「大噴火が少なすぎる近年の日本」【 レジュメ 】
 
【 レジュメ 】

●日本の地震や火山はプレートが起こす

 日本には地震が多いだけではなく、火山も多い。日本の陸地の面積は世界の0.25%しかないのに、世界の陸上にある火山の7分の1も日本にあり、一方、地震もマグニチュード(M)6を超える世界の大地震の22%が起きている。ともに、面積あたりでは群を抜いている。
 プレートの動きは止まることはなく、太平洋プレートは年に約8cm、フィリピン海プレートは約4.5cmの速さで日本列島に向かって動き続けている。
 このプレートの動きによって、岩が我慢できる限界を超えると起きるのが地震、そしてプレートが約100kmのところまで潜り込んだところでマグマが作られ、それが上がってきて起こすのが火山噴火だ。地震はプレートの動きの直接、火山は間接的な反映になる。
 

●日本にある二つの火山帯

 海洋プレートが日本列島の地下に潜っていったときに、上の図のように、深さ90〜130kmのところでプレートの上面が溶けてマグマが生まれる。
 生まれたマグマはまわりの岩よりも軽いから、上に上がってくる。途中にいくつかの「マグマ溜まり」を作り、最終的に火山の噴火を起こす。
 第一回の講演のときにお話ししたように、日本には4つのプレートがある。これらのプレートはおたがいに衝突している。太平洋プレートが北米プレートやフィリピン海プレートと衝突してそれらの下に潜り込む事件は千島列島から東日本、そして西之島新島の先まで続いている。
 それゆえマグマが作られている場所は帯状になり、海溝に並行になる。その結果、火山は日本列島を串刺しにした線上に並ぶ。東日本火山帯である(下の図)。海溝からは西に離れているが、これは衝突した海洋プレートが斜めに潜り込んでいるからである。
 同じように西日本ではフィリピン海プレートがユーラシアプレートの下に潜り込むことによって西日本火山帯が作られている。日本にある活火山はすべてこの二つの火山帯のどちらかにある。
 日本には活火山と認定されている活火山だけでも110もある。
 活火山とは過去1万年以内に噴火したことが分かっている火山で、研究が進むにつれて増えてきている。
 なお、昔、学校でも教えていた「活火山・休火山・死火山」という分類は、とても分かりやすい分類だったが、いまはない。それは、死火山だと考えられていた御嶽山が1979年にいきなり噴火して以来、分類そのものがなくなったからだ。学問的には「死火山」が今後噴火しないかどうか、分からなくなってしまったのである。
 

●日本を襲った過去の噴火

 2014年9月に起きた御嶽山の噴火は60人以上という戦後最多の犠牲者を生んでしまった。
 だが、噴火の規模からいえば日本で過去に起きた噴火に比べると、この噴火はマグマが出てきたわけではなく、ごく小さなものだった。
 御嶽山が噴出した火山灰や噴石の合計の容積は東京ドーム(容積は124万立方メートル)の1/3〜1/2ほどの量だった。
 ところで、19世紀までの日本では、各世紀に4〜6回の「大噴火」が起きていた。「大噴火」とは火山学で東京ドームの250杯分、3億立方メートル以上の火山灰や噴石や熔岩が出てきた噴火をいう。御嶽山の噴火よりもはるかに大きな噴火である。この「大噴火」は17世紀には4回、18世紀には6回、19世紀には4回あった。
 ところが20世紀になると「大噴火」は1913〜1914年の桜島の噴火と1929年の北海道・駒ケ岳の噴火の2回だけで、その後100年近くは「大噴火」は起きていない。

●文明を途絶えさせた「カルデラ噴火」

 過去の日本では、「大噴火」よりもさらに大きな「カルデラ噴火」もあった。放出されたマグマは東京ドーム10万杯分にもなる噴火だ。噴火の後、大きなカルデラが出来る。阿蘇ではカルデラの中に鉄道が二本も走っているほど大きい。
 だが、日本にはもっと大きなカルデラがある。北海道東部の屈斜路カルデラで、これは日本最大のカルデラだ。
 カルデラ噴火は日本では過去10万年の間に12回ほど起きた。九州に多かったが、北海道でも本州でも起きている。
 カルデラ噴火が日本でこれから先ずっと起きないことはあり得ない。間隔は不揃いながら、数千年ごとにこれからも起き続けるに違いない。最後のカルデラ噴火が7300年前だったから、いつカルデラ噴火があってもおかしくはない時期に来ているというべきであろう。
 ところで、いちばん近年のカルデラ噴火だった7300年前の九州南方にある鬼界カルデラの噴火では、九州を中心に西日本で先史時代から縄文初期の文明が断絶してしまった。縄文初期の遺跡や遺物が東北地方だけに集中しているのはこの理由からである。
 世界でも火山の大噴火で滅びてしまった文明はいくつもある。たとえばインドネシアのクラカタウ火山は西暦535年に大噴火して地元にあった高度な文明が滅びてしまった。
 だがそれだけではすまなかった。この噴火で舞い上がった火山灰が成層圏に上がって地球を広く覆ったために世界的な気候変動と冷害が起き、東ローマ帝国の衰退が起き、イスラム教が誕生し、中央アメリカでマヤ文明が崩壊し、少なくとも四つの新しい地中海国家が誕生し、ネズミが媒介するペストが蔓延したことなど、人類にとっての大事件が次々に引きおこされたのではないかといわれている。

●いままでが「静かすぎた」日本

 この100年ほどは、それ以前に比べて日本は「静か」すぎた。たとえば火山噴火は各世紀に4回〜6回の「大噴火」が起きていた。それぞれが大変な災害を生んだ。ところが 20世紀になると、前述したように「大噴火」は2回だけだった。その後現在まで100年近くは「大噴火」はゼロなのである。
 日本の火山噴火も首都圏の地震も静かな状態が続いている理由はわかっていない。この間に、日本は高度成長をなしとげた。
 しかしこの静かな状態がいつまでも続くことはありえない。むしろ「普通の」状態に戻ると考えるのが地球物理学的には自然である。たとえば「大噴火」が21世紀中に4〜5回は起きても不思議ではないと考えている地球物理学者は決して少なくはないのだ。
 いままでの100年ほどは、日本の火山活動も、首都圏の地震も「異常に」少なかった。しかし、これらが東北地方太平洋沖地震という巨大地震をきっかけに「普通」に戻りつつある。
 大きな不安材料は、2011年の東日本大震災(地震の名前は東北地方太平洋沖地震)である。この超巨大地震は日本列島の地下にある基盤岩全体を動かしてしまった。それゆえ、首都圏直下地震も、以前よりは「起きやすく」なっている。
 このM9.0という大地震は東日本全体を載せたまま北米プレートを東南方向に大きく動かした。この種の地殻変動の測定は陸上に固定してあるGPS測地によるものだから、海底部分では測定はできていないが、震源に近い宮城県の牡鹿半島では5.4m、震源から遠くに行くにつれて小さくなるが、それでも首都圏で30〜40cmもずれた。この変動は東日本だけではなく、広く日本列島全体に及んでいる。このために日本各地に生まれたひずみが、それぞれの場所での地震や噴火のリスクを高めている。
 この東北地方太平洋沖地震は地震だけではなく、火山にも影響を及ぼしている。これから数年、あるいは数十年かかって、じわじわ影響が出てくるのである。
 いままでM9を超える地震は世界で7つ知られているが、日本以外では例外なく火山の噴火が、地震後(翌日から数年後)に、近く(1000km以内)で起きている。なかには数百年以上の休止期間の後、噴火した火山もある。
 M9を超える地震は2004年のスマトラ沖地震を除き、日本からカムチャッカを通ってアラスカ、南米までの環太平洋地域で起きている。
 大地震後に起きたこれらの噴火はいずれも2014年に起きた御嶽山の噴火よりも大きいもので、しかも多くの場合には複数の火山が噴火した。もし他国と同様の噴火が日本で起きるとすれば、1000kmとは本州全部を覆ってしまうほどの大きさである。
 江戸時代から現在までの首都圏の地震活動を見ると、不思議なことに1923年の関東地震以来の近年の90年間は異常に静かだったことが分かる。たとえば東京では、前に述べたように、この間に震度5は4回しかない。しかしその前の300年間はずっと多かったし、被害地震も多かった。
 実は元禄関東地震のあとも70年間、静かな期間が続いたのである。海溝型地震が首都圏を襲った影響である可能性がある。
 しかし、静穏期はいずれ終わる。東日本大震災のあと、首都圏は一時の静穏期間が終わって、いわば「普通の」、つまりいままでよりは活発な地震活動に戻りつつあるのだろう。

●富士山の宝永噴火は宝永地震の 49 日後だった

 「地震が誘発した」有名な噴火がある。1707 年の宝永地震の 49 日後に富士山が大噴火した宝永噴火だ。
 この噴火は富士山の三大噴火のひとつになった大きな噴火だった。関東地方にも多量の火山灰を降らせた。この火山灰は、噴火後わずか 2 時間で江戸に達した。富士山から新宿まで 100km しか離れていないことを忘れてはいけない。
 三大噴火のあとの二つは平安時代に発生した「延暦の大噴火」と「貞観の大噴火」である。そのほか、平安時代 400 年間に、富士山は 10 回も噴火している。平安時代のはじめの 300 年の間に 10回(一説によれば 12回)も噴火したのである。
 宝永噴火以来、富士山が 300 年間も噴火しない状態が続いているのは異例である。また、世界的に見ても、長い間噴火しなくて、次に噴火したときには大きな噴火になる例が多い。
 いま恐れられている「南海トラフ地震」は宝永地震が再来するような大きな規模ではないかと言われている。フィリピン海プレートが年々動いているので、地震エネルギーも年々蓄積している。じつはひとつ先代の地震、東南海地震(1944 年)と南海地震(1946 年)は歴代の先祖と比べても小さめだった。つまり、残っている地震エネルギーが次回に加算される可能性がある。
 もしこの地震が起きれば、以前と同じように火山の噴火を誘発する可能性がある。ちなみに、南海トラフ地震の先祖のひとつである慶長地震(1605 年)のすぐあとには八丈島の火山が噴火した。

●地震予知や噴火予知の難しさ

 地震や火山も天気と同じように予報ができるのではと思っているかもしれない。しかし天気予報は「大気の運動方程式」というものが分かっていて、それに日本中で1300地点以上もあるアメダスなどで得たデータを入れると、明日が計算できる仕組みだ。
 他方、地震にも火山にも、残念ながらまだ方程式は見つかっていない。そのうえ基盤岩の上に約3〜4kmも柔らかい堆積物をかぶっているので基盤岩の中の測定データはほとんどない。データも方程式もない二重苦なのである。
 それでも地震予知や噴火予知が唯一の頼りにしてきたのは、方程式がなくても「確実な前兆」が見つかれば、実務的・経験的に地震予知ができるのではないかと思われていたからだ。いわば次善の策であった。
 こうして、「前兆を見つけるための」地震予知は、かなり昔から取り組まれてきたテーマになっている。たとえば地震予知計画が始まったのは1965年で、半世紀以上前のことである。
 前震に限らず、種々の地震活動の変化や、地殻変動観測や、電磁気観測や、地球科学観測などによる前兆の検出が試みられてきた。しかし、いまだに、これといった手法は見つかっていない。
 現在の学問では、たとえば中央構造線のどこかで、いずれ地震が起きることは分かっている。しかし、どこで、いつ、起きるのかは分かっていなかった。それが、2016年に熊本で起きてしまった。現在の地球物理学の限界なのだ。
 他方、噴火予知も難しい。火山も、その火山で以前にあったり他の火山であった「前兆」があっても噴火しない例が多い。予知は地震も火山も難しいのが現状なのだ。
 1997年のことだ。日本中の火山学者や気象庁がピリピリしていた。岩手県盛岡市の北西20kmほどにある岩手山が、いまにも噴火しそうだったからだった。
 それは火山性の地震活動から始まった。1997年12月末から岩手山の西側山腹の浅いところで群発地震が始まって増加してきた。そして翌1998年2月になると低周波地震も観測されるようになった。低周波地震は火山の地下でマグマや熱水が動くことで発生するものだと考えられている。噴火に近づいたに違いない。
 ついで、東北大学や国土地理院が測っていた地殻変動観測データにも変化が現れた。噴火予知のカギになる山体膨張である。そして4月の末になると火山性地震がさらに頻発するようになり、傾斜計にも大きな変化が出た。これだけの「噴火の前兆」が揃った。
 しかし、固唾を呑んで見守っていた火山学者たちや気象庁を尻目に、岩手山は噴火しなかったのである。 これらの「前兆」だったはずのいろいろな活動は6〜7月をピークに、8月以降はしだいに下がっていってしまった。
 2014年9月に戦後最大の火山災害になってしまった御嶽山噴火のときには、火山性地震が前兆だったから来るべき噴火を警告すべきではなかったかという議論がある。
 だがこの御嶽山の「前兆」は小規模な群発地震が約2週間前にあったが、その後おさまってしまっていたものだ。しかもその前の、人的被害がなかった2007年の小噴火のときは火山性微動が2ヶ月も前から出ていた。
 御嶽山に比べると、はるかに多くのもっともらしい「前兆」があっても、岩手山のように噴火しないことがよくある。噴火予知は一筋縄ではいかないのである。
 2015年8月に気象庁で行われた桜島の緊急記者会見も同じだ。いままでにない噴火が起きるのではと思われたが、結局、なにごとも起きなかった。桜島ほど最近の噴火経験が多くて研究者が張り付いているところでさえ、噴火予知はできなかったのである。
 ところで、気象庁が発表している「噴火警戒レベル」は 2014年の御嶽山や2015年8月の桜島で明らかになってしまったように、あてにならないものであることを知っている必要がある。「噴火警戒レベル」には、残念ながらまだ学問的な裏付けはない。いまのところ、すべて「後追い」でレベルを上げているだけなのである。
 御嶽山が噴火して半年後の2015年春、火山噴火予知連絡会の検討会は「噴火速報」を新たに導入するほか、「噴火警戒レベル 1」の表現を「平常」から「活火山であることに留意」と改め、観測機器の増強や火山専門家の育成を提言した。
 しかし「平常」を「活火山であることに留意」と文言を替えただけでは、なにも変わらない。噴火口がある山頂まで行っていいことも、噴火警戒レベルが学問的な裏付けがなく、経験と勘に頼ったものでしかないことも同じだ。あえて言えば、レベル 1のときに火山災害が起きてしまったときの責任を登山者に押しつけて、お役人の責任を少しでも軽くしたいだけのものだろう。

●プレートや火山の「恩恵」

 地震や火山の災害にも苦しめられてきた一方で、私たちはプレートの恩恵にも浴している。日本人が風光を愛で、温泉を楽しみ、四季を味わえるのも、プレートの衝突で作られた火山の「おかげ」である。日本の農業にも火山はいい影響を及ぼしている。
 日本海沿岸の冬の降雪、空っ風などの日本の気候も火山地形が作ってきた。北西からの冬の季節風が元々は乾いていたのに、日本海の上空を通ったときに湿った空気を吸い、それが日本の中央部にあるプレートが作った山脈にぶつかって大量の雪を降らせ、その結果、乾いた風が太平洋岸の冬の気候を作っているのである。
 日本列島の地形の多くは火山が作ったものだし、国立・国定公園のうち多くは火山が作った景観である。また温泉はいうまでもなく火山と同じ「源」である地下のマグマが地下水を暖めて作ったものだ。スキー場の多くは火山の山腹を利用している。
 豊富な地熱があってエネルギー源として使えるのも火山の恩恵である。この地熱は、天候や夜昼に左右されない将来のエネルギー源として期待されている。火山の地熱を生かしてハウス栽培の農業が行われているところも多い。
 狭い国土に急峻な火山があることによって、日本の川は短く、また急である。つまり、日本の川は山地に雨が降ってから海に流れ下るまでの距離も時間も短い。このため多くの水力発電が日本各地で作られた。急峻な山があるゆえである。これも火山の恩恵である。
 日本の川が短いことは日本の水が多く軟水であることの理由になっている。軟水とは、カルシウムやマグネシウムの金属イオン含有量が少ない水のことだ。これに対してヨーロッパの水は硬水であることが多い。これはライン川などヨーロッパの川がゆるい傾斜のところを何千kmも流れるので、まわりの岩からカルシウムやマグネシウムの金属イオンがとけ込みやすいことに原因がある。
 軟水は、石鹸の泡がたちやすいほか、和食やコーヒー、お茶などの水としては適しているといわれている。最近ユネスコの世界遺産として登録された和食の味も火山のおかげなのである。
 また、噴火して火山の山体が作られた後は、火山は大量の水の「天然の浄水装置」になる。つまり平地よりも雨が多い山地で集めた雨水が火山体の中を伏流水として通って、火山の麓(ふもと)から大量の湧水として出てくるのだ。この湧水は量が多く、どんなに日照りの年でも枯れることはないので、麓の農業を支えてくれる。
 この水は火山体で漉されて浄化された水だし、温度も年間を通して一定なので、人間が使ったり飲んだりする水としても、とても適している。ちなみに地下水の温度はその土地の年間平均気温になる。つまり東京では約15度C、札幌では約7度Cである。これは年間の気温変動がせいぜい数〜十数度Cしか達しないということに由来している。
 この大量の湧水は工業にも使われる。たとえば富士山の南側の山麓に製紙工業や写真フィルムの工業が発達したのも大きな山体を持つ富士山の伏流水のおかげである。樽前山の湧水を使っている北海道・苫小牧の製紙工場や、雌阿寒岳の伏流水に頼っている北海道・釧路の製紙工場も同じ構図なのである。

●地震国・火山国に住む「覚悟と知恵」

 第一回からの講演で述べてきたように、もともと首都圏は、世界でも珍しいほど地震が起きやすいところだ。つまり「地震を起こす理由」が多い。また日本にある多くの火山もこのプレートの構図から作られた。
 世界では2つのプレートが衝突しているために地震が多発したり火山が噴火するところはある。いわゆる地震国だ。しかし3つのプレートが地下で衝突しているところは少なく、なかでもその上に3000万人を超える人々が住んでいるところは、世界でもここ、日本の首都圏にしかない。
 自然現象としての地震や噴火は昔から起きてきていることだ。これらが起きても人が住んでいなければ災害は起きない。自然現象と社会の交点で災害が起きるのだ。しかも文明が進むたびに災害が大きくなる。歴史を振り返ると対策は被害をいつも追いかけてきた。
 これから来る災害はもっと大きくなる可能性がある。地震や噴火の危険が以前よりも増えてきていると思って備えることが大事なことなのである。
 とても危ないところに、知らないで住み着いたのが私たちたち日本人なのである。一方で四季がはっきりした気候も、農業も、温泉もみんなプレートの恩恵である。噴火は瞬間的、一過性のものだが、その他の長い時代は恩恵に浴しているわけである。
 日本列島に住み着いた私たちは、恩恵を十分受ける一方で、災害も受け入れざるを得ない。災害があり得るということを普段から考えていることが、何より大事なことだと思う。
 地球のスケールは大きいし長い。人間の知っている知識は、まだごく限られているということを忘れてはいけないのだろう。
 述べてきたように、いままでの100年ほどは「異常に」日本の火山活動も、首都圏の地震も少なかった。しかし、これらは地球物理学者から見ると「普通」に戻りつつある。
 直下型地震も日本のあちこちを襲っている。2016年4月に2回、震度7という最高の震度を記録して大きな被害を生んだ熊本の地震は、この阿蘇がかつて噴火したときの火山灰地のせいで、震度が大きくなった。阿蘇山の外側にも、広く火山の噴出物が吐き出されて溜まっているのである。これはもちろん、阿蘇山には限らない。2018年9月の北海道地震(胆振東部地震)も4−5万年前に噴火して堆積した火山灰地が被害を拡大した。
 私たち日本人は、もちろん火山やプレート活動の恩恵を受けている。
 しかし同時に、地震国・火山国に住む覚悟と知恵を持っているべきであろう。(了)

 

■参考文献(島村英紀の書いた最近の本)(※)
島村英紀『完全解説 日本の火山噴火』。秀和システム。2017年。1600円+税
島村英紀『富士山大爆発のすべて―いつ噴火してもおかしくない』。花伝社。2016年。1500円+税
島村英紀『地震と火山の基礎知識―生死を分ける 60話』。2015年。花伝社。1500円+税
島村英紀『火山入門ー日本誕生から破局噴火まで』NHK出版新書。2015年。740円+税
島村英紀『油断大敵! 生死を分ける地震の基礎知識 60』花伝社。2014年。1200円+税
島村英紀『日本人が知りたい巨大地震の疑問 50』サイエンス・アイ新書。2011年。952円+税

■島村英紀の連載
『夕刊フジ』に2013年5月からシリーズ「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」を毎週木曜に連載(発行日は翌金曜日)。いま278回(12月13日)
(島村英紀さんのHP )

※編集者注:上記参考文献のリンク先は島村英紀さんのHP内にあります。各書籍の「前書き」、「後書き」、「書評」、「読者からの反応」等をまとめてありますので、参考になさってください。
 

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