[2020_02_07_04]県民の思い「福島ありき」に反発【復興を問う トリチウム水の行方】(下)(福島民報社2020年2月7日)
 
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県民の思い「福島ありき」に反発【復興を問う トリチウム水の行方】(下)

 東京電力福島第一原発で増え続ける放射性物質トリチウムを含んだ処理水の扱いを巡り、政府の小委員会は政府への提言で、処理水の処分に伴う放射線被ばくの影響は十分に小さいと指摘した。一方で、どのように処分しても「風評への影響が生じ得る」と結論付けた。
 トリチウムを含む水は国内外の原発などで平時でも海に流されている。フランスのラ・アーグ再処理施設では二〇一五(平成二十七)年のトリチウム排出実績が一京三千七百兆ベクレルに達した。現在、福島第一原発のタンクに保管されている処理水に含まれる約八百五十六兆ベクレルの十六倍だ。ただ、福島第一原発は「事故炉」であり、風評の火種がくすぶる。
 「復興が道半ばの県内で放出されれば影響は計り知れない。処理水が安全であるなら、政府は県外の原発などからの放出も検討すべきではないか」。浜通りの自治体の首長は「福島ありき」で議論が進むことに懸念を示す。
 県、市町村、農林水産業や観光業など各団体は風評と闘い続けている。だが、原発事故発生から九年近くが経過しても依然として根深い。小委員会は風評対策の徹底を求めたものの、具体策は示していない。相馬市の漁師安達利郎さん(69)は「新たな風評が生じれば県内産業は立ち直れない。政府は被災地の思いをくみ取るべきだ」と訴える。
 処理水の処分方針は、政府が小委員会の提言を踏まえ、地元などの意見を聞きながら時期や場所を含めて決める。政府関係者は「可能な限り幅広く意見を聞くつもりだ。軽々に判断を示せるものではない」と慎重な姿勢を示す。
 一方、東電幹部の一人は先月の福島民報社の取材で、処理水処分について「福島県から始めてはいけないとの声を肌で感じている」と答えた。東電内部からは県民の声に耳を傾ける中で聞いた意見の一つだとの見方が出ている。東電は政府の方針決定後も「正確な情報発信などの丁寧なプロセスを踏みながら適切に対応する」としている。
 東日本大震災と福島第一原発事故の発生から三月で十年目に入る。「福島の復興なくして日本の再生はない」と声高に訴えてきた政府、事故の原因企業である東電は、処理水の処分を巡り県民の声にどう答えるのか。突き付けられた課題は重い。
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