[2018_09_05_01]プルトニウム製造装置としての「原子力発電所」 福島第一原発の重大事故により原発が巨大な危険を抱えた施設であることが事実として示された 即刻、原子力発電はやめるべきだ 小出裕章さん(元京都大学原子炉実験所)(たんぽぽ舎2018年9月5日)
 
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プルトニウム製造装置としての「原子力発電所」 福島第一原発の重大事故により原発が巨大な危険を抱えた施設であることが事実として示された 即刻、原子力発電はやめるべきだ 小出裕章さん(元京都大学原子炉実験所)


 安倍政権が世論を無視して原発再稼働を進めている。一方で、プルトニウムの保有量は約47トン。長崎型原爆4000発分に相当し、日本はプルトニウム大国になっている。こうした事実について、小出裕章さんに電話インタビューした。
                     (文責・人民新聞編集部)

1.日本のプルトニウムの現状について

 人類は、木材から始まって石炭・石油・天然ガスなどの資源を燃やしてエネルギー源にしてきましたが、これらの発する熱量と核分裂による熱量は桁違いです。
 例えば1kgのウラン235の核分裂によって発する熱量は同量の石油の200万倍です。だから原爆という途方もない爆弾が作られたわけです。
 広島・長崎の日が近づいていますが、長崎原爆は、プルトニウム239という自然界には存在しない物質を原料に作られました。

 このプルトニウムを人工的に作り出す方法として開発されたのが原子炉です。
 日本で「原子炉」というと「核の平和利用」と呼ばれる「原子力発電所」を思い浮かべますが、そもそも原子炉は、原子爆弾を製造するために作られた施設であることは、開発当初の学者も政治家もみんな知っていました。
 原子炉を日本に導入した政治家も学者も、プルトニウム239を手に入れたいという思惑をもって原子力発電所を建設し稼働してきたのです。

 既に日本は、プルトニウムを47トンも保有していますが、日本は、70数年前にアジア諸国を侵略し2000万人を殺した歴史をもつ国ですから、長崎型原爆4000発分のプルトニウムを持つことは、国際的に到底許されません。
 そのため、「日本のプルトニウムは、発電所で燃料として使う」「使い道のないプルトニウムは保有しない」という国際公約をしています。

 ただし、プルトニウムを燃やす原子炉は、ウランを燃やす原子炉とはまったく構造が違います。そのため日本政府は、高速増殖炉「もんじゅ」を1兆円超の金を投入し続けてなんとか動かそうとしましたが、結局、動かないまま廃炉が決定しました。

 さらに、核燃料再処理施設も破綻しました。日本は核燃料廃棄物からプルトニウムを取り出す再処理技術を開発するために、青森県六ヶ所村に再処理工場を建設しましたが、これも結局破綻しました。
 つまり、核燃料サイクルの中核である高速増殖炉も核燃料再処理も全て破綻して、プルトニウムを燃料として使う道は完全に断たれてしまいました。

 このため日本政府は、ウランを燃やすための原子炉にプルトニウムを混ぜて燃やすという「プルサーマル」計画を立ち上げざるを得ないところまで追い込まれています。
 日本で稼働している原子力発電所は、ウランを燃やすために設計された原子炉です。この原子炉に、プルトニウムという非常に扱いにくい核物質を混ぜて燃やすのですから、当然事故のリスクは高まります。
 これは灯油を燃料にする石油ストーブにガソリンを入れて燃やすようなものです。灯油の代わりにガソリンを入れれば火事になります。
 プルトニウムは原爆の材料で、管理が難しいし再処理も難しく、経済的にも膨大な費用がかかります。それでも「プルサーマル」をやるしかないところに追い込まれています。

2.進む原発再稼働

 原発再稼働の問題ですが、日本政府はプルトニウム処理という大義名分のためにも東海第二原発、高浜原発と次から次へと再稼働せざるを得なくなっているのです。
 再稼働に向かうもうひとつの大きな理由は、原発を全て停止して原発から撤退すれば、原発関連施設が全て不良債権になってしまうことです。

 プルトニウムも、これまでは資産として計算されていたのですが、今度はゴミになってしまって、電力会社の重みになります。
 原発自体も、今は資産ですが、運転しないとなると、廃炉のために膨大なお金がかかるのです。
 さらに廃炉にした原発施設は不良債権化して、電力会社の資産が大幅に失われ赤字に陥ってしまいます。そこで、少しでも先延ばしするために再稼働に向かっているのだと私は思います。
 しかし、福島第一原発事故によって原発が巨大な危険を抱えた施設であることは、事実として示されたのですから、即刻原子力発電はやめるべきだと思います。
Q:福島の現状は?

◎ 敷地内と外と二つに分けて説明します。まず、原発敷地内です。福島第一原発1・2・3号機は、全て炉心が熔融し、冷却水を注ぎ続けなければならなくなっています。
 この汚染水は、既に100万トンを超えて、貯水タンクも敷地一杯に広がり、汚染水は海に流されています。
 東京電力は、事故収束に向けたロードマップを作っていますが、最終的には、熔け落ちた炉心を安全に回収するか、閉じこめることが絶対必要です。
 当初東電は、熔けた炉心を掴み出し、安全な容器に封入して保管することが事故の収束だと言ってきました。30〜40年の計画でした。
 ところがこの計画の破綻が確定しました。なぜなら、この計画の前提は、「炉心は圧力容器の真下に饅頭のように堆積している」との想定でしたが、各種調査の結果、炉心は、圧力容器の土台であるペデスタル(コンクリート製の台座)を突き抜けていることが確定したからです。
 仮に炉心が格納容器の真下にあったとしても、そのままでは猛烈な放射線が放出されていますから、東電は、格納容器を修理して水で満たし、放射線を遮って取り出し作業をする計画でしたが、これも不可能であることが確定しています。
 格納容器は、地震と水素爆発によるダメージでボロボロになり、あちこちに穴が開いているので、いまだに水を貯めることができないのです。
 事故から7年半経って、格納容器のどこがどんなふうに壊れているかすらわかっていないのです。これらを全て修理して水を満たすことなどできません。
 そこで東電は、ロードマップを書き換えました。格納容器の胴体に穴を開けて、特殊な工具を入れて炉心を取り出す計画です。
 しかし放射線を遮る水が使えなくなるので、作業者は、膨大な被ばくを強いられます。100年経っても無理だと思います。今生きている誰も、事故の収束を見ることはできないのです。

◎ 広島原爆1000発分の放射性物質が放出されている
 次に敷地外の状況です。原発事故によって大気中に放出された放射性物質は多様です。そのうち、私が人間に対して一番危害を加えると考えているセシウム137は、日本政府のIAEAへの報告書によると、広島原爆168発分だとされています。その他にも汚染水として貯まり続け、そして海に流れ出ている分を含めると、福島原発事故は、広島原爆の死の灰の数百〜1千発分の放射性物質を環境中に放出したのです。
 ただし、大気中の放射性物質のうち8〜9割は、偏西風に乗って太平洋に運ばれました。 したがって、日本列島に降り注がれた放射性物質は全体の1〜2割程度です。
 しかしそれでも、放射線管理区域に指定されなければならない4万Bq/平方m以上の汚染がある地域は、14000平方kmにものぼります。
 放射線管理区域では、飲食は禁止されていますし、そこにあるものを区域外に持ち出すことも禁止されています。人が生活してはいけない場所です。
 そのうち1100平方kmは、猛烈な汚染のために日本政府は避難を命じましたが、残りの12900平方kmの地域では、法律で人が生活してはいけないとされる場所に、数百万人の人が棄てられてしまっています。
 さらに強制避難を命じた1100平方kmのうち6〜7割にあたる地域では、昨年3月に避難命令が解除され、帰還しなければ住宅補助をはじめ一切の補助が打ち切られる事態となっています。それでも自力避難している人はたくさんいますが、帰らざるを得ない多くの人たちが帰還を始めています。

◎ 避難者も残された住民も同じ被害者

 さらに問題なのは、住民どうしの分断です。帰らない人たちに対し「帰って復興しよう」という呼びかけがなされ、さらに「帰らないことは、汚染を認めることになるので、復興の邪魔だ」と攻撃してしまう事態にもなっています。
 強制避難させられた人は無論被害者ですし、本来放射線管理区域に指定されるべき地域に棄てられて生活を強いられている人々も被害者です。
 また、子どもたちを守るために帰還をせずに頑張っている自主避難者も被害者です。このように多様な被害者が、お互いに非難・反目しあうという事態が生まれています。
 その一方で加害者である東京電力や政府は、誰一人責任をとることなく、次々と原発を再稼働させ、海外に輸出することまでやろうとしています。
 被害者は、お互いに多様な苦悩があることを認めあって、団結して加害者と闘うという歴史を作っていくことを願っています。

◎ 最後に、事故当日に出された「原子力緊急事態宣言」が未だに続いているという異常事態を指摘しておきます。
 「緊急事態」が1週間続いたというのなら理解できますが、7年半も続いており、いつ解除されるかもまったくわかりません。100年経っても無理でしょう。
 なぜなら、主要な汚染物質であるセシウム137の半減期は、30年です。100年経っても10分の1です。帰還困難区域に指定されている370平方kmについては、100年後でも、管理区域である4万Bq/平方mを越えてしまいます。
 緊急事態宣言は、解除できないのです。
 敷地内の原子炉は、100年経っても収束できないし、敷地外の悲劇は100年経ってもなくせないという事故は、今も続いているのです。 (了)
           (人民新聞2018年8月25日号より了承を得て転載)

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