再稼働を申請するに当たり、緊急時対策所を作ったりベント装置を付け加えたりと、緊急対策の充実を図ったのだが、残念ながらこれらが設計及び想定通りに動く保証はない。
 これらが機能せず、炉心損傷を経て大量の放射性物質拡散事故を起こすシナリオは、現在では事業者も書かなければならないことになった。
 その上で重大事故対処設備は放射性物質の拡散を最小限に抑える役割を求められている。
 すなわち、施設の位置づけは単なるバックアップ施設ではなく、最悪の事態を少しでも軽減させるための一連の設備であり、これが機能することを総合して初めて「新規制基準に定める放射性物質の拡散量の基準」を満たすことになっている。
 特重施設を「屋上屋を重ねた無駄なもの」、あるいは「念のため」に設けたもので現在の安全対策で十分放射性物質の拡散防止が出来るという趣旨の「反論」を試みる事業者や専門家がいるようだが、これはとんでもない考え違いだ。
 特重施設がないまま稼働を続ける原発が如何に危険なことか、それこそが指摘されなければならない。
 もはや規制基準を満たせなくなった原発は直ちに全て停止しなければならない。

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