[2019_09_30_08]経産担当官僚が汚染水問題の議論を「ピーチクパーチク」と表現 フェイスブック投稿後に削除〈dot.〉(アエラ2019年9月30日)
 
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経産担当官僚が汚染水問題の議論を「ピーチクパーチク」と表現 フェイスブック投稿後に削除〈dot.〉

 経済産業省外局の資源エネルギー庁で、東京電力福島第1原子力発電所の廃炉や汚染水の処理を担当する職員が、放射性物質トリチウム(三重水素)などを含む水の扱いに関する議論について、自身のフェイスブックに「廃炉に責任を負ってない人はピーチクパーチク言えるけどねえ、笑」と投稿していたことがわかった。
 投稿したのは、同庁参事官の木野正登氏。東京大学で原子力工学を学んだ後に経産省に入省した原子力の専門家だ。投稿は、誰でも閲覧できる状態で掲載されていた。
 木野氏は27日、汚染水の取り扱いについて検討する有識者会議について報じたNHKの記事を紹介する形で前出の内容を投稿、後に削除した。翌28日には、同じ記事を紹介しながら「投稿で多くの人を傷つけてしまい、また、不快な思いをさせてしまいました。本当にすみませんでした」と謝罪した。
 地元関係者はこう話す。
「削除された投稿は、すでに関係者の間で共有されています。なかには『私の発言が、官僚の人たちに“ピーチクパーチク”と思われていたのかもしれない』とショックを受けている人もいます」
 福島第1原発でため続けている汚染水については、東京電力が2022年夏ごろにタンクがいっぱいになるとの見通しを示していて、汚染水を処理した後の水を長期保存をするか、海洋放出をするかで経産省を中心に政府で議論が続いている。
 そのなかで9月10日、通産官僚出身の原田義昭前環境相が「海洋放出しかない」と発言し、論議を呼んだ。その後、内閣改造後に後任として入閣した小泉進次郎環境相は「福島の皆さんの気持ちを、これ以上傷つけないような議論の進め方をしないといけない」と述べ、原田前環境相の発言を事実上撤回。12日には、福島県の内堀雅雄知事や漁業関係者を訪ねて謝罪したばかりだった。
 海洋放出については、原子力規制委員会が「科学的、技術的には基準以下に薄めて海洋放出するのが妥当」との見解を示している。一方、風評被害を心配する地元漁業者から不安の声が上がっている。海洋放出をめぐる科学的な議論のほかに、社会で理解が得られていないのが現状だ。
 木野氏の仕事は、原子力の専門家として汚染水の処理について理解を得られるようにすることだが、有識者会議の委員の一人は「委員を侮辱するような発言だ。今後の委員会への対応も検討したい」と話す。
 木野氏は、今年5月にインターネットメディア「シノドス」の対談で、「処理水の問題は専門性も高く、県外や首都圏には積極的に関心を持ち続けてくださる方が少ないのが現状です。私個人としては、引き続き地元でのコミュニケーションを、少しずつでも継続していきたい」と話していた。それがなぜ、このような内容の投稿をしたのか。
 投稿の真意について、木野氏に直撃したところ、「意図しない人たちに不快な思いをさせたことは、申し訳なかったと思います」と話した。有識者会議を批判したと取られる内容については、
「有識者会議の議員の発言について批判したものではありません。風評被害を心配されている地域の人に向けて言ったものではなく、(関係者以外の反対派の人に)科学的根拠を踏まえてご発言していただきたいという趣旨です」
 木野氏は、問題の投稿の2日前にもフェイスブックに投稿している。そこでは、人気アニメ『名探偵コナン』の主人公・江戸川コナンの「言葉は刃物なんだ。使い方を間違えると厄介な凶器になる。言葉のすれ違いで、一生の友達を失うこともあるんだ」という言葉を引用していた。投稿した内容は言葉のすれ違いなのか、それとも思わず本音が出たものなのか。いずれにしろ、汚染水問題で悩む人たちを“言葉の凶器”で傷つけたことは間違いない。

* * *

■木野氏との一問一答
──「廃炉に責任を負ってない人はピーチクパーチク言えるけど」との内容は、どのような趣旨だったのですか。
 誤解を与えてしまったことは申し訳ないと思います。意図しない人たちに対して不快な思いをさせてしまったことは、そういう趣旨ではないです。

──「そういう趣旨」とは?
 たとえば、地域の方々で反対の人もいますし、賛成の人もいます。そういう人たちの意見をまったく無視するという趣旨ではないです。

──では、どういう意図で投稿したのでしょうか。
 (汚染水の処理について)いろいろとご発言なさっている方がいますが、事実関係をきちんと認識したうえで発言していない方もいますので、そういう方々の発言が最近飛び出しているので、もっと事実関係を踏まえた発言をしてほしいという趣旨です。

──議事録がまだ公開されてませんが、有識者会議の中で、そういった発言があったということですか。
 有識者会議の議員は、廃炉に責任を担っている方ですので、委員の発言を批判したものではないです。

──では、どういう人に向けての投稿だったのでしょうか。
 地域の人々の意見は大事ですし、そういった意見を無視するつもりはありません。ただ、いろんなことを言っている人々がいますので、もっと正しい情報をふまえてご発言いただきたいなと思っています。

──それは、海洋放出に賛成している人、反対している人に関係なくということですか。
 賛成の人にそういうことを言うつもりはありません。反対の人でも、風評被害を心配している人はいますし、それはごもっともなことです。我々もそれをちゃんと認識しているので、そういう人に向けた発言でもないです。

──反対派に科学的根拠に基づかない人がいるということでしょうか。
 そうですね。科学的根拠をふまえてちゃんとご発言いただきたいという趣旨です。

(AERA dot.編集部/西岡千史)
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