【記事28875】福島とその周辺に残る歴史津波の記録 −はたして東日本大震災巨大津波は想定外だったのか?− 山内幹夫(清水地区郷土史研究会_夏期講習会2012年8月30日)
 
参照元
福島とその周辺に残る歴史津波の記録 −はたして東日本大震災巨大津波は想定外だったのか?− 山内幹夫

(前略)

3 地層に残された津波の痕跡

 1990年以降、東北大学大学院理学研究科や独立行政法人産業技術総合研究所活断層・地震研究センター、東京大学地震研究所などをはじめとする専門機関に属するメンバーにより、東北地方太平洋沿岸の地層に残された津波痕跡の調査が積極的に行われたが、その経過は以下のとおりである。

1990年 仙台平野で初めて津波堆積物調査が行われた。貞観および過去の津波堆積物を確認し、 貞観地震津波の痕跡高として、海岸から離れた平野部で2.5〜3.0mを推定。

1991年 仙台平野における貞観および過去の津波堆積物の調査。貞観地震津波と同様の津波イベントの再来周期800年を推定。

1998年 貞観地震津波に関する史料・痕跡の検討。仙台湾内を波源域とする津波により、仙台湾沿岸での遡上距離3〜5km、遡上高6mを推定。断層モデルによる検討の必要性を指摘。この頃まで、貞観地震津波に関する数値シミュレーションの研究例はまだ無かった。

2001年 貞観地震津波に関する伝承の検討。貞観地震津波に関係すると考えられる伝承が宮城県気仙沼市から茨城県鉾田市まで分布していることを明らかにした。

貞観地震津波の堆積物調査と数値シミュレーションに関する英文報告。宮城県沖から福島県沖までのエリアで断層を仮定し、仙台平野での津波来襲波形を推定。

2002年 貞観地震津波に関する堆積物および多賀城市市川橋遺跡での痕跡調査。仙台平野と福島県相馬市で貞観地震津波の堆積物を確認。市川橋では、津波が河川から氾濫して浸水した可能性を指摘。

2005年 文部科学省「宮城県沖地震重点調査観測」事業として、2005年から2009年にかけて、宮城県沖を中心とした東北地方の太平洋沿岸域において詳細な地質学的な調査を実施して、津波堆積物を検出し、その空間的な広がりと年代から、「連動型」宮城県沖地震の同定および発生時期の特定を進め、「連動型」地震の活動履歴を解明するための調査が行われた。

2007年 宮城県仙台市・名取市・岩沼市・亘理町・山元町の平野部および沿岸湖沼での津波堆積物調査。津波再来間隔として600年〜1300年を推定。多数の連続掘削と年代測定により、貞観地震津波堆積物の分布を広範囲で明らかにした研究が行われた。

2008年 宮城県仙台市・名取市・岩沼市・亘理町・山元町での津波堆積物調査。貞観地震津波による浸水域として、仙台で当時の海岸線から1km以上・名取―岩沼で4km・亘理で2.5km・山元で1.5kmを推定。

貞観地震津波の波源域に関する数値シミュレーションによる検討。M8.3〜8.4・断層幅100km・滑り量7m以上のプレート間地震により、津波堆積物の分布と一致する浸水域を再現。波源域の北限・南限(断層長さ)を決めるための調査の必要性を指摘。

2010年 貞観地震津波の痕跡調査と当時の地形復元、および堆積物を用いた津波の特性の推定。 仙台平野全域で、現在より1km内陸にある当時の海岸線から約3kmまで津波堆積物が分布。堆積物の特徴から、貞観地震津波では大規模な波の遡上が1回起こり、長期間冠水したことを推定。

貞観地震津波の波源域に関する数値シミュレーションによる検討。 M8.4・L=200km×W=100km・滑り量7mの断層モデルで、福島県浪江町で確認された津波堆積物を含めた浸水域を再現、三陸沿岸および福島県南部〜茨城県の沿岸での堆積物調査の必要性を指摘。

2011年 貞観地震津波の波源域に関する数値シミュレーションによる検討と堆積物に基づく浸水域の推定手法の見直し。M8.3・L=200km×W=85km・滑り量約6mの断層モデルにより、仙台平野では堆積物の分布域よりも0.5〜1.0km内陸まで浸水した事を推定。

貞観地震津波の地震・津波像まとめ

・ 貞観地震津波の歴史記録と伝承は宮城県気仙沼市〜茨城県鉾田市にかけて分布

・ 貞観地震津波の堆積物は宮城県石巻市から福島県浪江町にかけて分布。推定浸水域は仙台湾沿岸の平野部で当時の海岸から3〜4km。

・ 津波数値シミュレーションによれば、長さ200km・幅85〜100km・滑り量6〜7mの断層による波源域で堆積物の分布を説明可能。貞観地震の推定マグニチュードはMw8.3〜8.4

(東北大学 今村文彦・菅原大助)

(後略)

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