[2020_09_04_02]トリチウム処理水 本格操業へ水差すな【風評の現場】(2)(福島民報2020年9月4日)
 
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トリチウム処理水 本格操業へ水差すな【風評の現場】(2)

 ヒラメやカツオなどの鮮魚をはじめ、メヒカリ、サバの干物が並ぶ。いわき市小名浜のさんけい魚店の三代目女将(おかみ)、松田幸子さん(37)の元気な声が響く。
 「旬の魚が入ってますよ」「いつものお刺し身盛り合わせですね」。東日本大震災と東京電力福島第一原発事故から九年半、漁業関係者にどんなに厳しい逆風が吹いても、一日も早い本格操業を願い、頑張ってきた。
 しかし、東電福島第一原発で増え続ける放射性物質トリチウムを含んだ処理水について、政府の小委員会は最終報告書で海洋放出、大気放出するのが現実的な選択肢として政府に提言した。
 今、処理水を保管するタンクを置く場所が原発敷地内に少なくなってきており、処分方法の決定が近づいているとされている。これまでの苦労が思い出され、未来への不安が膨らんでくる。
 原発事故直後、長年通う常連客からも「福島県沖で捕れた魚は本当に安全なのか」「干物は放射性物質で汚染されているのでは」との言葉を突きつけられた。「気になるのなら買わなくて結構です」と言い返しそうになるのを何度もこらえた。
 県内の漁業者はみな見えない敵と闘ってきた。試験操業で採取した魚介類は、魚種ごとに放射性物質を検査してきた。今年二月にコモンカスベの出荷制限が解除され、原発事故後に制限対象となった四十三魚種、四十四品目が全て解除された。

本格操業に向けた動きが期待される矢先、トリチウム水の処分方法がちらつき始めた。

 海や大気への放出が現実的だとする報告書をまとめた政府の小委員会に対し、「震災当時から少しずつみんなが協力して日常を取り戻してきた。福島県の海や大気への放出は受け入れられない」と疑問を投げ掛ける。
 港町・小名浜に生まれ、鮮魚店を切り盛りする両親を見て育った。小さい頃から魚や海は身近だった。現在は鮮魚店で働く一方で、地域住民に魚のさばき方や料理方法を教えている。
 福島県から茨城県までの沖合は、親潮と黒潮がぶつかる潮目の海で、寒流と暖流に乗って魚が集まる全国屈指の漁場だ。鮮度と価格、品質のどれをとっても格別で、「常磐もの」としてブランドになっている。小名浜漁港に水揚げされる魚は、地元の鮮魚店にとって何にも代え難い宝だ。
 「海に関わる人は、海に誇りを持っている。県内で処理水が処分されれば、漁業者が積み上げてきた努力が崩れ去る。それだけは絶対避けたい」
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