【記事17740】原子力発電所の耐震設計審査指針の改定 (11-03-01-30)(高度情報科学技術研究機構2006年9月19日)
 
参照元
原子力発電所の耐震設計審査指針の改定 (11-03-01-30)

<大項目> 原子力安全規制
<中項目> 安全審査指針等
<小項目> 発電用原子炉施設に関する安全審査指針等
<タイトル>
原子力発電所の耐震設計審査指針の改定 (11-03-01-30)
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<概要>
 原子力安全委員会では、耐震安全性に係る指針類に地震学および地震工学の最新知見等を反映し、より適切な指針類とするため、2001年7月3日に「原子力安全基準・指針専門部会」に「耐震指針検討分科会」を設置した。同分科会では、原子力施設の安全性や耐震性を規定した耐震設計審査指針類の見直し作業を進め、2006年5月22日改定案が原子力安全委員会に報告された。その後、意見公募における提出意見を考慮した改定案の報告を受け、2006年9月19日原子力安全委員会決定とした。改定された新指針の概要を述べる。
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(注)東北地方太平洋沖地震(2011年3月11日)に伴う福島第一原発事故を契機に原子力安全規制の体制が抜本的に改革され、新たな規制行政組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。本データに記載されている原子力発電所の耐震設計審査指針については、福島第一原発事故から得られた教訓を踏まえ、原子力規制委員会によって全面的な見直しが行われる見込みである。なお、原子力安全委員会は上記の規制組織改革に伴って廃止された。
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<更新年月>
2007年01月
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<本文>
 「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」の改訂は、地震学および地震工学に関する新たな知見の蓄積並びに発電用軽水型原子炉施設の耐震設計技術の著しい改良および進歩を反映し、旧指針(1981年策定)を全面的に見直したものである。以下に新指針の概要と改定のポイントと施設等の耐震安全性の評価および確認についての基本的考え方を述べる。

1.適用範囲
 本指針は、発電用軽水型原子炉施設に適用される。

2.基本方針
 耐震設計上重要な施設は、敷地周辺の地質・地質構造並びに地震活動性等の地震学および地震工学的見地から施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があり、施設に大きな影響を与えるおそれがあると想定することが適切な地震動(この地震動を「基準地震動Ss」という)による地震力に対して、その安全機能が損なわれることがないように設計されなければならない。さらに、施設は、地震により発生する可能性のある環境への放射線による影響の観点からなされる耐震設計上の区分ごとに、適切と考えられる設計用地震力に十分耐えられるように設計されなければならない。また、建物・構築物は、十分な支持性能をもつ地盤に設置されなければならない。
(解説)地震学的見地からは、基準地震動を上回る強さの地震動が生起する可能性は否定できない。したがって、施設の設計に当たっては、策定された地震動を上回る地震動が生起する可能性に対して適切な考慮を払い、基本設計の段階のみならず、それ以降の段階も含めて、この「残余のリスク」の存在を十分認識しつつ、それを合理的に実行可能な限り小さくするための努力が払われるべきである。

3.耐震設計上の重要度分類
 施設の耐震設計上の重要度を、地震により発生する可能性のある環境への放射線による影響の観点から、施設の種別に応じてS、B、Cクラスに分類する(旧指針の4分類から3分類)。耐震設計上の重要度分類を表1に示す。

4.基準地震動の策定
(1)基準地震動Ss(旧指針のS1およびS2の統合)は、「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」および「震源を特定せず策定する地震動」について、敷地における解放基盤表面における水平方向および鉛直方向の地震動としてそれぞれ策定する。

(2)「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」は、敷地周辺の活断層の性質、過去および現在の地震発生状況等を考慮し、さらに地震発生様式等による地震の分類を行った上で、敷地に大きな影響を与えると予想される地震(検討用地震)を、複数選定する。ここで考慮する活断層としては、後期更新世以降の活動(最終間氷期の地層または地形面に断層による変位・変形が認めらるか否かによる認定)が否定できないものとし、活断層の位置・形状・活動性等を明らかにするため、敷地からの距離に応じて、地形学・地質学・地球物理学的手法等を総合した十分な活断層調査を行う。検討用地震ごとに、応答スペクトルに基づく地震動評価および断層モデルを用いた手法による地震動評価の双方を実施し、それぞれによる基準地震動Ssを策定する(表2および表3の解説参照)。

(3)「震源を特定せず策定する地震動」は、震源と活断層を関連付けることが困難な過去の内陸地殻内の地震について得られた震源近傍における観測記録を収集し、これらを基に敷地の地盤物性を加味した応答スペクトルを設定し、これに地震動の継続時間、振幅包絡線の経時的変化等の地震動特性を適切に考慮して基準地震動Ssを策定する。

5.耐震設計方針
(1)基本的な方針
 施設は、耐震設計上のクラス別に、以下の耐震設計に関する基本的な方針を満足していなければならない。弾性設計用地震動の策定は、表3の解説を参照。
1)Sクラスの各施設は、基準地震動Ssによる地震力に対してその安全機能が保持できること。また、弾性設計用地震動Sd(Ssから工学的判断で設定)による地震力又は以下に示す静的地震力のいずれか大きい方の地震力に耐えること。
2)Bクラスの各施設は、静的地震力に耐えること。また、共振のおそれのある施設については、その影響についての検討を行うこと。
3)Cクラスの各施設は、静的地震力に耐えること。

(2)地震力の算定法
 施設の耐震設計に用いる地震力の算定は以下に示す方法によらなければならない。
1)基準地震動Ssによる地震力
 基準地震動Ssによる地震力は、基準地震動Ssを用いて、水平方向および鉛直方向について適切に組み合わせたものとして算定されなければならない。
2)弾性設計用地震動Sdによる地震力
 弾性設計用地震動Sdによる地震力は、水平方向および鉛直方向について適切に組み合わせたものとして算定されなければならない。
3)静的地震力
 静的地震力の算定は以下に示す方法によらなければならない。詳しくは、表4の解説参照。
i)建物・構築物
 水平地震力は、地震層せん断力係数Ciに、次に示す施設の重要度分類に応じた係数を乗じ、さらに当該層以上の重量を乗じて算定するものとする。Sクラス3.0、Bクラス1.5、Cクラス1.0とする。ここで、地震層せん断力係数Ciは、標準せん断力係数Coを0.2とし、建物・構築物の振動特性、地盤の種類等を考慮して求められる値とする。
 Sクラスの施設については、水平地震力と鉛直地震力が同時に不利な方向の組合せで作用するものとする。鉛直地震力は、震度0.3を基準とし、建物・構築物の振動特性、地盤の種類等を考慮して求めた鉛直震度より算定する。ただし、鉛直震度は高さ方向に一定とする。
ii)機器・配管系
 各耐震クラスの地震力は、地震層せん断力係数Ciに施設の重要度分類に応じた係数を乗じたものを水平震度とし、水平震度および鉛直震度をそれぞれ20%増しとした震度より求める。なお、水平地震力と鉛直地震力は同時に不利な方向の組合せで作用するものとする。ただし、鉛直震度は高さ方向に一定とする。

6.荷重の組合せと許容限界
 耐震安全性に関する設計方針の妥当性の評価に当たって考慮すべき荷重の組合せと許容限界についての基本的考え方は、以下に示すとおりである。
(1)建物・構築物
1)Sクラスの建物・構築物
i)基準地震動Ssとの組合せと許容限界
 常時作用している荷重および運転時に作用する荷重と基準地震動Ssによる地震力との組合せに対して、当該建物・構築物が構造物全体として変形能力(終局耐力時の変形)について十分な余裕を有し、建物・構築物の終局耐力に対し妥当な安全余裕を有していること。
ii)弾性設計用地震動Sd等との組合せと許容限界
 常時作用している荷重および運転時に作用する荷重と、弾性設計用地震動Sdによる地震力又は静的地震力とを組み合わせ、その結果発生する応力に対して、安全上適切と認められる規格および基準による許容応力度を許容限界とする。
2)Bクラス、Cクラスの建物・構築物
 常時作用している荷重および運転時に作用する荷重と静的地震力を組み合わせ、その結果発生する応力に対して、上記の許容応力度を許容限界とする。

(2)機器・配管系
1)Sクラスの機器・配管系
i)基準地震動Ssとの組合せと許容限界
 通常運転時、運転中の異常な過渡変化時、および事故時に生じるそれぞれの荷重と基準地震動Ssによる地震力とを組み合わせ、その結果発生する応力に対して、構造物の相当部分が降伏し、塑性変形する場合でも、過大な変形、亀裂、破損等が生じ、その施設の機能に影響を及ぼすことがないこと。なお、動的機器等については、基準地震動Ssによる応答に対して、実証試験等により確認されている機能維持加速度等を許容限界とする。表5の解説参照。
ii)弾性設計用地震動Sd等との組合せと許容限界
 通常運転時、運転中の異常な過渡変化時、および事故時に生じるそれぞれの荷重と、弾性設計用地震動Sdによる地震力又は静的地震力とを組み合わせ、その結果発生する応力に対して、降伏応力又はこれと同等な安全性を有する応力を許容限界とする。
2)Bクラス、Cクラスの機器・配管系
 通常運転時、運転中の異常な過渡変化時の荷重と静的地震力とを組み合わせ、その結果発生する応力に対して、降伏応力又はこれと同等な安全性を有する応力を許容限界とする。

7.地震随伴事象に対する考慮
 施設は、地震随伴事象について、次に示す事項を十分考慮したうえで設計されなければならない。
(1)施設の周辺斜面で地震時に想定しうる崩壊等によっても、施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがないこと(周辺斜面の安定性)。

(2)施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があると想定することが適切な津波によっても、施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがないこと(津波に対する安全性)。

8.新指針の改定のポイントと施設等の耐震安全性の評価および確認の基本的な考え方
 新指針の改定のポイントは、表6のとおりである。原子力発電所施設等の耐震安全性の評価および確認の基本的な考え方は以下のとおりである。評価・確認の項目を表7に示す。
(1)新指針の要求を踏まえ、基準地震動Ssに対する耐震設計上重要な施設の安全機能の保持の観点から既設発電用原子炉施設の耐震安全性評価および確認を行う。

(2)基準地震動Ssに対する安全機能の保持の評価および確認を行う施設は、新耐震指針によるSクラス施設(旧指針によるAクラスおよびAsクラスの施設)とする。なお、クラスSの施設に波及的破損を生じさせるおそれのあるクラスBおよびC(旧指針によるBクラスおよびCクラスの施設)については、基準地震動SsによるクラスSへの波及的影響の評価および確認を行う。

(3)基準地震動Ssは、新指針に則り「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」および「震源を特定せず策定する地震動」を考慮して策定する。

(4)施設に作用する地震力の算定、発生応力の算定、安全機能の評価および確認等に用いる地震応答解析手法、解析モデル、許容値等については、従来の評価実績、最新の知見および規格・基準等を考慮する。
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<図/表>
表1 耐震設計上の重要度分類によるクラス別施設
表2 新指針の用語等の解説(その1)基準地震動の策定
表3 新指針の用語等の解説(その2)断層の評価等
表4 建物・構築物についての静的地震力の算定
表5 新指針の用語等の解説(その3)荷重の組合せ許容限界
表6 新指針の改定のポイント
表7 新指針に照らした耐震安全性の評価および確認の項目

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<関連タイトル>
原子力発電所の耐震設計 (02-02-05-05)
原子力発電施設の耐震信頼性実証試験(平成8年度〜平成10年度) (06-01-01-14)
原子力発電所の地質、地盤に関する安全審査の手引き (11-03-01-22)
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<参考文献>
(1)原子力安全委員会ホームページ:「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」等の耐震安全性に係る安全審査指針類の改訂等について、別添1 発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針(平成18年9月19日)、
(2)総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会耐震・構造設計小委員会:第4回配付資料4-2 「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」の改訂原案について−改訂のポイント−(平成18年5月31日)、
(3)総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会耐震・構造設計小委員会:第8回配付資料8-1 新耐震指針に照らした既設発電用原子炉施設等の耐震安全性の評価及び確認に当たっての基本的考え方並びに評価手法及び確認基準について(案)(平成18年8月8日)、
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KEY_WORD:原発耐震審査関連の資料