【記事63383】なぜ人々は原発再稼働に「無関心」なのか(現代ビジネス2017年12月29日)
 
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なぜ人々は原発再稼働に「無関心」なのか

 いつの間にか、「脱原発」のムードに倦んでしまった世間を尻目に、原子力ムラは次々と原発再稼働を推進している。だが、ムラのやりたい放題にカネを出させられるのは、われわれ国民なのだ。

廃炉費用で原発建設
 経産省の最高幹部のひとりは、冷徹な表情で記者にこう語った。
 「仮に原発が事故を起こしたとしても、規制委が過剰すぎるほどの安全基準で検査して合格させたわけですから、それは技術の限界ですよ。隕石が原発に落ちる可能性だってあるんですから、想定外を考えて物事を進めるなんて成り立たない」
 11月24日、日本原子力発電(原電)は東海第二原発の運転延長を原子力規制委に申請した。東海第二原発は、40年間の運転期限が迫っている。その期限ぎりぎりの「20年延長」申請で、再稼働を目指す。だがこれは、原子力ムラの「カネ」の都合に過ぎないようだ。
 「原電は、稼働している発電所が現在ひとつもなく、東電など電力大手9社とJパワーからの基本収入と債務保証で、かろうじて存続を維持しています。
 しかし、東海第二を動かさないと宣言した瞬間に、基本料収入も債務保証もなくなるでしょう。つまり、再稼働しないかぎり、会社が破綻してしまう状況にあるのです」(ジャーナリスト・町田徹氏)
 原電が保有する原発は4基あるが、東海と敦賀1号機は廃炉作業中だ。敦賀2号機は、建屋直下に活断層が走っている可能性が指摘されているため、実は頼みの綱はこの東海第二だけなのだ。
 だが、原電が今回の延長申請を行う1週間前、驚くべき事実が明るみになった。原発廃炉のための「解体引当金」(原電の場合、4基で合計1800億円)を流用し、なんと敦賀3・4号機の原発建設費用に充てていたというのだ。その結果、緊急時に使える手元の現預金は3月末で187億円しか残っていなかった。
 東海第二の廃炉のための引当金は530億円だった。はなから廃炉するつもりなどないということだ。さらには、新規建設のカネに使っていた! さすがに言語道断だというのは、原子力資料情報室共同代表の伴英幸氏だ。
 「外部機関で廃炉資金を積み立てるシステムがないから起こる事態です。原電は、福島事故の前に、将来の廃炉を想定せず、敦賀原発の増設にどんどん解体引当金を使っていった。このままでは、増設も廃炉もできないから再稼働をさせたいという論理につながります」
 だが、原電の目論み通りに、規制委が東海第2の再稼働を認めたところで、原電は1700億円を超える安全対策費を調達せねばならない。そのツケを払うのは国民だ。
 「原電は電気卸売業ですから、電力会社への卸価格に廃炉費用や安全対策費が含まれます。おカネが足りなければ卸価格に上積みされ、結果的には国民が電気料金の値上げによって負担することになります」(前出・伴氏)
 ボロボロの実家の解体費用を貯金していた男が、奥さんに黙ってそのカネをギャンブルに使ってスッてしまった。もはや解体できないので、すみません、リフォームするので国民の皆さんに払ってもらいます――こう言っているのに等しい。

人の道に外れてないか
 福島第一原発の事故の後、すでに東電は賠償資金として7兆7105億円を政府から受け取っている。
 このカネは、原賠機構を通じて支払われるため、一時的に政府が立て替え、最終的には東電や電力会社が負担することになる。つまりは電力料金の値上げによってなされるのだ。
 賠償資金だけではない。廃炉・汚染水への処理費用8兆円、除染費用4兆円、中間貯蔵施設の整備費用1.6兆円という巨額のカネは、すべて電力会社と国が負担する。
 合計21.5兆円と試算される事故関連費用は、血税と電気料金で、我々が支払うのである。ここに、再稼働の安全対策費が、さらに上乗せされていく。
 再稼働に向けたカネの使い放題、ちょっと人の道に外れているのではないか。だが5年前の民主党政権時代を思い起こそう。
 野田佳彦首相(当時)は「2030年代に原発ゼロを可能とする」目標を政府方針に初めて盛り込んだことがある。福島第一事故の後、原発の危険性を学んだ人たちの多くは、これに賛同した。
 だが、原発再稼働推進の安倍政権の気焔のもと、気がつけば「脱原発」ムードは風化した。現行のエネルギー基本計画では、「'30年代にゼロ」どころか「'30年に原発比率を20〜22%」に代わったのだ。
 「東海第二の20年延長は、3.11後に再構築された原子力規制のあり方を問う重要な論点を含んでいるのに、大きなニュースになっていません。表面的な議論しか展開してこなかったメディアの問題と国民の圧倒的な無関心がそこにある」
 こう語るのは、立命館大学准教授の開沼博氏だ。
 「国民としては、問題は何も解決していないのに、『まだその話か』『またか』となってしまい、カタルシスも得られない以上、関心を持たなくなってしまったのです」
 喉元過ぎれば再稼働。知らぬ間に、事態は進行している。3年前には福井地裁が運転差し止め判決を下したはずの大飯原発3・4号機に関して、11月27日、福井県の西川一誠知事が再稼働に同意した。
 その翌28日に経産省で開かれた有識者会議では、原発新増設を踏まえた議論さえなされた。東海第二のような20年延長を重ねたところで、'50年までには廃炉が相次ぎ、原発比率を維持することができない、というのだ。
 大飯再稼働には、世耕弘成経産相からの強い働きかけがあったとされるが、冒頭の経産省の最高幹部はどこ吹く風だ。
 「大飯の再稼働容認は、あくまで福井県知事の判断ですよ。あちらは地元経済活性化のため、原発立地交付金を満額もらいたいだろうし、そのために早く動かしてほしい。経産省は、あくまで再稼働しなければ電気料金は高いままになりますよ、というスタンスでした」
 現場はどうなっているのか。11月末、東海第二原発を訪れた。国道245号線を日立方面に向かい、原子力機構前の交差点を通過すると、この国道が拡幅工事中だと気づく。 しばらく進み右手の進入路に入ると、東海第二原発が姿を見せる。その先には、建屋を足場で覆われた東海原発が、紅白の煙突をのぞかせる。
 原電が第二原発内で運営する博物館「東海テラパーク」。女性スタッフに話を聞いた。

 ――20年の延長で、丁寧に検査しても、本当に安全なのかという声もある。
 「飛行機に乗っても車に乗っても、事故を起こすことがあります。でも乗るまでわかりません。100%安全だとは言うことができないんですよ」

 ――延長は必要ですか? 
 「お気持ちはわかります。福島事故後に、太陽光発電がグッと伸びてきましたが、価格の問題などあるようですし、これからのエネルギーを考えますとやはり必要なのではないかと……ごめんなさい。ちょっと失礼します」
経済より命が大事でしょ
 一方、原発3キロ圏内の住民たちは、総じて複雑な心境をのぞかせた。
 「もともと畑もロクにできず、何もなかった土地なんですよ。発電所が来たおかげで、大きな道路が通り、人がたくさん来てくれた。私たちが受け取ったものを、反対派の人は忘れてしまったのですか? (80代・女性)
 「福島の事故が起きてからは、やっぱり怖い。でも、ここから離れるわけにはいかないから、原発は安全な形で動かしてほしいです」(70代・男性)
 不安なままこの地で生活を続けていかねばならない葛藤のなかで、苦衷の表情を浮かべていた。福島第一原発の事故前、双葉町や大熊町で見られた反応と同じである。
 電源3法に基づく自治体への交付金のうち、大半を占める「電源立地地域対策交付金」は、いまだ年間約824億円。これが地方自治体への「原子力ムラ」のアメの一つとして使われている。
 だが、何度同じことを繰り返すのか。なぜ人々は原発再稼働に無関心なのか。宗教学者の山折哲雄氏は言う。
 「人間の欲望というのは、抑えることができない。なぜ地震大国でこんなにたくさん原発があるのか――西洋の知のエゴイズムにかぶれた知識人が、大衆を理解しないまま勝手に物事を進めている。
 福島の事故があっても、それは変わらないどころか、ますますはっきりしてしまった。原発政策はおかしいと思いながらも、政治には無関心を決め込んでいる層の『内なるもの』が表に出るような事件が起こらないと、もうこの国は変わらない」
 実質的に東電を「国営化」した経産省からすれば、無関心こそ、再稼働政策を推進する格好の鍵になる。「原発再稼働なくして経済成長なし」と、刷り込みを続けていきさえすればいいのだから。しかし、同志社大学教授の浜矩子氏はこう言う。
 「再稼働を牽引する人たちは『経済合理性』を主張しますが、経済合理性には『人々の人権、生存権を脅かさない限りにおいて』という前提があることを忘れてはなりません。
 事故が起これば、人権も生存権も侵害することを日本人は目の当たりにしたはず。なんのため、誰のための経済活動なのか、という地点から考え直さねばなりません」
 「原発」問題に飽きていた諸氏も、一歩立ち止まる時期かもしれない。
 「週刊現代」2017年12月16日号より

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