【記事58160】【社説】 新茨城県知事 「原発動かさず」尊重を(東京新聞2017年8月29日)
 
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【社説】 新茨城県知事 「原発動かさず」尊重を

 やはり原発再稼働反対の民意は重い。茨城県知事選を制した大井川和彦氏は胸に刻んでほしい。県民の命と暮らしを預かる責任者として原発とどう向き合うのか。「再稼働ありき」は許されない。
 安倍晋三首相が求心力の回復を期した内閣改造後、初めての大型地方選として注目を集めた。原発立地自治体の首長選びという性格も、併せて前面に出た。だが、活発な論戦が交わされたとは言い難く、残念だ。
 元IT企業役員大井川氏は、自民、公明両党の推薦を得て、現職橋本昌氏と、共産党が推薦したNPO法人理事長鶴田真子美氏を破った。
 もっとも、民進党は自主投票に流れ、中央での与野党対決の構図は反映されなかった。地方での激しい保守分裂の様相は、かえって安倍政権への不信と憤怒の根深さを印象づけたのではないか。
 なにより大井川氏は、七選を目指した橋本氏の多選阻止を唱えるばかりで、橋本、鶴田両氏が打ち出した日本原子力発電東海第二原発(東海村)の再稼働に反対する姿勢に対して、真正面から応えようとはしなかった。
 地元の関心が殊に高い原発について、トップとしての立ち位置を明らかにしないのでは、再稼働を推し進める政権の「傀儡(かいらい)」と批判されても仕方あるまい。
 大井川氏は「民意を吸い上げながら、県民が納得できるような形で進めていきたい」と語る。ならば、その民意を見てみたい。
 共同通信が実施した投票所の出口調査では、再稼働に賛成の声は三割程度にとどまったのに対し、反対は七割近くを占めた。さらに、橋本、鶴田両氏を合わせた得票数は約五十五万票に達し、大井川氏のそれを上回った。
 大方の民意は慎重と見るのが自然ではないか。その重みをしっかりと心に留めねばならない。多くの県民にとって、政治経済的な利害得失を超えた切実な問題だ。
 国の原子力災害対策指針に基づき、広域避難計画づくりを義務づけられる原発から三十キロ圏内には十四市町村がふくまれ、全国最多の九十六万人が暮らす。大がかりな避難を想定せねばならないこと自体が、エネルギー源として不合理極まりない。
 しかも、東海第二は来年十一月に運転期限の四十年を迎える老朽原発だ。電力事業者の原電は最長二十年の延長運転を目指しているが、人間の営みと自然を守るために不可欠とは思われない。新知事にはそのことが問われるのだ。

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