【記事78604】南海トラフ地震のカギを握る駿河湾(島村英紀2018年12月13日)
 
参照元
南海トラフ地震のカギを握る駿河湾

 今年はサクラエビがとれない。地元静岡の漁船は11月から出漁禁止になっている。
 漁業組合は自主規制を既に設けていた。とても厳しいもので、出漁漁船数を3分の1以下に削減、引き網の時間は10分以内、0歳エビが全体の3分の1以上の群れには投網しないというものだった。
 だが、それでもサクラエビが減って、漁が全面中止となった。全面中止は今回が初めてだ。サクラエビは「駿河湾の宝石」といわれ、日本では駿河湾だけしかとれないだけに、地元漁師にとっては大変な痛手だ。
 サクラエビ漁の歴史は古くはない。19世紀の終わりに漁師が、アジの網引き漁をしていたときに網が深く潜ってしまい、そのとき偶然に大量のサクラエビがとれたことが始まりだった。
 駿河湾は日本ではいちばん深い湾だ。深さが2000メートルを超える。陸から漁船で2時間も出たところにこんな深い海があるところは他にはない。たとえばドイツの領海は、いちばん深いところでも60メートルしかないから、陸からごく近いところでこんなに深いのは世界的にも珍しい。
 このため、どんな魚も豊富にとれる。浅い海の魚から、深い海の魚やサクラエビやタラバガニである。もちろんアジやサバやイワシなどの回遊魚も多い。このほか、ときどき上がってくる深海魚が大地震の前触れなのかと騒ぎになる。
 この湾が深い理由は海溝が駿河湾の中を走っているからだ。海溝の名前は駿河トラフという。
 海溝の東側には伊豆半島がある。伊豆半島はフィリピン海プレートに載ってきて、日本に最後にくっついた火山島なのである。約100万年前のことだ。それゆえ、伊豆半島は西側に駿河湾、東側に相模湾を従えている。
 駿河湾は、南海トラフ地震のカギを握っている。南海トラフ地震がここを東端にして起きるのではないかと思われているからだ。予想される地震の西端は足摺岬の沖か九州東方沖までだ。
 駿河トラフは南西方向に南海トラフ、そして琉球海溝にまで続いている。この一連の海溝からフィリピン海プレートが西日本の地下に潜り込んでいるのだ。このフィリピン海プレートの衝突と潜り込みが、南海トラフ地震を起こす。
 南海トラフ地震はいままで13回知られている。ひとつ「先祖」は2年おいて二つに分かれて起きた。1944年の東南海地震(マグニチュード(M)7.9)と1946年の南海地震(M8.0)だった。
 しかし、この二つをあわせても、歴代の「先祖」よりも小さかった。この地震の震源は、東端が遠州灘で止まっていて、なぜか、駿河湾に入ってこなかったのだ。
 このために地震エネルギーがまだ残っていて、今度来る南海トラフ地震は、もっと大きいのではないかと考えられている。げんに、遠い「先祖」である1707年の宝永地震は二つに分かれずに一挙に起きて、ずっと大きな地震だった。
 駿河トラフは、次の、つまり来るべき南海トラフ地震のカギを握っているのである。

KEY_WORD:NANKAI_:TOUNANKAI_: